大浴場は気持ちがいい
夕食が終わって小一時間後、部屋の片付けも大体片付いた。神代や他の寮生も手伝ってくれてはかどったおかげだ。
「適当に時間が空いたら、私の部屋に来てくれ」と寮長から言われていることを思い出した。入寮に関して話があるそうで、本人も面倒そうであったが、必要な説明らしい。
「風呂に入ってからでも遅くはないよな?」
日本に来てから、ダズはすっかり風呂好きになっていた。アメリカにいた当時はユニットバスで慣れていて、入浴の文化に親しみがなかったが、倉橋に薦められて事務員室の風呂を使ってみるとその気持ちよさに取りつかれてしまい、今では朝風呂もするほどだ。
小耳にはさんだ話によると、ここの風呂は大浴場らしい。大浴場といえば、一度だけ近所の銭湯に行ったことがあるが、その時いつも以上に気持ちいい印象を受けた。そのためダズは先程から風呂を楽しみにしていたのだ。
「~♪」
少し興奮気味のまま、浴場の戸を開ける。
「おお!脱衣所が広いなぁ」
やはり浴場が広いと開放感が違う。寮の浴場ということで、大きさにさほど期待してはいなかったが、脱衣所の広さからすると想像よりも大きな浴室かもしれない。期待に胸を膨らませ中に入ると、前の銭湯よりも大きな大浴場があった。
「おぉ」
思わず感嘆の声が口から漏れた。
桶の水で体を洗い流し、足先からそっと湯につかる。熱い。いつも使ってる風呂よりも温度が高く、肌にチクチクとした感覚を感じる。体をゆっくりと沈め、肩まで浸かった。
「気持ちいいねぇ」
体の力を抜いて、湯に身を任せてみると、今日の疲れが体から染み出していくようであった。当分はこのままがいい、そう思って目を閉じてきた時だ。向かいから声がした。
「確かに話があるとは言っとったけど、まさか風呂に押しかけてくるとはな」
「!?」
体を起こして、湯けむりの中、自分の正面に目を凝らした。ぼやけた中にうっすらと人影が見える。それはゆっくりとこちらへ移動してきて、顔が確認できる距離に来た。
「りょ、寮長さん?」
「まったく。ダスティン君は大胆だな。初対面の女子と裸での付き合い?」
「も、申し訳ない!すぐに出るよ」
焦って立ち上がろうとするが、彼女は腕を掴んで引き止めてきた。
「まあまあ、そう気にすんな。ほれ。タオルも巻いてるし、何の問題もないから風呂に浸かっときなって」
「えぇ……大丈夫なのか?」
「ハッハッハ!使用時間を伝えてなかった私の不注意だよ。面倒だからここで話しちまおう」
はたしていいものかと疑問ではあったが、彼女の無邪気な笑いを見ていたら何てことないように思えてくるから不思議だ。
「何から話そうかを考えていたんだけどよ、私ばっかりダスティン君のことを知ってて、お互いの自己紹介ってのをしてなかったよな。つーことで、まずは自己紹介から始めないか?」
「ああ、もちろんだ。まあ、俺に関しては今更なことだろうから、一つだけ」
「ん、なに?」
「ダスティン君じゃなくてダズって呼んでくれよ。よそよそしいのは嫌いなんだ」
「なるほど。オーケーだ、ダズ。私の名は柿崎亜矢音。ってわけで私のことも寮長じゃなくて亜矢音って呼んでくれ。よろしくな」
水のはねる音がして、水中から手が差し出された。俺は彼女の手を握って、固い握手を交わした。
「私はボクシング部の部長もしている。よかったら顔を出してくれよ」
「寮長と兼任してるのか?大変だな」
彼女は口角を上げて、やれやれといった表情をしてみせた。
「まあ、現3年生の中で最初に超人として目覚めたからなぁ。前々から頼られることは多かったね」
彼女の豪胆な印象からは想像できなかったが、どうやら周りに気配りができて頼れる人物のようだ。先ほどの寮長としての姿を思い出せば合点がついた。
「私はもっと試合に出たいんだがな。引き受けといてこんなこと言えないが、正直面倒なんだよ。まさかここまで自分の時間が削られるとは思っていなかった」
「ハハハ、美里にこき使われてるんだ」
彼女は苦笑いをしながら肩をすくめた。
「じゃあ、自己紹介はこの辺にして、そろそろ寮での生活について」
「ああ」
「ここの寮は校内にある3棟の寮のひとつで「紫寮」っていう名前な。基本的に2年生の寮だから、ここに住んでる3年は私くらいだ。ちなみに3年寮は隣の“赤寮”。一年はさらにその隣の“緑寮”ね。で、あとは毎日のスケジュールについて。生徒の起床時間は6時半、ダズは仕事があるから5時だったよね。それに合わせて兼用洗面所の使用時間は5時から6時までだから」
「生徒が使い始める前にってことだな?」
「そゆこと。逆に夜はみんなが使い終わったあとな。多分9時半以降。今日みたいなことが日常茶飯事じゃ困る」
彼女は皮肉った笑いを浮かべながら言った。
「飯は朝が7時からだけど時間が合わんでしょ?置いておくから適当に食べて。昼は自由。夜は7時からね、今日と同じ。あとは……」
「入っちゃいけない場所とかある?」
「んー?特には……あ、生徒の部屋に勝手に入っちゃダメよ。同意の上でもほどほどにな。健全とは言えんからね」
「勝手に入るかっ!」
「ハッハッハ。あ、私の部屋にはいつでも来ていいぞ。たったひとりの3年ということで寂しいからな」
「別に行かねぇよ……」
「そうか。じゃあ私はあがるよ。そろそろのぼせそうだ」と言ってザバっと立ち上がった。
「!?」
タオルがお湯に浮かんでいた。恐る恐る目線を上に……。
「上げるなっ!」
膝が顎に直撃。
(ああ。このノリが日常になるかもしれねぇのか…)と刹那に思うダズであった。
お久しぶりです
更新が今後も遅くなると思いますがすいません。




