The Truth
昼、理事長室――――。
ダズは今朝、急に聞かされた“超人”というものについて倉橋に問い詰めるために理事長室を訪れていた。倉橋はまだいない。そろそろ来るはずである。
あのあと二人を放し、その後は特に目立ったことは何も無い。てっきりまた喧嘩を始めるのではないかとダズは冷や冷やしていたが、その様子も無く昼まではダズもゆっくりとした時間がすごせた。ダズは喧嘩のあと何度か倉橋に電話をかけ、探し回ったがどうやら学校にいないようだった。しかし、昼前に倉橋から突然電話がかかってきて集合をかけられたのだ。
ただ待つことに倦んだダズは座椅子から立ち上がり部屋を一目すると、倉橋の机の上に妙な紙があるのを見つけた。いや、書類はたくさんあるのだ。妙、というのはそれ一つだけメモ用紙ほどの大きさであること。そして真っ黒いことである。
「ヤアヤア、遅れてごめんねーっと」
突然部屋に入ってきた倉橋に、ダズは紙を取ろうと出していた手を引いた。
「……待ちくたびれた。さぁ説明してもらおうか。今朝のが何なのか、そして俺に何をさせるつもりなのかを」
倉橋はダズの顔を一瞥して、自分の机の上を見た。そして一瞬、妙な表情をした。
「おい、聞いてるのか」
ダズはなんとなく倉橋の視線を机の上から離したくて、彼の考えを遮るように言葉を発した。倉橋は僅かに訝しげな表情をしたが、いつもの笑顔にもどって言った。
「ハハ、まあ座ってよ。説明するから」
この部屋の間取りは以下のようになっている。大きさ十三畳。奥の窓際に理事長専用の贅沢な机があり、手前には来客者用の低いテーブルにソファが二台。両脇には戸棚があり、中には生徒のトロフィーや倉橋の趣味か木彫りの置物などが置かれている。そして奥には事務室に続く扉と反対側にもう一つ扉。ダズは来客用のソファに勧められた。
「じゃあ、そうだね先ずは……」
倉橋の口から聴かされる事柄にダズは衝撃を感じざるをえなかった。
事の始まりは80年ほど前になるか。世界大戦真っ只中のとある国が行なった研究がはじまりだ。その当時強力な毒ガス開発された。そいつはその国に深刻なダメージを与えてな、その国のマスクではなす術がなった。しかし、実験中に人体の持つ機能の一つにそれを解毒する役割があるとわかったのだ。そしてその国が考えたのは、人間の遺伝子改造。その毒の抗体をもった改造人間を作ることさ。実験は一部のみ成功した。記録によると100人の検体のうち1人だけだったらしい。しかし、成功は成功。味をしめた研究部は次なる戦闘用の製作に着手した。
戦闘用とは文字通り、人体の能力を高めた改造人間で戦場に投入される計画だった。しかし研究の結果が出る前にその国は大規模な侵略を受ける。その最中に研究は炎の中に消え去ったと思われた。が、その研究内容は海を越えた先、アメリカに渡り生きながらえていた。それはアメリカの犯罪組織「RATT」の手にあった。
「RATT」とはアメリカで暗躍していた、過激派武器商の一大グループだ。当時から悪い噂は多く流れていて国際的にも危険視されていたのだが、彼らの起こした大事件の一つは“フト紛争”。これは表向きは政府側の警官隊による誤砲がもとだと言われているけど、実際は「RATT」の工作によるものなんだ。そしてレジスタンス側に大量の武器を売っていたことが分かっている。
こいつ等はその研究を独自に完成させてしまった。目的は戦争の“種”をまくためさ。戦闘用を世界にばら撒き世界に混乱を起こそうとした。そしてその戦闘用についた名前が『超人』だった。
しかしこの計画は思わぬ形で失敗した。「RATT」の幹部であり、『超人』開発を担当していた男が離反したのだ。そして詳しいことは分からないが、それに伴なって起こった混乱によって「RATT」の大部分は機能を失い失墜した。
そして大事なのはその後だ。さっきも言ったとおり、超人とは詳しく言えば遺伝子組み換えされた人間のことだ。「RATT」の混乱にあわせて、超人の遺伝子はアメリカ中に散らばった。だが、政府や超人を良しとしない人々の尽力によって、世界に影響を与える前に何とか回収し除去することが出来た。問題はここから。まあ、察しのとおり全て駆除されていなかったんだな、これが。一部が戦後の日本に渡ってしまい、以降20年間それは知られないままになってしまったのだ。
20年後、ある男の来日によってその存在が表立った。かつて「RATT」を離反した男だ。奴はここの初代理事長『倉橋善三郎』にあって一連のことをすべて打ち明け、助けを求めてきたのだ。
「ちょっと待て。倉橋って、その初代の子供なのか?」
「そうだよ。僕は三代目で善三郎は父方の祖父さ。まあそれはどうでも良いから、説明に戻るよ」
奴が話した内容はこうだった。“君の国には悪魔の遺伝子が生きている。全てを無くさなければならない。それが我等と『・・・』の義務だ。「RATT」の生き残りに気をつけろ。私が出来ることはやった。これからを任せたい。私では今を変えることが出来ても、未来はどうにもならない。これに…ここに全てがある。未来を守るために必要なもの全てだ。”そう言って小さな袋を手渡し、足早に立ち去った。その後、彼の消息は分からないが、彼がどうなったかは言うまでも無いだろう。袋の中には鍵の束と一枚のメモが入っていた。メモには手書きの地図とただ一言『健闘を祈る』とだけ書かれていた。
そこまで話して、倉橋は茶を口に含み一息ついた。ちなみにダズは事の大きさに少し混乱していた。そして、倉橋が何故事前に話さなかったのかを悟った。はっきり言って、今朝の事実と現実を見ていなければ信憑性は皆無の話だ。数日前にこんな話をされていたら、ダズは無駄に混乱したことだろう。そして、言葉だけで状況を表面的に理解し、もしかしたら大惨事になっていたかもしれない。
「微妙な顔をしているけど、大丈夫かい?考えはついていってる?」
倉橋はダズの顔を覗き込んで、にっこりと笑った。
「なんとか」
「そう、なら続けよう」




