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 屋敷に着くまでノエルは俺から離れなかった。俺の腕に絡みつき、一人で行動が全くできなかった。

 結局シャルルへのお土産は、このオリジナルブレンドの紅茶缶だけ。どうせなら消耗品じゃなくて、なにか形に残るものが買いたかった。……また今度、一人かシャルルと出かけた時に買うか。

  ひっそりため息を吐きつつ、屋敷の扉が開くのを待っていると。


「あっ」

「遅かったな」


 開いた扉の先、階段上に立つシャルルがいた。


「た、ただいま。どこかに行く途中?俺も一緒に行っていい?」

「……お前たちが遅いから、先に食事を終えたところだ。お前は今からだろ」

「えっ、でも食事はいつももう少し後に食べてたよな?」

「いつ食べようが僕の勝手だ。お前に合わせないといけない理由はないはずだ」

「そうだけど……でも」

「ユウ兄様!僕お出かけしてお腹が空きました。早く食事にしませんか?」


 腕に絡みついたままのノエルが、甘い声で誘ってくる。それを見たシャルルは気を悪くしたのか、嫌そうな顔をして黙ったまま立ち去ろうとする。


「シャルル……!」


 追いかけようと足を踏み出したが、力強く抱きつかれているせいで動くことができない。


「ノエル今日は満足しただろ。おれシャルルと話したいから離してくれ」

「イヤです!今日は一日兄様と一緒ってキメてたんです!」

「そんなの俺は知らない!」

「うっ、ぐすっ、どうして……」


 勢い余ってきつい言い方になってしまった。そのせいなのか、ノエルが急に泣き出してしまった。


「なんでぇ……いっつもシャルル様ばっかぁ、ひぐっ、僕は全然……ううっ、ひっ、一緒にっ、いれないのにぃ……」

「ノエル、分かった。俺が悪かったから泣くな」

「ううっ、今日は一緒がいいっ」

「分かった、分かったから」

「ひっく、お風呂もっ、寝るのもっ、ぐすっ、一緒がいい……」

「分かった……えっ」


 今、風呂も寝るのもって言った?えっ、まだ一緒にいないといけないの?


「やった!」

「あっ、ノエル違う」

「えっ……」


 流石に一緒に寝るのは勘弁。なので訂正しようすると、俺の言葉を察したノエルの顔が暗くなるのが分かる。ヤバい訂正したらまた癇癪が来てしまう。シャルルの機嫌がどのくらい悪いのか分からない今、さらに悪くなることが起きるのは避けたい。


「ノ、ノエルと一緒に過ごすの、たっ、楽しみだな」

「ほんとう!?やったぁ!僕もすっごく楽しみです!」

「そ、そうか。じゃあ今日買った大事なものは部屋に置いておいで。兄様は食堂で待ってるから」

「えー兄様も一緒に来てください……」

「俺はノエルの部屋に行く準備をしないといけないから、ごめんね」

「んーじゃあ仕方ないですねぇ。待っててくださいね、兄様」


 足取り軽く去っていくノエルを見送ってから、すぐにシャルルを追いかける。


「シャルル待って!」

「……」

「シャルル!」

「うるさい!僕に構うな!」

「嫌だ!シャルル!」


 追いついた手を掴み引き止める。何度か振りほどかれかけたが、絶対に離さない気持ちで掴み続けた。

 だんだん疲れてきたのか、シャルルは諦めたように腕をだらりと下げる。


「なんなんだよ……」

「シャルル」

「僕に構うな。お前もアイツが好きなんだろ。別に同情なんかいらない、最初から分かってたことだ……」


 なんで諦めてるんだよ。なんで俺の気持ちを勝手に決めるんだ。なんで、俺を信じてくれないんだ……。


「シャルルのバカ」

「……」

「俺の気持ちを勝手に決めるな!俺はずっとシャルルの未来を考えてるのに、何も言わずに怒ってどっか行こうとするな!」

「うるさい……」

「俺は誰がなんと言おうとシャルルの味方だから。だから勝手に離れないでくれよ……」


 幼くなったせいだろうか、なぜか泣きたい気持ちが溢れてきて涙がこぼれてくる。


「ぐすっ、シャルル……俺から離れないでよ……」

「ユウ……」


 それか双子だからだろうか。シャルルが離れていくと考えるだけで、どうしようもなく辛い気持ちになる。


「イヤだよシャルル……俺を、ひっく、置いていかないでよ……」

「なんでユウが泣くんだよ……それに置いていくのはお前の方だろ……」

「お、俺は置いていかない……!絶対にシャルルから離れない!」


 真っ直ぐ見つめて伝える。涙を脱ぐって見えた顔は、今にも泣きそうな顔だ。


「分かった。分かったからもう泣くな」


 そう優しい声で言いながら、俺の涙を拭ってくれる。ほんの少し笑いながら。


「シャルル……」

「悪かった。勝手に怒って不安にさせて。ユウがアイツに取られたと思って、嫌な気持ちになったんだ」

「俺の方こそ断りきれなくてごめん……」

「ふっ、そんなに落ち込むことじゃないだろ」

「わ、笑わなくてもいいだろ!シャルルに嫌われたって本気で思ったんだから」

「そんなこと二度と思わなくていい」

「シャルル?」


 急に強い口調になったことに驚いて聞き返す。さっきまで笑って柔らかい雰囲気だったのに、今はどこか怖いような決意を固めたような感じだ。


「やはり受け身なのは僕らしくない。決めたよ、僕がユウを守ってやる」

「へ?なんで?俺がシャルルを守るんだろ?」

「泣きべそかくユウには荷が重い。僕がずっと側にいて守ってやる」

「泣きべそって……別にいいだろ子どもなんだから……って、なにふんだよ」


 突然鼻をつままれる。こいつ俺のことからかい始めたな。


「ふふっ、ユウは弟なんだから兄である僕の背中に隠れてればいいよ」

「はなふぇ」

「だからさ、これからは逃げずに戦うよ。ユウのためにね」


 そう言って肩越しに俺の後ろを見つめるシャルル。目線の先が気になって振り返ったが、薄暗い廊下の先には何も無い。


「やっぱり僕もお腹すいてきたから、食堂に行こうかな」

「また食べるのか?」

「さっきのは嘘。本当はまだ食べてない」

「なんでそんな嘘ついたんだ。いや、それよりもご飯食べずにいようとしたのはダメだろ」

「レイみたいなこと言うな。その時は食欲なかったんだ。別に今から食べるんだからいいだろ」

「屁理屈言うな」

「はいはい。ほら、早く行かないと面倒なことになるぞ」

「もー待ってよシャルル」


 悪戯っぽく笑うシャルルを追いかける。ようやく心を開いてくれた気がして、口元の緩みを抑えることは出来なかった。

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