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年頃の妹ってのは難しい……。

 ダズと廉華の戦いから三日後、日曜日ということでダズは一時的に帰宅した。実に三週間ぶりである。これほどまでに長く家を空けたのは初めてであった。

 三週間、という期間は存外長いものである。ダズは家の前に着いてから、ドアを開くときになんともいえない緊張感に襲われた。

「ただいま~。ミキ、いるかー?」

 家の中は暗く、誰もいないかのごとくに静かだ。もちろんミキからの返事もない。

「出かけてるのかな?」

 ダズは返事を待たぬまま、玄関を過ぎてゆっくりと家の中へ入っていく。見慣れた家のはずなのに、こうも時間が過ぎるとむしろ居心地の悪い場所になってしまうものなのか、とダズは感じた。

 ちなみに現在の時間は11時40分。生活の規範に厳しいミキならば、間違いなく起きている時間である。

(でないとすればやはり出かけて……)

 そこまで考えたダズはふと、自分の寝室から何かの音が漏れていることに気づいた。

(何だ?ミキがテレビでも見てるのかな?)

 この家にはテレビがリビングとダズの寝室に一台ずつ置いてある。ただしDVDなどの再生機器はダズの部屋のテレビにしか接続されておらず、時たまミキも映画などを見るために使用することがあるのだ。

 ダズはミキがいるのかと思って、こっそりと扉を開いて部屋の中を窺った。

「……」

 ミキはいた。扉が開いたことにも気付かず、黙ってテレビ画面を見続けている。

「ッ――――!?」

 声をかけようとしたダズは、テレビ画面を見て息を呑んだ。そこに映っていた番組が、ダズの心を大きく揺さぶったのだ。

 補足ではあるが、ダズの部屋にあるテレビでは地上波でない、有料放送も視聴することができる。

――――ドクン――――

(何だこの頬の火照りは!これ(・・)に反応してるのか!)

――――ドクン――――

 ダズの眉間に青筋が走り、首元の血管がはちきれそうなほどに膨れた。

(クッ!まだこいつを忘れられないのか、俺は!)

 テレビ画面が明るくなり、大きな音で音楽が流れ出す。ダズはこの曲をよく知っている(・・・・・・・)。それもそのはずである。なにせ自分の親友でもあり、最大のライバルであった男の入場曲(・・・)なのだから。

「……」

 ミキはダズが部屋の入り口にいるのにまだ気付いていない。ただただテレビ画面に見入っていた。

――――声をかけるべきか?――――

 ダズは迷った。これ(・・)はダズのトラウマである。なぜミキが見ているのか、いったいどういうつもりなのか?その疑問には怒りに近いものがあった。

「……グ…」

 そのときミキの口からわずかに言葉が漏れた。一瞬、ダズは自分が気付かれたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。やはりミキの視線は画面にそそがれている。

「アーロンさん強い……。一番?……いいえ。最強は『冷たい牙』(:コールド・ファング)」

「 !? 」

 ダズは顔を引っ込めて、部屋の外へ飛び出した。

「ハッ、ハッ、ハッ……。ゴクッ…」

 部屋の中からは歓声が聞こえる。アーロンが試合に勝ったのだろう。それで番組も終わりだったか、テレビの音が消え、ミキが立ち上がったようである。ダズはその気配に、焦り部屋の前をあとにした。

(なんて言えばいいんだ……。まさかミキが『USP』を見てるとは)

 廊下から足音。ミキがこちらへ向かってきている。ダズはソファに腰掛けて息を整えた。

「あれ?お兄さん、帰ったの?」

「お、おう」

 ミキは思ったより平然とした態度で喋りかけてきた。もう少し反応すると思っていたダズは若干拍子抜けしてしまう。

「何してたの?声くらいかけてくれれば良いのに」

「いや、何ていうか……ひ、久しぶりの家だったから感慨深いな、と」

 ミキはダズの様子に薄く笑い、彼の隣りに腰掛けた。

「学校では全然会わないよね。最近はどうなの?」

「う……んむ。上々……かな」

 自分が暴れていることを知られていたと思っていたダズは改めて聞かれ、はぐらかしてしまった。

「ま、噂は散々流れてるから聞くまでもないんだけどね」

「うっ!……やっぱり知ってたんだな」

 ミキは笑顔でごめん、と少しも悪く思ってない様子で謝り、テレビを点けた。

「超人?あれを説明されたときは私も、ものすごく驚いたわ。クラスメイトに二人超人がいるの。実際に見るまで信じれなかったけど、見てみるとすごい力だった。それにすごく頭もいい」

「頭も?いや、まあ確かに常人じゃないがな。……そうか力が強いだけじゃないのか」

「戦ったんでしょ?どうだったの、実際のところ。噂じゃ詳しくまでは分からないわ」

 話をしながらもミキの目はテレビを向いている。おそらく、世間話として話して欲しいという意思表示だろう。

 兄が暴力を振るった、という事はミキとしても穏やかではない事実だ。しかし久しぶりに帰ってきたダズの手前、いきなり怒声を浴びせたくもないのである。ミキの中で二つの感情が中和しあっていた。

「かわいいお嬢さん達だったよ、まだまだ。まともにぶつかった超人は一人だけど、ちょちょっと戦意喪失させたよ。子供相手に暴力振るうわけないさ。プロレスラーの元気のもとなんだぜ、子供ってのは」

 ダズの言葉の最後の瞬間にミキの眉がかすかに動いた。ダズは自分の油断から“プロレスラー”のワードを出してしまったのに気付きあせる。

「…………もうっ。今はプロレスラーじゃないでしょ。忘れちゃったの?」

 ミキは明らかな作り笑いをダズに向けた。

「あ、ああ。そうだったな、はは」

 ミキはソファを立ち上がって背伸びをする。そしてダズに背を向けた。

「今日は家にいるんでしょ。ご飯作らないとね」

「ああ、すまんな」

 ダズを一瞥もしないで、ミキは台所に向かう。その姿にダズは何とも言えない後ろめたさを感じた。

「あとで学校の話し聞かせてね、お兄さん」

主人公の必殺技案、常時受け付け中。どしどし感想欄に殴り書きして言ってください!

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