ツンなあの子の好感度
俺が "イカれた社名だが良質な運営" ということで話題となっているオンラインゲーム「銀河系YAMATO」を始めたのは三か月前の事だ。
YAMATOという銀河系を舞台にしたシミュレーションRPGゲームである。
銀河系というくらいなので舞台は宇宙で、それこそ宇宙戦艦でドンパチやるゲームなのかと思ったが、初めてみたら剣と魔法の正統派なファンタジー要素を持ったゲームだった。
誰だ銀河系とかタイトルにつけたやつ。タイトル詐欺だろう。俺はそう思ったが、きっと結構な人らがそう思ったに違いないと俺は思っている。
ゲームの主目的も特に設けられておらず、あえて目的を上げるとするならば国の発展と治安維持への貢献あたりだろうか。
いいのかそんなんでと、これまた誰もがプレイする前に思ったことだろうが、プレイし始めてしまえばダンジョンに潜って敵と戦ったりお宝を見つけたりする事自体が楽しいので、あまり設定を気にしなくなっていたりするのだから、別にそんなんでいいのだろうと今の俺は思うようになったが。
ユーザー達はそれぞれ自分たちのやりたいプレイスタイルで楽しんでいて、俺はそのプレイスタイルの中で最も割合の多い「ダンジョン攻略型」というプレイスタイルに属する楽しみ方をしている。
この他にも「貿易都市発展型」「都市開発運営型」と呼ばれるプレイスタイルもあるが、全体の割合的にこのプレイスタイルのユーザーはあまり多くない。
剣と魔法のある世界で、ロマンを求めて冒険の旅にあえて出ない人間の気がしれないというのが俺の感想。
さて、ダンジョン攻略型と呼ばれるプレイスタイルは至ってシンプルだ。
主目的は各国にあるダンジョンの攻略とお宝発見である。
現在解放されている国は「エチゴ」「ムサシ」「イセ」「イズモ」「トサ」「サツマ」の六つで、俺が拠点にしている国は「イズモ」だ。
イズモには陸地が無い。
海の上に立つ巨大な神殿と、それを囲うようにして造られたいくつかの建物と、大小ざまざまある船を連ねてできた道で構成されたものを都市と呼んでいるため、惑星という単位で国としていなければ、そもそも国として存在していないのではなかろうかという国である。
そんなイズモの国唯一の道具屋に、ツンデレ予備軍っぽそうな看板娘がいる。
どの国にも冒険者ギルドが運営しているという設定の酒場と武器防具屋と道具屋が必ずあるのだが、その道具屋には必ず看板娘なるものが存在している。
簡単な話が、ダンジョン攻略やイベント攻略の手助けをするという位置づけのキャラクターが、道具屋の看板娘なのだ。
それゆえに、この看板娘キャラには好感度というものが存在している。
好感度を上げることにより質の良い情報を提供してくれるようになるのだ。
別に道具屋の看板娘に限らず、同じ位置づけのキャラはほかにも沢山存在しているのだが、個体差による情報の質や恩恵はそれほど多くく違わないので気に入っちゃキャラの好感度を上げようと思うのは普通だろう?
そんなわけで、資金が増え始めてダンジョン攻略の進みを良くしようと考えるくらいには余裕が出てきた今、ビジュアルとあふれ出るツンデレ予備軍具合に興味をそそられ、道具屋の看板娘の好感度を上げようと頑張ってみたのだが――――。
「ぜんっぜん好感度が上がってる気がしない!」
キャラクターに対する好感度は周囲のキャラクターの話などで、大まかにどれだけの好感度なのかがわかるような仕組みになっている。
大抵はキャラクター同士の関係性で、近しい関係の人物のセリフから好感度はわかるようになっているのだが、この国にいるすべてのNPCに聞きまわっても、好感度が上がっている雰囲気のセリフがこれっぽっちも出てこない。
「好感度を上げるには常連になるくらいじゃそうそう上がらないもんなのか?」
好感度の上げ方には個体差があるらしいとは聞いているが、この子の場合の好感度の上げ方はいったいなんなのかがさっぱりだ。
「とりあえず、掲示板にでも質問書いてみるか」
ゲーム内掲示板に質問を載せてから二日後。
ついに実のある回答が返ってきた。
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【質問】
イズモにいるツンな道具屋の娘っ子いるじゃん?
ツンな子がデレるの好きだからあの子の好感度あげてみたいと思っていろいろやってるんだが、全然上がらないんだよ。
どうすりゃ上がるか知ってる人いたら教えてくれ!
【回答】
店の常連になって、それから高価な宝飾品を何度か貢げばいける。
貢ぐ宝飾品の価格は一個あたり十万以上で十~十五回程度渡せばいい。
ほかの娘っ子よりも貢ぐ金額は断トツで高いが、見返りも大きいのが魅力的ではある。
だがお前が期待するツンデレはきっとない。あるにはあるが、お前の求めているのとはおそらく違う。
やりたきゃいろいろ覚悟してやることだ、と言っておこう。
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「多少お金に余裕あるくらいで好感度上げとか馬鹿なの? 死ぬの? レベルかよ! ツンツンどころか鬼畜じゃねえか!」
現在俺がダンジョンに一度潜て得られる利益は三万円。これは一般的な利益をやや下回る程度なので、それほど悪いわけではない。
武器防具の修理、必需品の買い足し、宿屋の宿泊代にスタミナ回復のための食事代で五千から一万五千円程度の出費が必ず出るので、手取りとしては一万五千円となるわけだが、もしこの一万五千円を定期的に積み立てていき好感度を上げる宝飾品を買って渡すためには、六十回以上はダンジョンに潜らなければいけない計算になる。
これはひどい。
「ちょっと気になることも書いてあることだし、これは諦めだな。もっと攻略しやすいキャラを探したほうがきっと良い」
貢ぐためにダンジョンこもるなんてナンセンスだ。
ロマンあっての冒険、それでこそ楽しめるってもんだ。
「しっかし、この回答くれた人は好感度上げに成功したんだよな? 凄い資金力ある人なんだろうことはわかるが、しかしいったい好感度あげきった後に何があったんだろうか……」
その疑問が解決したのはそれから二か月後の事だった。
なんだが豪勢な甲冑を身に着けたごつい容姿のプレイヤーが、道具屋のカウンター前で両手両膝をついて絶望している姿があった。
「いつかデレてくれると俺は信じていた。ああ、信じていたとも! 事実デレてくれているのだろうことは理解できる。だがしかしっ!」
俺は絶望しているプレイヤーの目の前に立つ道具屋の看板娘と思われるキャラクターに目を向け、あの時の疑問が解決したのだった。
普段のツンとした口調はどこへやら、とても甘い雰囲気を漂わす口調に変化していた。
甘い、甘すぎる! 実にかまってあげたい気になるよコレ!
そこにデレている顔があればの話だが
「そんなにデレた時の顔を見せたくないのか!?」
ツンなあの子はデレると首から上がなくなるようです。
「出てこい運営! 俺の夢を返せ畜生がぁあああああ!!」
【運営からのおしらせ】
こんにちは。運営のキチガイです。
イズモの国の道具屋の看板娘さんは大変テレやさんなためか、デレている時の表情を誰にも見せたくないがゆえに首を自ら飛ばしてしまうと、娘さんのご家族の方々よりご相談を受けました。
このままでは道具屋の売り上げが落ちるかもしれないと、真剣にお悩みのご様子なので、現在、我が社から担当者を派遣し、娘さんの説得にあたっております。
ですが、未だ説得には応じていただけていないようで、未だデレると首を飛ばしてしまうようです。
説得におおじていただけた際には、ご贔屓されている方々にいち早くご連絡させていただきますので、もうしばらくお待ちください。