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嘘の世界1

鳴らない鐘

作者: ハル

朝になると、義務は配られた。


紙でも声でもなく、配られる前から各自の手の中にあった。

重さも形もないが、落とすことはできなかった。


誰も受け取った記憶がないのに、全員がそれを持っていると知っていた。



この町では、義務は果たすほど軽くなるとされていた。

軽くなればなるほど動きやすくなり、動きやすくなれば、また義務を果たせる。


誰もそれを疑わなかった。

疑う理由がなかった。

疑うという行為は、義務に含まれていなかったからだ。



私は毎日、義務を一つずつ片づけた。


数えることはできないが、終わったときには分かった。

終わった、という感触だけが残る。


残りがどれくらいかは分からない。


ただ、まだある、ということだけは確かだった。



ある日、隣の家の人が動かなくなった。

義務が重くなりすぎたのだと、誰かが言った。


重くなった理由は聞かれなかった。

理由を探すことは、義務ではなかったからだ。


私はその人の前を通るたび、少しだけ自分の手が重くなるのを感じた。

自分の義務が増えたのか、それとも重さの基準が変わったのかは分からない。


確かめる方法はなかった。

確かめるという義務を、誰も持っていなかった。



昼過ぎ、町の中央で鐘が鳴った。

鐘は義務の進み具合を知らせるためのものだったが、今日は違った音がした。

高くも低くもなく、意味のない音だった。


その瞬間、義務が軽くならなかった。


果たしたはずの義務が、そのまま残っていた。

いや、残っているというより、果たしたという感触だけが消えた。


終わったはずなのに、終わっていない。

終わっていないのに、続ける義務もなかった。



町の人々は立ち止まった。誰も混乱しなかった。混乱する義務がなかったからだ。


ただ、動けなくなった人が一人、また一人と増えた。


義務が重くなったのではない。軽くもならなかっただけだ。



私は自分の手を見た。

何も持っていないように見えた。


だが、手を開くことはできなかった。

開く義務も、閉じる義務も、もうなかった。


夕方になっても鐘は鳴らなかった。

鳴らさない理由は示されなかった。

理由が示される義務が、最初から存在しなかったことを、私はそのとき思い出した。



夜、動けない人の数を数えようとしてやめた。

数える必要がなかった。数えたところで、義務は変わらない。


私は座り込んだまま、義務を果たそうとした。

何をすればいいのかは分からなかったが、分からないこと自体は、以前から同じだった。


ただ一つ違ったのは、義務がそこにあるのかどうか、もう確かめられなくなったことだった。


手は重くも軽くもならないまま、朝を待っていた。


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