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食事を終え父上、レイさん、ノエルと別れシャルルと並んで勉強部屋へと向かう。さっきまでの騒がしさと違い、今は静かでまるで俺たちしかいないと感じてしまう。
シャルルは喋る気がないのかずっと黙ったまま。沈黙が続くのも辛いので、話しかけたいがどうしても言葉が出てこない。聞きたいことは沢山あるのに。
「ここが授業を受ける部屋だ」
「へっ」
「なんだその間抜けな声は。まさかぼーっと歩いてたんじゃないだろうな」
「えーっと……」
ぼーっとはしていない。どう話しかけようか考えていたせいで、周りをちゃんと見てなかっただけだ。
なんて言ったら、『それをぼーっとしてると言うんだ』って言われそうだから黙っていよう。怒られたくないし……。
代わりの言い訳を考えていると、シャルルにため息を吐かれてしまう。
「全くお前と言うやつは。一人でここに来ることもあるんだから、道はちゃんと覚えろ」
「一人?」
「ああ、そのうちレイもあいつに付きっきりになるからな。今のうちに一人で出来るようしておけ」
「なんで?」
「だからアイツが……」
「俺たち双子なんだから一緒に動いたらいいじゃん」
成長したら一人で行動することも多くなるだろう。でも屋敷に居ることが多い今みたいな幼年期は、一緒に動いた方がいいと思うんだけど。こんな広い屋敷、一人で歩くには寂しすぎる。
……まぁシャルルが嫌でなければだけど。
「一緒に……」
「うん、俺まだこの世界について分かんないことの方が多いからさ。シャルルが一緒に居てくれたら心強いし」
「……」
「だからお願い!一人にしないで!」
両手を合わせて頭を下げる。心の中で願いが通るよう祈っていると、頭にシャルルの手が乗り押さえつけられる。
「えっ、なに!?なんで抑えてんの!?」
「うるさい」
「うるさくもなるだろ!急にこんなんされたら!」
「……簡単に言うな…………ばか」
「ごめん、聞こえない!」
ぼそりとなにか言われたが、騒いでいるせいで何も聞き取れなかった。
「っ!仕方ないから付き合ってやるって言った」
「マジ?やったー!」
「そんなに喜ぶことか?どうせしばらくしたらアイツと行動することになるんだろ」
「えっ?」
なぜノエルと行動することになるんだ?義理の兄弟だから一緒に行動することもあるだろう。でも兄弟だからで考えるなら、双子のシャルルの方が一緒の確率は高そうだけど。それにその言い方はまるで、シャルルを一人にするみたいにきこえる。
「なぜ不思議そうな顔をしている?」
「だってシャルルが変な事言うから」
「変?」
「変だよ。なんでノエルがでてくるんだ」
「なんでって……みんなそうだったから。反省して周りといくら上手くやれても、アイツが来たら全部奪われる。父上もレイもアランも……みんな僕に飽きてあっちに行った」
「シャルル……」
「だからお前もきっとアイツの元に行く。僕はそれを散々見てきたから……分かるんだ」
絞り出すように告げられた言葉に胸が苦しくなる。シャルルはどれだけ辛い思いをしてきたんだろう。飽きてって言うけど、本当はもっとキツイ思いもしたんじゃ。
気持ちを想像するだけで苦しい。だったらせめえ少しでもその重荷を一緒に抱えたい。
「なっ、急になにをするんだ!?」
「シャルル〜〜!」
「だからなに……」
「俺は絶対に離れないからな!」
抱きしめて宣言する。こうしないと伝わらないと思ったから。
「何があっても!破滅しても!俺はずっとそばにいる」
「破滅してもとか言うなばか。お前はそれから僕を救うのを目標にしろ」
「た、たしかに……破滅してもとかは縁起悪いよな」
「そうだ。僕は破滅したい訳じゃないんだから間違えるな」
「はい……」
するりと抱きしめていた腕を解かれる。もうちょっと良い言葉があったかも、なんて一人で反省していると。
「……でもお前の言葉は嬉しかった…………ありがとう」
小さい小さい声で呟かれた言葉だけど、なぜか俺の耳によく届いた。
「ちゃんとお礼言えるんだ」
「なっ!失礼だぞ!僕をなんだと思ってるんだ」
「ごめんごめん。ねえねえもっかい言って」
「なにが」
「シャルルからのありがとう、もっかい聞きたい」
「うるさい……いい加減、部屋に入るぞ」
そう言って扉の奥へと入っていくシャルル。すれ違う時に一瞬見えた耳が、真っ赤に染っているのが目に入った。
その人間らしい姿に俺は幸せになって欲しいと強く思った。いや、どんな手を使ってでも穏やかな未来をシャルルに贈りたい。
「俺、頑張るよ」
「急になんだ」
「へへっ、だからこの世界のこと色々教えてお兄ちゃん」
「急になんだ気持ち悪い」
「冷たいこと言うなよ。これから運命共同体になるんだから」
そう、これから先は俺はシャルルと運命を半分こする。だから運命共同体。絶対に一人にはさせない。俺が必要ないくらい穏やかな未来を手に入れるまで絶対に。