妹は公爵令嬢
自分で言うのもどうかと思われるかも知れないが私のスペックは所謂”イケメンに限る”を行って問題ない容姿とチートでは無いかと思われるほどの肉体スペックと頭脳を誇っている。
それもこれも前世の記憶を持って生まれて之までの人生において妥協をしなかったこともあるが何よりも恵まれた両親や社会的地位の高い公爵家に生まれたのが大きいだろう。貴族の教育だけでなく魔法に剣術などを望みのままに与えてくれた両親に感謝の気持ちでいっぱいである。
そんな私だがこれまで相思相愛の両親の元で一人っ子だった。父親の地位から言っても本来は第二夫人や妾などがいるのは当然の事なのだが、今年で25歳の母の美しさを見れば納得できると云う物。私でもこの母を妻にして第二夫人は別にして妾など持とうなどとは思わない(正直貴族としては間違っているのだが私の身に何かあればどうする心算だったのかと思う)だろう。
そんな心配も今日終わった、正直兄弟は子供の頃から欲しかった。だが之ばかりは生命の神秘望んだと言えど生まれるとは限らなかったのだろう。だがお陰で10歳の年の差は開いたが、そう……
妹が出来たのである。
――時は流れて10年後――
我が愛する妹が入学する学園へと到着し馬車から降りてくる。
「お嬢様此方へ」
「ええ」
うむ、可憐だ。
「クリスティ、ヒィ」
我が妹の名を呼ぶとは(男子学生)貴様何様の心算かと視線で問えば黙り込む妹の学友。
「クリス、おはよう」
「おはよう、メル」
うむ、流石リードベルト公爵家のご令嬢、我が妹の学友としてだけでなくお茶会に招いて戴いたりと公私に亘って仲良くする親友だな気品のある態度といい申し分ない。
「セバスチャン様もおはよう」
「おはようございます、お嬢様」
「もう!、メルと呼んで下さいませと何度も申し上げておりますのに」
ちょっと顔を赤らめつつも拗ねた様子でそう言って頂くのは本来間違いではない、だが今の私の立場では間違いである。
何故かって?
当然だろう、今の私はセバスチャンであってミハイルではないからである。
ではミハイルは世間的にどうなっているのか、簡単な事、留学中になっている。更に常に魔法によって認識を阻害させている。私を見た事がある者であってもミハイルであると認識は出来ない、まあ両親は別なのだが。
我が愛する妹が7歳の社交に出かける際にあった襲撃事件。母が撃退したがその際に1人の従者が亡くなっている。私は既に学生を卒業する年齢であったがあの時程悔やんだ事は無かった。我が父(宰相)に対する逆恨みによる犯行。これで我が妹は心に深い傷を負ってしまった。
そうなれば兄たる私が妹を守ることなど当然の事。
100人程の襲撃なら私1人いれば済む話。手段を問わず生死も問わないのであれば1000人でも10000人でも掛かって来いである。
「ではお嬢様、私は別室に控えておりますので」
「ありがとうセバスチャン、行って参ります」
優しい妹である。従者である私に声を掛けるとは……教室の中までは流石に入らないので従者の控え室で待機する。本来同い年の従者をつけたり下位の貴族の子供などを付き人とするのが一般的とされる。当然擦り寄ってくる貴族などもいるので勿論却下。幸いにも我が妹の友人の子女の中に私の配下を付き人として従わせている。当然だろう? 女生徒でなければ入れぬ場所も存在するのだから。
私も対外にチートであると自分を認識しているのだが我が父である宰相も大概にして頂きたいレベルでのチート野郎だった。それ故に敵は事欠かない。実際の所母もチートスペックの魔法使いであり我が家の中で唯一まだ成長過程で狙えるのは愛する妹ただ一人。
「若、本日の報告は以上です」
「ご苦労、しかしその若というのはどうかと何時も思っているのだが……」
少々顔を顰めつつ目の前の師匠に文句を言ってみる、まあ無駄なのだが。
「フフフ、若は若で御座います」
執事の師であると同時に護身術並びに様々な戦闘技術の師匠であって且つ我が家の家令である。控え室に向かうとそこは私の前線基地となった政務室になっている。日々領地関連の指示から敵対貴族の対策まで此処で行っている。他の従者はどうしたって? 全員部下に決まっているだろう。
「爺には負けるよ……」
流石この組織の運営を任せる事のできる人物であり幼少の頃より私を守ってくれた男である、頭が上がらん。
「しかし、この報告は我が家ではないがリンベスト家の令嬢が危険かもしれんな」
「左様ですな少々きな臭く感じます、多少ですが御館様の政策による影響もあるかと」
「反対派の連中が我が家ではなく協力的な貴族を狙う事はありえるが、襲撃計画など卑劣だな、潰すぞ」
「畏まりました、ではいつもの通りに?」
「包囲が完了したら動こう、態々現行犯の所を救うのもどうかと思うのでな」
「お優しゅう御座いますな」
「判っていて言うな、目立つのが嫌なだけだ」
「ホッホッホ、覆面貴族の登場を令嬢は待ちわびて居られますが?」
クッ、幾たびかの事件において魔法だけで素顔を晒す危険性を回避する為に用いた戯れがまさか此れほどまでに精神を削ってくるとは……ちょっとゾ□のネタからやってみただけだと云うのに。41人の盗賊団の殲滅とか女性を狙うナイフ使いの殺人鬼討伐とか夜な夜な現れた辻斬りの貴族を捕縛したりとか……まあ噂になる程度の活躍はしてしまっているか……不正を働いている貴族や役人を処断したのなんて数え切れないし。拙いこれが黒歴史と言うものか!?
いや落ち着こう幸いにもこの行動自体は宰相である父だけでなく国王からも承認を得ている、よって問題は無い!
ナイヨネ?
「ではプランAで、但し其の場合令嬢の安全が最優先だ」
「確実な証拠となりますれば背後の敵も確実に仕留めれましょう、ご令嬢の安全については私が担当致しますれば」
「それで頼む」
「では次の件ですが……ちと厄介でして」
「爺ほどの人間が厄介というのはどんな案件だ」
爺、アルフレッドが厄介だと表現するなんて余程の事じゃないかと身構えた。
「そうですな、案件自体は護衛という簡単なものなのですが」
「ですが?」
「問題は其の相手と依頼主」
「この組織に依頼するのだからそれなりの人物なのだろう」
自分で作り上げておいてなんだが可也特殊な組織だからな。
「はい、護衛対象ですがお嬢様と同級生になられるお方でして、依頼主は王家でございます」
「まて、王家からの依頼だと」
「はい、ルーシー・ハモンド嬢が来週からこの学園に通うので護衛の依頼で御座います」
「ハモンド家にそんな子女が居たか?」
「いえ、居られませんでしたな」
「訳ありということか」
「はい、不確かな情報であれば御座いますが」
「ふむ、本来なら王家からの依頼だ、藪をつつく必要も無いだろうが慎重を期すためにはどのような人物なのかは知る必要があるな私自身で確かめよう、後を頼むぞ茶の時間までには一度戻る」
「いってらっしゃいませ」
む、またもやあのチャラチャラ公爵の息子がわが妹に近づかんとしている。
「爺、監視の魔法の権限を一時預ける、またあの馬鹿が近づこうとしているようだ懲らしめておいてくれ」
「ホッホッホお任せを」
下らぬ伝統だと思うのだが学園のさ七騎士というのが存在する、これは私の居た頃よりも遥か昔から存在するらしく斯く言う私も其の一人に数えられてしまっていた。他薦のみのこの呼び名、はっきり云って黒歴史だと思うのだが如何なものか。剣も魔法も存在するファンタジー世界だからか二つ名や別称が平然と存在するのだ、私が在籍した当時でも騎士という名よりも外見重視で選ばれていた風潮はあったが(私がいたからかチャラチャラとした軟弱な者はそう呼ばれていなかったのだが)現在学園の七騎士は6人(ああ、黒騎士は私で永久欠番になっている)其のうちの一人が先ほどの金髪である、名前はなんだったか……思い出す必要もあるまいチャラチャラ公爵子息で十分だ。
数日に亘るハモンド家の調査で判明したのはまずルーシーが実子でないこと。当然だろう、彼女は王族であった。現在の王の王弟だったフィリップ様の形見だと判明したのだ。判明したというのも変かも知れない、というより我々の組織で元々護衛していたのだから当然である。どこで王家が其の存在を掴んだのかまでが判明しただけだ。故フィリップ殿下と宮廷に勤めていた男爵家の女性との間にできた一子であり我らが此れまで守っていたのだから。
非常に面倒な事になったとしか言いようが無い。いっそ正式に王家の娘として迎えて頂きたかった。中途半端にハモンド家に保護させた上に学園に通わすとは……父上もご意見申し上げたようだが王の独断専行でいかれたようだ。致し方ないが今後の問題にならぬように工作を進める他無いだろう。
これから6年間に及ぶ学生寮の生活において万全を期すほかあるまい。今年の生徒には皇太子殿下を含む王族の方もいらっしゃるのだから。
これはシスコンでありながらもハイスペックな実兄が妹を見守る為に秘密組織を立ち上げ、自らは執事と覆面騎士として活躍した物語と思わせておきながら実は乙女ゲーの原作世界へと転生した隠し攻略対象キャラクターが主人公キャラクターを含む登場人物と織り成した物語。
後世にはこう伝わっている、ミハイル・フォン・ウェインは全てを知る宰相であったと。