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お腹が痛い。ズキズキとした痛みと身体が熱いせいで、意識がハッキリしない。ふわふわと夢見心地だ。
「ユウ……辛いか?」
「んっ……」
「ちゃんと守れなくてごめん」
シャルル泣いてる?泣かないで、俺シャルルには笑って欲しい。
ぼんやりとした意識の中、手探りでシャルルの手を求める。良かった、こんな状態でも感触だけはハッキリしてる。
「熱、辛いよな」
冷たくて気持ちいい。少しだけ楽になった気がする。
「半分だけでも僕に移ればいいのに……」
ダメだよ。シャルルはもう辛い思いしなくていいんだから。痛いのと辛いのは全部、俺が受け持つって約束したから。この熱も痛みも俺だけでいい。
「早く……目を覚まして」
返事をしたいのに声が出ない。シャルルに伝えたいことがあるのに。
「ユウ……守れなくてごめん……」
何度も謝らないで、俺はシャルルを守れて嬉しかった。俺がこの世界に来た意味を果たせて良かったよ。
シャルルを救えたら、そのまま居なくなってもいい。なんて最初は思ってた。でも今は、ちゃんと伝えたい。あの日の返事を。
*
「……んんっ、何時だ」
目を擦りながら起き上がる。熱にうなされていたせいか、まだ少し身体はだるさが残る。ぼんやりとしながら辺りを見渡すと、そこは今はもう懐かしいはずの。
「俺の部屋……?」
だけどここはウィリアム家の俺の部屋でも、アランと同室だった寮とも違う。シャルルがいる世界に転生する前に生きていた部屋だ。
「シャ……ル、ル……?」
大きなベッドも調度品も、窓から見えていた西洋風の景色もない。代わりのようにあるのはシングルベッド、使い古された机、窓からは遠くにビルが見える。
近くにあったスマホを取り画面を見る。日付を見た瞬間、忘れていたこの世界の昨日が鮮明に思い出された。
「あっ……いやだ……そんな……嫌だ!嫌だ!」
そして記憶は勝手に上書きされていき、シャルルの世界で過ごした日々の記憶が。
「嫌だ!忘れたくない!お願い!止めて!」
パニックになりながら頭を掻きむしる。
嫌だ、せっかく会えたのに、忘れたくない、奪われたくない。お願いだから、これだけは奪わないで!俺はまだ何も伝えられてないから!お願いだから俺をシャルルが存在する世界に戻して!何もいらないから、辛くても俺はシャルルがいる世界で生きたい!
願えば願うほどシャルルの声が、思い出が、顔が消えていく。
「嫌だ、これだけは、これだけは奪わないで……」
最後に握った手の感触すら消えていく。そして掻きむしりたくなるほどの胸の痛みも、波が引くように離れていく。
「お願い……だから……」
泣きながら蹲って、奪われないよう必死にもがいた。
やっぱり現実はいつも俺に残酷だ。
「シャルル…………あれ?俺、なんで泣いてるんだ」
「ユウ!朝からなに暴れてんのよ!って、なんで泣いてんの?」
「姉さん……俺にも分かんねぇ」
「なにそれ、どうせ悪い夢でも見たんでしょ。受験終わったからって怠けてるから変な夢見んのよ」
「悪い夢、か……そうかも」
「ゲームの攻略依頼した私も悪いけど、変な夢見るくらいならゆっくりでいいから」
「あー……うん、分かった」
姉さんが部屋から出ていった後、やっていたはずのゲーム画面を見る。
『TRUE END』
「クリアしたんだ。でもどんなエンディングだったけ?」
エンディングの内容は気になるが、今はとにかく顔を洗いたい。お腹も空いたし、早くリビングに行こう。
それが終わったらエンディング見ようかな。でもずっとゲームばっかやってたし、今日は久々に外に出ようかな。また夢で泣きたくないし。
「ゲームは帰ってきてからやるか。あーお腹空いた」
なにか大切なことを忘れてる気がするけど、思い出せないなら大したことじゃないだろう。




