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meet②

 ダズは急ぎ正面玄関へ向かっていた。二十分後に来いと言われていたのが、何だかんだと手間取って遅れてしまったのだ。

「――――いっ!?」

 窓から、正面玄関に高級そうな車が止まっているのが見えた。完全に遅刻である。ダズは階段を三段飛ばしで降り、全速力で廊下を走った。頭の中にあるのは最悪のパターン。流石に二度失業してしまうと、ミキにあわせる顔も己の自信もあったもんじゃない。

「ハァ…ハァ…。あーあ、やっちまった…」

 泊まってる黒塗りの車。しかし、もちろん人は乗っておらず、また近くにそれらしい人影も無い。ダズはその場にへたれこんだ。

「ああ、だめだこりゃ。はあ……神よ無職がまた一人増えたぜ。助けてくんねぇのかね」

「――――何を助けて欲しいの?」

 半ば諦めからひとりでに出た言葉に返事があった。背後から、しかも少女の声で。

「うん?」

 肩越しに後ろを覗くと、妙な髪の結び方をしたショートヘアーの少女がいた。学園の制服は着ていないが、ここにいるということは生徒なのだろう。

「わ、すごい。かったい」

 彼女は不意にダズの背中を指でつついてそう漏らした。ダズは振り向いてたずねた。

「君は誰だい?」

「かったい硬い♪でっかいでかい♪」

 少女はダズが振り向くのにあわせて背後に回り、しつこくも背中をつつく。リズムに乗り、歌を歌いながら、一定の拍子でつついている。

「……ちょっと君。一体何なの?」

 面倒だったので振り向くことなく問うた。

「何は貴方。何を助けて欲しいか聞いてない」

「え?……ああ。けど何で君に言わなきゃいけないんだい?」

「聞いたのは貴方」

 ダズは首をかしげて『俺が聞いたのは‘神’にだったんだけどな』と思った。

「ま、良いか。そうだな、俺は今の状況から助けて欲しいな。いや、まあ自分が悪いんだけどね」

「今の状況?」

「俺のステータス上で、失業回数が1回から2回に変わるかどうかの瀬戸際なんだよ」

 ダズは軽く肩を落としながら言った。

「失敗した?首切られるの?」

 傷心中の人間に対して、なかなか残酷な言葉を容赦なく浴びせるものだ。

「はぁ……ダメだ。1~2年前の自分は、近い未来にこんな落ちぶれるとは欠片も思ってなかったろうな。これからどうすっかな~」

「前の仕事は?」

「えっ…前の仕事?俺のかい?」

 急に話題が変わったので、わずかに思考が付いていかなかった。

「うん。そう。だって昔は成功してたみたいに言うから」

「ああ…まあ、そうだな。成功してたと思うよ。ブレイクしたのは2年前だな。懐かしいぜ、あの頃は自信に満ち溢れてた」

「何の仕事?」

 ああ、そうか。ここはアメリカじゃないんだ。俺の顔を見ても誰だかわからないんだな。

 日本に来てもう半年近く経ったが、今更ながらに自分はもう有名人ではないということを、ダズは初めてハッキリと感じた

「プロレスラーだったのさ。アメリカでもトップスターのな。日本じゃあもうあまりプロレスの人気は無いようだが、アメリカでは多くのの子供たちがプロレスラーを将来の夢に選ぶほどポピュラーなんだよ。俺が所属していたのは、数多くの団体でも圧倒的な大きさと人気を誇る『USP』だった。有能な若手の入団で急激に力を伸ばしたのさ。そして、俺もその若手の一人だった」

「なのに失業したの?」

「ハッハッハ、だよなぁ!格闘家として天性の才能と肉体を持つ男が格闘技を辞め、さらには異国の町で失業間際に追い込まれてちゃあな。こんな俺が過去語ったって信じれるわけ無い」

 ダズは自嘲気味に笑った。

「……」

「あっ、ダズ!こんなとこに!」

 校舎から倉橋が駆けてきた。

「く、倉橋……。遅れてすまない」

「ああ、それは良いけど、今は大変なんだよ!入学する神代さんがどっか行っちゃって」

 倉橋は珍しく取り乱している。

「神代?って誰だっけ」

「だから君の警護対象だって」

 ダズは深く思い出したと頷いた。

「私のこと?」

 先程の少女がダズの肩を登って、彼の頭の上から顔を出した。

「あっ!神代さん!?」

「神代?神…よ。ああ…なるほど。それでこの子は」

 この少女が声をかけてきた理由が分かった。『神よ無職がまた一人増えたぜ。助けてくんねぇのかね』と言う言葉の“神よ”と“神代”を勘違いしていたのだ。

「学校、もう見てきた。私が警護対象って何?」

 倉橋がマズった、と小声で言ってるのが聞こえた。ボディーガードをつけることは本人には内緒の約束だったのだ。

「ええと、俺は……。倉橋、俺はこの子を何て呼べばいいんだ」

「神ちゃんで良いよ」

「お、おお。…ゴホン。じゃあ神ちゃん。俺はここの警備員だ。ここの警備員ということは、ここの生徒、ここの職員は皆俺の警護対象なのさ。入学したての君もそれは変わらない。わかった?」

 神代は納得した表情で頷いた。

「そういえば神ちゃんの両親は?来てるんじゃなかったのか?」

「ああ、その予定だったんだがな、国会を離れられないんだと。あの人も今、問題が山済みで色々と大変らしい。神代ちゃんには嫌な現実だろう。そこら辺はあの子に悟られないように気をつけて。ああ見えて結構スマートだよ」

「私に悟られるとか何とかこそこそ言わないで、私の部屋に案内して」

 ダズと倉橋は顔を見合わせて苦笑いした。

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