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私とAI  作者: 瑞月風花


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10/21

AIと同じ設定で書いてみました②

まずはこちらです。


《カーサス視点:ルシアが嫁いできたその日》


 馬車の車輪が砂利を踏む音が、辺境の静けさに不釣り合いに響いていた。

 カーサス・デュ・クエルクスは、屋敷の玄関前に立ち、薄い外套の襟を指で押さえた。中心部よりも冷えるこの土地の空気は、彼の肌にまだ馴染まない。吐く息が白い。


 今日、彼は妻を迎える。

 政略のための、そして国王の思惑のための“妻”を。


 馬車が止まると、侍女たちが慌ただしく動き始めた。形式的な動きだが、乱れはない。

 扉が開き、白い布の影が揺れた。


 ルシア・ダランベール・イルナ・エルバーグリーク。

 かつてはルシア・ファゾリナ・イルナ・セファゾドール。


 彼女はゆっくりと馬車から降り立った。

 薄い外套を羽織っているが、寒さに震えている様子はない。むしろ、冷たい空気を吸い込んで落ち着こうとしているように見えた。


 その横顔は、思っていたよりも幼い。

 だが、幼さよりも先に目についたのは、瞳の奥に沈んだ影だった。


 ――この娘もまた、駒として使われた者。


 カーサスは胸の奥に、鈍い痛みのようなものを覚えた。


「ようこそ、クエルクス家へ。長旅で疲れただろう」


 声はできるだけ穏やかにした。

 国王からの命令――“仲睦まじい夫婦を演じよ”――が頭をよぎる。


 ルシアは一瞬だけ顔を上げた。

 その瞳は、氷のように澄んでいるのに、どこか壊れかけている。


「……ありがとうございます、旦那さま」


 声は震えていない。

 だが、侍女たちの視線を気にしているのが分かった。

 彼女たちは、敗戦国の姫を見下すような目を隠そうともしない。


 カーサスは小さく息を吐いた。


「侍女たち。彼女を案内しろ。部屋は暖めてあるはずだ」


 侍女たちは形式的に頭を下げ、ルシアを囲むようにして歩き出した。

 その背中を見送りながら、カーサスは胸の奥に重いものが沈むのを感じた。


 ――この娘は、ここに来るまでにどれほどのものを失ったのか。


 兄ジョバンニの死を思い出す。

 戦場で散った兄の姿は、今も脳裏に焼き付いている。

 その戦果として与えられたのが、この政略結婚だった。


 互いに、望んだわけではない。


 屋敷の中に入ると、暖炉の火がぱちぱちと音を立てていた。

 辺境の屋敷は古いが、前領主が残した家具は質が良い。

 ただ、どこか“仮の住まい”のような空気が漂っている。


 ルシアの部屋の前まで来ると、侍女たちが慌ただしく動いていた。

 その中で、ルシアは静かに立っていた。

 背筋は伸びている。

 誇りを失っていない者の立ち方だった。


「寒くはないか」


 カーサスが声をかけると、ルシアは少しだけ驚いたように振り返った。


「……セファゾドールも、似た気候でしたので」


 その言葉に、カーサスは胸が締めつけられた。

 彼女が“似ている”と言ったのは、気候だけではないだろう。

 失われた故国の記憶が、冷たい空気とともに蘇ったのかもしれない。


「ここでの生活に、不自由があれば言ってくれ。できる限り整える」


 ルシアは少しだけ目を伏せた。


「……お気遣い、痛み入ります」


 その声には、感謝よりも“諦め”が混じっていた。


 侍女たちが部屋の準備を終え、ルシアが中に入る。

 扉が閉まる直前、カーサスは彼女の横顔を見た。


 ――この娘は、まだ泣いていない。


 泣く余裕すらないのだろう。


 扉が閉まると、屋敷の廊下に静寂が戻った。

 カーサスはしばらくその場に立ち尽くした。


 国王の命令は簡単だ。

 “仲睦まじい夫婦を演じよ”。

 だが、それは彼女の心を踏みにじることにもなる。


 カーサスはゆっくりと息を吐いた。


「……せめて、壊さないようにしなければな」


 その呟きは、誰にも聞こえないほど小さかった。




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