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Morals

「ただでさえ」

 少女はダズの胸倉をつかむ。そして腕力でダズを引き寄せた。

(この膂力!こいつも超人か!)

「超人などという輩が蔓延るこの学園では、治安維持というものは大仕事である。生意気な部活生、いきがった不良グループ、暴力的な生徒会」

 少女の胸倉を掴む腕に少しずつ力が入る。こんな細身では出しえない力だ。

「それに加えて得体の知れない強姦魔の貴方」

(……ゴーカンマって何だ?俺のことか?)←語彙力の無さ

「何で次から次へと問題事は増える!そんなに私を困らせたいのかっ――――」

「いやいや、そもそも君の事知らないし」

「それなのに何故せめて言うことを聞けない?お利巧に連行されればいいものの……。武力行使しなければならないではないかっ――――!?」

「!?」

 少女はダズを引き上げると同時に懐に入り、腰で担いで柔道の要領でそのまま投げた。少女はおそらく体重は50キロを満たないだろう。それなのに100キロ近くあるダズを単純に投げるだけではなく投げ飛ばしたのだ。

「ごあっ!?」

 床で背中を強打する。ダズはレスラー時代に幾度と無く投げられてきたが、こんな硬い床にこれほどの勢いで投げられたのは初めてだ。これが一般人ならば死んでいただろう。

「鎮圧完了。しかし、重そうだな。どうやって運ぼうか」

「イテテテ。あー背中痛い。見事に投げられちまったなー」

「なっ!?」

 少女は驚愕の表情を見せた。それもその筈である。ダズがなんとなしに立ち上がったからだ。

「な、何で、今の手応えでそんな顔ができる!?」

「ハッハッハ!甘い甘い、その程度でやられちゃあレスラー勤まらないよ!」

 少女は悔しそうに歯軋りをして、攻撃の構えをとった。

「……なるほど。力を惜しんでいては勝てぬということか。ならば――――――本気でブッ殺してやるっ!!」

 少女は表情を豹変させ拳を握る。そして足に力を込めたかと思うと、それを一気に爆発させ距離を詰めてきた。

「一・撃・必・殺――――粛清ブローー!!!!」

 下段から繰り出される恐ろしい速度のアッパー。しかし、これはそれほどの速度は無い。

(冷静に回避すれば……――――!!??)

「がっ!?」

 確かにダズはアッパーは避けた。だが、ブロー(・・・)は正確にダズの左顎を捉えた。

「甘いのはお前だ!アタイのブローを避けれると思ったか!これが正義の鉄槌だ!」

「かー。やり難いなー本当」

 ダズは数歩後ろに下がっただけで、あの強力なパンチでも膝さえつかなかった。

(やはり倒れない。なんという打たれ強さだ。しかし、超人ではないようだがいったい?)

「この子達は俺の警護対象。かすり傷一つつけちゃなんないわけだ。これが『上にも気をつけて』の意味か。確かになかなか大変だよこりゃ」

「なに一人でぼやいてんだ!隙だらけだぜ!」

 少女が恐ろしい勢いで襲い掛かる、が。

「!?」

 ダズの目が変わった。その圧力に気圧されて、彼女は勢いをわずかに()がれる。ダズは少女を両腕をとって押し返して、壁に押し付けて拘束する。蹴ろうとする彼女の足も膝で制する。

「俺の勝ちだ」

 少女は暴れているが、ダズの力は圧倒的でビクともしない。少女はダズを睨んで言った。

「確かにアタイは身動きを取れないが、この体勢ではお前も攻撃することができんだろう。こんな状態でいて誰かに見れらてみろ、すぐに人を呼ばれるだけだ」

「ハハハ。何を言ってるんだい。攻撃し放題じゃないか。レスラー時代は恐れられたものさ、俺の頭突き」

 少女の顔色が変わる。先程までの激した表情は消え、はじめの冷静な表情に戻った。そして諦めたように嘆息する。

「わかった。残念だが降参しよう」

「そらよかった。まあ、あれだ。話せばわかると思うよ」

 少女は軽く笑みを浮かべて、強張っていた体から力を抜いた。それを見て、ダズも少し安心したように軽く息を漏らす。

「いいが、何時まで私を押し付けているつもりだ?これでは――――ハッ!」

 ダズが謝罪をして彼女から離れようとしたとき、彼女は急に頬を染めて恥ずかしそうな顔をした。

「……確か貴方の召喚理由は『強姦未遂』。ああ……私の純潔もここで終わりなのぉ」

 手を離したがもう遅い。次は泣き出した。感情の起伏の激しさにダズは戸惑う。

「ええ?ど、どうしたんだいったい?落ち着いて、ほらっ泣かないで」

(ゴーカン未遂?いったい俺は何をしたんだろう?)

「アハハハ」

 どこからか女性の高笑いが聞こえてくる。ダズが何かと思い周りを見ると、廊下の先から二人の少女が歩いてきた。

「私でも敵わなかったのだから、さすがに塔子には荷が重かったわね」

「かわいそうに。すまなかったな。やはり美里を止めるべきであった」

「あ、君たちは……」

 姿を現したのは、生徒会長・立花美里と大部長・秋月理江であった。

「塔子いらっしゃい」

「ああ~美里せんぱーい」

 『塔子』と呼ばれた、ダズと先程まで闘っていた少女は、ダズの腕を払って美里の胸に飛び込んだ。こう見ると塔子の背の低さも相まって、まるで歳の離れた姉妹にも見える。

「アンタ。うちの塔子を泣かしといて、ただで済むと思ってないでしょうね?この子はこんなにも強いけれど、まだ力が覚醒していないから超人じゃないのよ」

「何ッ!?」

「それをこんなになるまで……オー、ヨシヨシ」

 そんな美里の様子を見ながら秋月は「相変わらず演技が巧いな……」と小さな声でつぶやいた。

「今に見ておれ!我らでこの仕打ちに対する報復を成し遂げる!逃げ場は無いと心得い!」

(美里がヒートアップしてる。普段はあのような言葉遣いではないだろう)

 ダズは普段の美里を知らぬし、これらが演技とも気付かぬので、ただただ唖然としている。

「さらばだっ!ほらっ理江行くわよ」

「え、あ、ああ。では騒がせてすまなかった」

「え、え?はあ?何なんだいったい」

 風のように去った二人。ダズは呆けてそれを見ているしかなかった。

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