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meet③

 神代と出会った翌日――――。

 警備員室7:10。ダズは監視カメラのモニターを見ながら大きく欠伸をした。

 警備員は起床が早い。朝が最もすることが多いのだ。起床して身辺を整えるのは5:30までに、そして6:00までに教室などの鍵を一斉に開け6:00丁度に正門を開く。部活生が来るのでグラウンドやテニスコートなどを開き、先生が来る前に職員室も空けて軽く掃除、これを6:40まで。そしてそこから9:00くらいまでモニターを使って、登校してくる生徒たちを見守る。これが朝しないといけないことの全てだ。掃除などには清掃員(幸子さん他)なども居るのだが、朝だけはダスティンがある程度受け持っている。ちなみに今のようなモニターを見てるだけの時間が一番疲れる。とにかく眠いし暇だからだ。しかしこの朝は少し違った。

 ダズが眠気眼で画面を見ていると、正門を映している画面内に人が集まってる。身体を乗り出し、よく見てみるとどうやら喧嘩か何かのようだ。トラブルと言うことで、一応倉橋に連絡を入れる。

「ふーん。悪いけど収めてきて。これも仕事の一つ」

「教師の仕事じゃないのか?」

「うちの先生はこういうの面倒臭がるから」

 仕方なくダズが行くことに。しかし正直な話、朝のこの時間帯は話したとおり暇なので満更嫌でもない。

 ダズが正門前に着く頃には2・30人の生徒が集まっていた。後方にいた女生徒に何事か尋ねた。

「生徒会と部活生の衝突ですよ」

 女生徒はいつものことだと言って笑った。よく見ると周りの生徒たちも深刻そうな表情ではなく、皆どちらかというと呆れているような表情である。

「会長と大部長がライバル関係なので、その傘下の生徒も敵対しているんです。それでたびたび衝突が。けど、多分そろそろ……」

 急に後方から黄色い歓声が上がる。見ると、校舎のほうから一人の女生徒が歩いてくる。

「彼女が生徒会長の立花美里様です。そして……」

 次はグラウンド側から歓声。しかしこちらは例えるなら人気プロレスラーの入場時のような熱のこもった歓声である。

「彼女が部活連盟のリーダー、大部長の秋月理江様。二人はこの学校でそれぞれの派閥を創って抗争を展開しているんです。二人とも1年生のときにそれぞれの役に御就きになられたので、もうこの抗争も二年目、今年の冬までに決着をつける気じゃないですかね」

 二人は互いに近づき喧嘩していたものたちの前で睨み合う。生徒会長は人を見下すような嘲りの笑みを浮かべ、大部長はそれを受け流すかのごとく、静かで心をひそめた無表情。

「今回の衝突の原因はそちらにあるようね。そこの写真部の面々に」

「……」

「何でも校門前で無許可で撮影してたと。それを注意する、つまり秩序を正すべく動いた役員たちにそこの三人が噛み付いてきたらしいわよ」

「……事実か」

 大部長が後ろの写真部に問うた。

「だ、だけどこの写真は学校新聞で使うもので。それにそっちだって……――――ヒッ!」

 大部長は無言の圧力をかける。表情は無く特ににらまれたわけではないが写真部は縮こまった。

(武道家だな。あの圧は素人に出せるものじゃない)

「立花の言葉が事実かどうかだけを聞いている。問いに答えよ」

「え、あ、はい。間違いありません……」

「ふむ。役員よ、状況を詳しく説明せよ」

 生徒会長は自分の後ろにいた役員に目配せし、一歩後ろに下がった。

「説明と言いましても、我等の注意に彼女たちが反抗しただけの事。他は何も」

「事細かに説明せよ。写真を撮っていて君たちに警告を受けたこの子達の手に撮影機具が無いのはなぜだ」

「うっ……それは――――」

 役員の一人が正門横の草むらに目配せした。ダズが視線の先を追うと、草の陰に何か光るものがあった。もしかしなくともカメラのレンズだろう。つまりカメラはいざこざの中で放ってしまったか、わざと役員が投げたか。どちらにせよ部活組の反撃の口実になることは間違いなさそうだ。

「と言うことらしいぞ。どうする理江」

 生徒会長に視線を移して言った。生徒会長は大部長を少し睨んだが、すぐに平静を装い言葉を返した。

「痛みわけね。私たちで決着をつけましょ」

「そう来ると思っていた」

 大部長は初めて僅かだが笑みを浮かべ、背からグローブを取り出した。グローブといってもボクシンググローブのようなものだ。いや、それより小さく、キックかMMAのものかもしれない。

「秋月様は総合格闘技部の部長で去年プロになられたんです。立花様は部活には所属しておりませんが、骨法の継承者でその達人なのでやはり強い。御二方はこうしてよく決闘をなさるのです。今の戦績はどうでしたっけ、誰かが記録してました」

「ええ!決闘!?」

 二人はそれぞれの構えを取り、お互い見合っている。

「あ、止めようとか思わないほうが良いですよ。あの方たちはまさに“超人”ですから。痛い目見ちゃいますよ、って貴方も良く見たら凄そう。日本語うまいけど日系の人?」

 闘いはいきなり始まった。火蓋を切ったのは秋月のミドルキック。しかし立花は難なくそれを手のひらで受け流す。そしてそのままの勢いで懐へ。掌底の構えをとる。

「……何だ?これが日本の高校生?スケールが違うじゃないか、本当に人間業じゃないよ」

『PPPPPPP』

 ダズのポケットが震える。倉橋からの電話だった。

『どうだい、僕の生徒たちは?そろそろ見ることが出来ただろう』

「はは、一体何なんだ。世界が広すぎらぁ」

『ここの裏の顔は超人育成学校。15人の超人を保有し、全ての生徒はその素質を持っている。奮闘してくれたまえ。ここの仕事はやりがいはあるが少し(・・)厳しいぞ。君の本当の意味での初仕事は目の前の喧嘩の仲裁だ。気張っていってくれ』

 言いたいことだけ一方的に言って電話は切れた。目の前には激化する闘い。仲裁をしなければならないらしい。

「割に合わない。初日から賃上げ要求をすることになるとわな。クソッ、仕方ないけど止めるか」

「ちょっと、お兄さん!本当に割り込む気!?」

 ダズは周りを囲む女生徒達の間を割って、決闘の行われている中央へ歩みを進める。ダズが決闘に割り込もうとしていることに気付いた生徒たちがざわめく。

「何あのでっかい男。まさか決闘に割り込む気?」

「そんなことしたら殺されるわ。誰か止めなくて良いの?」

「ちょっとかっこいいかも……」

『ざわざわ』

 反応はさまざまだが決闘に割り込むことは歓迎されていないようである。そんな視線を感じながらもダズは中央へ向かう。そして野次馬の最先端、二人のほんの5m前まで来た。しかし二人はダズに見向きもしない。

(なるほど。俺など眼中にないと。仕方ない割り込んで捕まえるか)

 ダズが二人に近づき、手の届く距離にまで来た刹那。ダズの視界は暗くなった。同時に腹部に衝撃。

 二人が決闘のさなかダズの気配を感じ本能的に出した攻撃だった。しかし、ダズに攻撃しつつも二人の集中は相手に注がれている。彼女たちはダズを一瞥もしなかった。近づいてくるのが超人で無いと判断したからである。

 しかし、それはおこがましい油断だった。

『ダズ。お前も格闘家になるならば、生涯で幾人もの勝てない相手が出てこよう。勝てないのはしょうがない。上には上がいる、それが世界だ。だが、負けることはするな。勝てない=負け、では無い。勝てなくても負けるんじゃない。それを念頭に置き日々精進せよ』

「今までそうして生きてきた。今更ながら父に感謝しよう」

「――――――!?」

「――――――!?」

 二人がダズを始めて視界に入れる。だがもう遅かった。

「よっと」

 ダズは二人の背を掴んで持ち上げる。50kgほどの二人の身体はいとも簡単に片手で持ち上がった。

「――――ちょっ、何っ!?離しなさいよ!」

「――――――……」

 何とかダズの手を逃れようともがく立花に、驚愕の表情で固まってしまっている秋月。そんな正反対の二人を見てダズは軽く笑った。子ども扱いである。

「うそ、お二方が……」

「こんなにもいとも簡単に。あの男何者?」

「はぁん、なんてたくましい殿方なの」

 周囲がざわめく。皆、ダズに畏敬のまなざしを向けている。

 ダズは両手の二人の少女に向かって言った。

「ここで警備員として働き始めたダスティンだ。俺の仕事は学園の警備と君たちの監視(多分)であるので、今日からよろしく」

 立花は怒ってそっぽを向き、秋月は変わらず驚いたままだった。

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