AIと同じ設定で書いてみました②
まずはこちらです。
《カーサス視点:ルシアが嫁いできたその日》
馬車の車輪が砂利を踏む音が、辺境の静けさに不釣り合いに響いていた。
カーサス・デュ・クエルクスは、屋敷の玄関前に立ち、薄い外套の襟を指で押さえた。中心部よりも冷えるこの土地の空気は、彼の肌にまだ馴染まない。吐く息が白い。
今日、彼は妻を迎える。
政略のための、そして国王の思惑のための“妻”を。
馬車が止まると、侍女たちが慌ただしく動き始めた。形式的な動きだが、乱れはない。
扉が開き、白い布の影が揺れた。
ルシア・ダランベール・イルナ・エルバーグリーク。
かつてはルシア・ファゾリナ・イルナ・セファゾドール。
彼女はゆっくりと馬車から降り立った。
薄い外套を羽織っているが、寒さに震えている様子はない。むしろ、冷たい空気を吸い込んで落ち着こうとしているように見えた。
その横顔は、思っていたよりも幼い。
だが、幼さよりも先に目についたのは、瞳の奥に沈んだ影だった。
――この娘もまた、駒として使われた者。
カーサスは胸の奥に、鈍い痛みのようなものを覚えた。
「ようこそ、クエルクス家へ。長旅で疲れただろう」
声はできるだけ穏やかにした。
国王からの命令――“仲睦まじい夫婦を演じよ”――が頭をよぎる。
ルシアは一瞬だけ顔を上げた。
その瞳は、氷のように澄んでいるのに、どこか壊れかけている。
「……ありがとうございます、旦那さま」
声は震えていない。
だが、侍女たちの視線を気にしているのが分かった。
彼女たちは、敗戦国の姫を見下すような目を隠そうともしない。
カーサスは小さく息を吐いた。
「侍女たち。彼女を案内しろ。部屋は暖めてあるはずだ」
侍女たちは形式的に頭を下げ、ルシアを囲むようにして歩き出した。
その背中を見送りながら、カーサスは胸の奥に重いものが沈むのを感じた。
――この娘は、ここに来るまでにどれほどのものを失ったのか。
兄ジョバンニの死を思い出す。
戦場で散った兄の姿は、今も脳裏に焼き付いている。
その戦果として与えられたのが、この政略結婚だった。
互いに、望んだわけではない。
屋敷の中に入ると、暖炉の火がぱちぱちと音を立てていた。
辺境の屋敷は古いが、前領主が残した家具は質が良い。
ただ、どこか“仮の住まい”のような空気が漂っている。
ルシアの部屋の前まで来ると、侍女たちが慌ただしく動いていた。
その中で、ルシアは静かに立っていた。
背筋は伸びている。
誇りを失っていない者の立ち方だった。
「寒くはないか」
カーサスが声をかけると、ルシアは少しだけ驚いたように振り返った。
「……セファゾドールも、似た気候でしたので」
その言葉に、カーサスは胸が締めつけられた。
彼女が“似ている”と言ったのは、気候だけではないだろう。
失われた故国の記憶が、冷たい空気とともに蘇ったのかもしれない。
「ここでの生活に、不自由があれば言ってくれ。できる限り整える」
ルシアは少しだけ目を伏せた。
「……お気遣い、痛み入ります」
その声には、感謝よりも“諦め”が混じっていた。
侍女たちが部屋の準備を終え、ルシアが中に入る。
扉が閉まる直前、カーサスは彼女の横顔を見た。
――この娘は、まだ泣いていない。
泣く余裕すらないのだろう。
扉が閉まると、屋敷の廊下に静寂が戻った。
カーサスはしばらくその場に立ち尽くした。
国王の命令は簡単だ。
“仲睦まじい夫婦を演じよ”。
だが、それは彼女の心を踏みにじることにもなる。
カーサスはゆっくりと息を吐いた。
「……せめて、壊さないようにしなければな」
その呟きは、誰にも聞こえないほど小さかった。




