前途多難
戦争なんて遠い昔話。
ある程度平和な城内で事件が起きた。
歴代きっての切れ者魔王陛下ルシオン=ガーデーン。
どうやら恋をしたらしい。
一部の者しか気付いてないが色恋に1ミリも興味がないと言われて早数十年・・・。
やはり事件なのだった。
一目惚れの瞬間を目の当たりにした歌唱士ウィンウッド=ベルレーヌは語る。
「あんなにわかりやすく人が恋に落ちる時に遭遇するのは稀だ。ルシオンだから余計に驚いた。」
少しにやけながら語るが友人の恋には早くも応援モードである。
どうでも良い捕捉だが、その場に同席していた剣術士ティナ=ユーゴーは何も気付けていない。
恋をした相手はフェルディナンド=マゼラン。
赤から橙色にグラデーションした髪色、ちょっと猫目な橙の瞳の男性にしては小柄な新米兵士。
色んな意味で期待の新人となったのを当の本人は知らず、極々一部で有名人だった。
主にはウィンウッドの中でと言うべきだろう。
そんなルシオンは只今写し鏡でフェルディナンドを観察中。
軽くストーカーちっくではないかと心配しながらも見守り続けている宰相エンヴィー=フロイト。
「ルシオン様・・・参考までに申し上げますわ。プライベートの侵害ではないですか?」
「そ、そんな事・・・。」
「政務もこなされてから直にお会いに行かれれば宜しいでしょう。」
エンヴィーはにこやかに正論を突き付けてくる。
「・・・直には勇気が必要だ。」
何時も笑顔をもっとうにしているエンヴィーの笑顔が一瞬ひきつる。
過去の激務をこなし戦地へ赴きは圧勝をした魔王陛下の言動とは思えない。
「取り敢えず、写し鏡を私用で使うのは禁止しますわ。」
蒼白になりながらも頷くルシオンが直接フェルディナンドに会いに行ける日はいつになるのだろうか?