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BABEL

 扉の先には長い階段。所々に小さなライトが取り付いており、かろうじて前方数mほどの範囲まで見える。しかし奥は見えず、まるでどこまでも続いているような錯覚を覚える。

「この先にその……メナスってのがあるのか?」

「そうだけど、まだここは入り口じゃないよ。実はここは埋め立てて、発見したときよりも数10m高い。ほら、この学校って坂の上に建ってるでしょ。50年前はそうじゃなかったんだよ」

(つまりこの階段を何十メートルも降りて、そこに初代が見つけたという、炭鉱への入り口があるわけか)

 ダズはなるほど、と頷いて、倉橋に続いて階段を降りだした。

 しかし、いざ降りだしてみると、これがなかなかに長かった。

「結構長いな」

「うん。この暗さだと踏み外しでもしたら危険だからね。一段の幅を広くして、段差もできるだけ小さくしてある」

 意識してみれば、確かこの階段は幅広く段差が少ない。まるで神社などの天然の石で造られた石段の様だ。これでは時間がかかるのも無理は無い。

 そうして歩くこと5分ほど。倉橋が不意に立ち止まった。まだ階段の途中である。

「どうした?まだ下だろ」

「上から千と二百段目。ここがメナスの入り口だ。馬鹿正直に下に設置してたら、何者かに侵入されたとき危ないだろ。ほら、ここの壁のところにちょこっと出っ張りが……あれ?ないぞ。どこに行った?」

「これじゃないか?」

 ダズが手元にあった、わずかに色の違う出っ張った岩を指して言った。

「ん~?あ。これだこれだ。一段間違っちった」

 倉橋は照れて後ろ頭を掻きながら一段上がり、ダズの見つけた岩を懐から取り出した棒のようなもので押し込んだ。

「何かの拍子で開いたりしないよう、10cm押し込まないと扉は作動しないようになってるのさ。ま、何でもいいけど細い棒で押すんだよ」

 ロックが解除される音がして、目の前の壁がゆっくりと奥へ退いていく。1m強ほどさがって止まった。

「さ、いこうか」

 岩が退くと隣にもう一本別の道があった。階段ではないが、この道もまだ奥に続いてそうだ。

「この道は昔の炭鉱だよ。線路がひいてあったんだけど、学校の建設時に撤去して整えてある。この先にメナスはあるんだ」

「初代さんもよくこんなとこ見つけたな。つーか廃坑になった炭鉱なら落盤とかの危険性があるんじゃないのか?」

「大丈夫、大丈夫。暗くて見にくいかも知んないけど、壁さわってみてよ」

 ダズが壁に触れるとそれは土や岩ではなく、コンクリートに近いものだということがわかった。

「コンクリートじゃないよ。それは特注の合金で、バリッバリ頑丈なんだから」

「なるほど……」

 こんなことを話しているうちに、通路の先に光が見えてきた。

「さあ、着いた。ここがメナスだ」

 今まで暗いところにいたため、急な光に目が眩んで視界がホワイトアウトする。数回まばたきをして、光に目が慣れると……。

「どうだい?すごいだろ」

 絶句。

「マジか――――」

 そこには大きな穴。直径数10mはありそうな大穴がぽっかりとあいていた。近づいて下を覗くと、深さも100m近くあるだろう。形は地下に行くにつれて狭まっていく、まるで円錐のような形で、所々から突起のように塔のようなものが飛び出している。さらにその大穴の壁面には螺旋状にずらりと部屋のようなものが並んでいた。それらはそれぞれに明かりが灯っており、中には人もいるようだ。

「――――まるで……御伽噺にもぐりこんだ気分だな。語彙力のない俺には、ただただ「すげぇ」としか言いようがないが。いや、驚いた。とにかくすげぇ」

「でしょ。僕はこれを『逆さまバベル』って呼んでる」

「ははっ。バベルの搭か。メナスって言うんじゃなかったのか」

 ダズは軽く笑いながら言った。

「この遺産の名はメナスさ。逆さまバベルはこの大穴のことだよ」

 ダズと倉橋は笑って、もう一度穴を覗いた。

「しかし、本当にすごい。今からこれを案内してくれるんだよな」

「いや、今日の目的はこれを見てもらうことだから。まぁ、この施設の機能を大雑把に説明すると、超人からその力を奪うこと、超人たちの身辺のケア、超人に対する研究と対策、の三点だね。大事なのは最初の力を奪うこと。ここに入学した学生を卒業までに超人として覚醒させ、三年生の2月にその力を奪うことが目的の施設さ。超人が増えるのを防ぐってのはこういうことだよ」

「なるほど。学校を建てたのはそういう理由があってか」

「他の3校にはここの機械の複製品があって、同じような目的で運営されてる。我が聖鉄学園がオリジナルだからね。そこんところには誇りを持ってるよ」

 ダズは一歩さがって大きく息を吐いた。倉橋はその様子を見て少し笑って言った。

「疲れた?」

「いや、今日はすごい日だなと思ってな。スーパーガールの喧嘩に大穴研究所。エキサイティングすぎるぜ、まったく」

 倉橋は珍しく声を出して笑った。そして「確かに」と言った後、携帯を取り出して画面を見た。

(圏外になんねぇのかな?)

「それじゃあ、僕はここに残るから、君は帰って。一応勤務中だしね」

 ダズはわかったと一言いって倉橋に背を向けた。

「あ、忘れてたけど、階段を下に下りちゃいけないからねー。下には侵入者用のトラップがあるからねー。あと、上でも気をつけてねー」

「おーう」

(ん?トラップはわかったが、上で気をつけるって何だ?……ま、いいか)

 倉橋の言葉に小さく疑問を感じながらも、ダズは学園へと戻っていった。


「うあー。やっと着いたー」

 約30分後、ダズは無事地上にたどり着いた。階段が昇りだった分、余計に時間がかかった上に疲れる。

「はー。いやーすっごい体験をしたもんだ。まさかあんなものがねー」

 ダズは記憶に新しい感慨に浸りながら、ゆっくりと理事長室のドアに手をかけた。

「超人ねー。まったくすごいもんだ」

「それはどうも。しかし貴方に褒められる理由がありません」

 ドアの先には一人の少女。短髪で元気そうな子だ。頭には鉢巻を巻いていて『風紀』と書いてある。

「ダスティン=エイムズですね。生徒から被害届けが出せれております」

「は?被害届け?俺は何もしてないぞ」

「貴方は大変な危険人物だと伺っています」

 少女は両手にグローブのようなものをはめながらしゃべり続ける。

「抵抗するのであれば、反撃にでられる前に……ふんじばって連れて行かせてもらうぞ、オラァ!!」

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