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The Curtain Rises

「おい、そこの子供。誰に向かって言った言葉だ」

 前も話したように、ダズは自分に向けられる敵意に対しては怒りを抑えることができなくなる。

 ダズは神代を後ろに下がらせてから、廉華を真正面から睨みつけた。

「何だおっさん?一般人の癖に俺に楯突こうってのか。いい度胸だなぁ、オイッ!」

 ダズの眉間に青筋が走った。

(ちっ、罵倒はプロレスラーの十八番だが日本語では負けるな)

「塔子!勝負はいったん預ける。今は目の前のアホな一般人を殺さんといかん」

 塔子は何も言わず、ダズと廉華を見比べるように一瞥して後ろの茂みに退散した。

「あん?今日はえらく引き際があっさりだったな。何故だ……いや、わかった。そういうことか」

 廉華が鉄パイプを肩に担いで、ダズを舐めるように見た。ダズも廉華の動きに呼応して、いつでも動けるように体勢を整えた。

「こいつを俺に潰してほしいわけだな。何でこんな面倒なことを…自分でやれってんだ。興が冷めた!てめぇみてぇな雑魚を相手にしてられっかよ」

 廉華は吐き捨てるように言って踵を返し、その場を後にしようとした。だが、ここまで侮辱されて黙っていられるほど、ダズは心の広い人間ではなかった。

「どこ行くんだ嬢ちゃん。口だけかよ」

「安い挑発はのらねぇぞ」

「よくよく考えれば、君みたいな幼い、ましてや女の子が男の俺に勝てるはずもない。所詮は虚勢か」

 連華の動きが止まった。

(おっ、食いついた!どの言葉だ)

「虚勢を張って背伸びした少女!なんとも可愛らしいね」

 少女という言葉に連華の肩がわずかに震えた。

(どうやらこども扱いが気に入らないようだな)

「おいコラ。何ほざいてやがんだ」

 廉華が振り返って、およそ少女のものとは思えないほどの強い眼差しをダズに向けた。

「あんまぁ調子に乗ってんじゃねぇぞ。殺して無理やり前言撤回させてやらぁ!!」

 そういって一瞬。ダズの視界から連華の姿が消えた。

「がぎっ!」

 ダズの顎に強い衝撃。連華の鉄パイプが顎に向かって、下から刺すがごとく突き上げられていた。

(いつの間に懐に入られた!?)

 腹部にもう一突き。その攻撃でダズは膝をつく。

「へっ!口ほどにもないったぁ、この事か!」


 この広場での戦闘を校舎から覗く人影が幾つか。

「やはり廉華には敵わないようね。少し残念」

「うむ。結局のところ彼は一般人であるしな」

「は~先輩たち!ノラは痛かったんですよ!最初からあの男を倒しておけば怪我しなくてすんだのに」

「全くよ。私だって部活があるんだぞ」

 美里は後ろの二人、亜矢音とノラ猫に謝った。ちなみに二人とも廉華との戦いで折れた手足は既に完治済みだ。

 理江は熱心にダズと廉華の戦いを見ている。

「私にはあの男が本気を出しているように見えんのだがな。私の買いかぶり過ぎであろうか」


「――――――ぐはっ!?」

 ダズが地面に倒れた。先ほどから防戦一方。もう廉華の攻撃を何度も生身の体で受けている。

「……頑丈なやつだな。一般人にしては確かにやるぜ」

「お褒めの言葉ありがとよ……」

 ダズの軽口に廉華が軽く笑う。先ほどまでの悪辣な表情ではなかった。

「気に入ったぜ、お前。――――さあ立てよ!とどめだ!」

 ダズが足を引きずるようにしてゆっくりと立ち上がり、よろよろとファイティングポーズをとった。

「終わりだぁ!脳天ぶちまけろやぁ!!」

 廉華の放った鉄パイプはダズの脳天を的確に捉えた。

「――――――っ!」

 ダズが頭から倒れる。気絶したのか、それとも……。

「おい、そこの女!」

 廉華は今までの戦いをずっと見ていた神代に声をかける。

「こいつを病院にでも連れて行ってやりな!」

 神代は的を得ていない表情で首をかしげた。

「何で?」

「はぁ?何でってお前、こいつ結構重傷だぜ。今の見てたろうが」

 神代はただただ首を傾げるだけである。


「終わりね。彼を保健所に連れて行きましょう」

 戦いが終わったと見た美里は、三人に声をかけてダズのもとに向かおうとしていた。

 そのときであった――――――プロレスラーが登場したのは。

『ジャンジャーーーン』

「!?」

 急に大音量で何かの音楽が鳴り出した。

「何これ!誰!?校内放送を勝手に使ってるのはっ!?」


『ジャンジャーーーン』

「あん?何だ、うっせぇな」

 大音量の音楽に反応してダズの体がピクリと動いた。

「――――――たか」

「!?」

 廉華が何かを感じ取りダズのほうを振り向いた。今まで倒れていたはずの男は直立して笑っていた。

「ふ……。ふはははは!」

 ダズはおもむろに上着を脱いだ。鍛え抜かれた肉体があらわになる。

「なっ!?」

 廉華はダズが突然脱ぎだしたことにも驚いたが、それ以上にあれだけ自分の攻撃を食らった男が平然と立ち、笑みを浮かべているということに驚きを通り越し気味の悪さを感じた。

「海を隔てた先にもいたか。マイユニバース(おれのファン)が。……ふふ、はははは!やっぱ堪んないね!プロレスラーには入場曲だ!俺は結局、ダスティン=エイムズじゃなくて『ザ・ファング』なんだな!」

「――――――!?」

 ダズは廉華をみて楽しそうに微笑んだ。

「くっ!てめぇ!!」

 廉華が鉄パイプを振り上げて襲い掛かった。が、ダズは避けることもせず拳を構える。そのまま打ち下ろされた鉄パイプを裏拳で打ち払う。

「なっ!?」

 鉄パイプはひん曲がり横に弾かれる。廉華はその衝撃で後ろに飛ばされ、背中を木で打ちつけた。

 ダズがラリアートで追撃。廉華は木にもたれかかったままだ。

「――――んっ!」

 廉華が目を瞑る。しかし外れたのか外したのか、ダズのラリアートは廉華のすぐ上の木の幹に命中した。

「君の負けだな。よくがんばった」

 ダズが木から腕を離すと、幹は大きく歪み腕の跡がついていた。

「行こうか、神代」

 脱いだ服を拾い、それを着ながら神代を呼んで寮へ歩き出した。

「待ってくれ!」

 木にもたれかかったまま、廉華がダズを呼び止める。

「あんたの、いや貴方の名前を知りたい」

 ダズは軽く片眉を上げ、廉華を指差した。

「それは俺に聞くことじゃねぇ。リングの俺、『ザ・ファング』に聞きなぁ、嬢ちゃん」

片眉を上げ、敗者を指差して名乗る。というのはダズのレスラー時代のキメ台詞であったという設定ですw

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