20
シャルルの手を握って監禁部屋から逃げる。レイに外してもらった足枷と手首の痣が痛むけど、止まることはできない。
見覚えのない薄暗い通路を必死に走る。走れないノクスは、いつの間にかいたレイに俵担ぎされている。
「シャ、ルルっ、いっまで、走んの!?」
「ここを抜けるまで」
「それっ、いっ」
「あー後ちょっとかな。それよりも、息切れ酷いけど大丈夫?持ってあげようか?」
ずっとまともに動いてなかったから、急に走るのはキツイ。ちょっとでも歩いてくれたら助かる……てか今持つって言った?
「よっと」
「へっ、ええ!?」
「ちょっとユウ耳元で叫ばないで」
軽々と俺を持ち上げたシャルル。しかもお姫様抱っこで。
「おっ、重いから!」
「重くない。むしろ軽い。ちゃんと食べてなかったでしょ」
「いやっ、でもっ、これは……」
「大丈夫。それにこっちの方が速い」
「そうだけどぉ……」
恥ずかしいんだよ!いくらレイとノクスしかいないとは言え、男子高校生がお姫様抱っこされるのはキツい。
シャルルの肩越しに後ろの二人を見る。薄暗くてよく見えないが、多分哀れみの目を向けられてる気がする。ノクスなんかめっちゃ見てきてるし。
「降ろして……」
「ダメ。それとユウ、ちゃんと僕の首に腕回して。落とさないけど落ちたら危ない」
恥ずかしさのあまり手で顔を覆っていたら、シャルルに注意をされてしまう。危ないのは分かるけど、同い年の男にお姫様抱っこされる状況は顔を隠したいんだよ。
「無理……」
「無理じゃない。もう我儘言うなら後で……どうしようかな?」
「それ一番怖いやつ!」
「ふふっ、ごめん久しぶりに会えたせいで、からかいたくなった。でも危ないのは本当だから、ちゃんと捕まってね」
「わ、分かった」
シャルルってこんなにイケメンだったか?顔がいいのは知ってるけど、下から見ると何割か増してよく見える。いつも正面からで下から見ることなんて無かったからかな。流石にこれを直視し続けるのは……。
「やっぱ無理……」
「無理じゃない。ちゃんと僕の肩に腕を回し、て……」
「シャルル?」
「チッ、思ったりよりも早かったな」
動きが止まりシャルルが見詰める方向に目をやると、そこには剣を持ったアランが立っていた。気絶してるノエルの髪の毛を掴んで。
「ノエル!」
「危ない」
ジタバタともがくが、シャルルの方が力が強くて降りれない。
「離してシャルル」
「怪我するからダメ。それにアイツの近くに行ったら何されるか分からないからね」
「でも、ノエルが……」
「大丈夫、覚悟の上だから」
「覚悟?」
焦る俺とは対象に、シャルルは冷静にアランと話す。
「やはり罠だったか。ウィリアム家の三男が最近ベタベタしてきて、おかしいと思ってたんだ」
「ユウへの執着がノエルに行くかなと思って」
「無理だね。私はユウにしか興味がない」
「今まではノエルばかりだったのに、酷い浮気だな」
「何の話だ?」
「こっちの話。何時になっても色ボケ王太子だなって感心しただけだ」
「不敬だぞ」
「お前を敬いたくないから当然だ」
「ほぉ……」
なんでもない雑談のように話すシャルルだが、俺はさっきから冷や汗と動悸が止まらない。
逃げようとしたことがバレてしまった。アランとの約束を破ってしまった。どうしよう、シャルルを破滅から救わなくちゃいけないのに。どうすればこの状況を打開できる?俺がまたアランの元に戻れば……。
「ダメだよユウ。僕はお前を助けに来たのに、またあいつのとこに戻られるのは嫌だな」
「いや、でも、アランに見つかったし……」
「大丈夫、僕が何の対策もなしに十年以上過ごしてたわけないでしょ」
「えっ、まさか何かしたの?」
「もちろん。あいつが邪魔するなら今すぐ反乱を起こして国を滅ぼす準備をね」
「それって戦争じゃ……」
いい笑顔で言うシャルルに血の気が引く。いくら自由になりたいとは言えそれはダメだ。俺のせいで関係ない人が傷ついたり死ぬのは嫌だ。それにもしシャルルが負けたら破滅以外の道はない。
「お前正気か?そんなことをすれば……」
「僕は国賊として処されるだろうね。でもそれは家族も同じ。お前はユウとの婚約も続けれなくなるだろうな」
「最悪だな。自分の我儘に家族を付き合わせるとはな」
「人を脅して婚約者にさせた挙句、閉じ込めて自由を奪う横暴王太子よりをましだろ。配偶者の家族に暴力まで振ってるし」
「死んでないからいいだろ。それに喧嘩を吹っかけてきたのはそちらが先だろう」
「記憶力無さすぎだろ。僕を売られた喧嘩を買ったまでだ」
「シャルル……もういいよ……」
繰り広げられる会話をこれ以上聞きたくなくて、シャルルに止めるよう訴える。
「俺の覚悟が足りなくてごめん。俺のことはもういいからさ……ノエルとノクスを連れて帰って」
「ユウがこれ以上我慢する必要は無い。言っただろ僕は絶対に破滅しないって。それはお前を助けた上での意味だ」
「そうだとしても、犠牲を払ってまで叶えることじゃないだろ……」
走れなくなったノクス、ボロボロのノエル、こんな風に二人がなってまで自由が欲しいわけじゃない。平和に破滅回避は無理だったんだ。
これ以上他に危害が及ばないよう、俺ができるのはもうそれしかない。
「シャルルせっかく助けに来てくれたのにごめん……」
「ユウは優しいね……分かった」
「ごめんね」
「謝るのは僕の方。ごめんね、僕はユウが犠牲になるくらいなら、やっぱりこの国を潰す」
「えっ!?なんでそうなる!?今は諦める流れだろ!」
「なんで?むしろ決意が固まったよ。レイの言う通り国盗りをしていて正解だったよ」
「くに、とり?」
「ああ。実はね、僕は隣国の王になったんだ」
「「は?」」
俺とアランの声が重なる。当然のようにシャルルは言っているが、それは簡単な事じゃない。
「ご、ごめん、マジでどういう意味……?」
「数年前におもしろい催し物があったんだ。国が主催する大会で勝つことができたら、なんでもあげるって言われたから勝って貰ったんだ」
「い、いやいや、いくらなんでも賞品が国って……」
「さすがに最初は断られたけどね。でもその国で困ってる事の解決案を出したら貰えたよ。という訳で、そこの王子が退かないなら今すぐ僕の国から出している全ての物流を止める」
「……っ!貴様!そんな戯言誰が信じるか!どうせ私からユウを奪うための嘘だろ!」
取り乱して叫ぶアラン。俺も信じられないけど、シャルルの余裕が本当だと物語ってる気がする。それに転生の知識を使えば出来なくもないだろうし。本来のシナリオではシャルルって有能すぎて、アランから婚約破棄されたぐらいだし。
「煩いな。はぁ……仕方ないあまり見せびらかすものじゃないんだけど。はい、これ証拠」
「これ……は……」
アランはシャルルが投げた指輪を手に取る。するとその顔は、みるみるうちに青ざめていく。それを満足気に見つめるシャルル。
「持ち出し用の指輪。そんなんでも王子なんだから、隣国の式典でお前も見た事はあるだろ」
「……なぜ……貴様が……」
「さっきから言ってるだろ。俺がその国の王だからだ」
「だがそんなこと誰も……」
「これでもまだ学生だから公には発表してないだけ。それにお前はユウに夢中でカケラも政治に興味がないからだ。少しでも勉強していれば知れたのに、残念だな」
「くっ……!」
「さて、そろそろ帰るか。おいノエル、いい加減狸寝入りは止めろ」
「はーい」
「えっ」
緊張感のない声で返事をするノエル。簡単にアランの手を払い、まるで何も無かったかのようにこちらに近づいてくる。
「ユウ兄様お久しぶりです!」
「ひ、久しぶり……無事、なの?」
「もちろん、あの程度じゃ気絶すらしません。やられた振りをしてたんですけど、もう退屈で退屈で。でも兄様に会えると思えば耐えれました!」
そう言ってこちらに手を伸ばして来るノエル。だがシャルルが避けてしまい、手は行き場を失う。
「チッ、触るな」
「……せっかく協力してあげたんですから、兄様に触れる権利は僕にもあります。というか、シャルル様だけズルくないですか?」
「僕だけで十分だった。お前は勝手に着いてきただけだろ」
「えー勝手に付いてきたのはシャルル様の方じゃないですか?僕一人でも兄様を助けることは出来ました」
「戯言を」
「そっちこそ」
静かに火花を散らす二人に挟まれる。昔は嫌だったけど、今はこの状況が懐かしくて少し嬉しい。
……やっぱ俺のいないとこでやって欲しい。だんだん胃が痛くなってきた。
「ユウどこか痛む?顔色悪い」
「だ、大丈夫!」
二人のやり取りで胃が痛くなりました。とは流石に助けに来てくれたのに言えない。必死に取り繕ってみる。でも色んなことを一気に知ったせいで、上手く笑うことが出来ない。
「いつまでもこんな場所にいても仕方ない。ユウを休ませてあげたいし、さっさと帰るか」
「賛成です。ここジメッとしてるし」
「…………いやだ」
「は?」
「……いやだ……私から……ユウを奪うな……私のもの……私の……私だけのっ!」
「こいつ!」
剣を振りかざしてきたアラン。しかしシャルルがすぐさま反応し、蹴りを入れると壁際に吹っ飛んでしまう。
「がはっ!」
「往生際の悪いやつめ。捨て身で来るとは、未来の王が無様だな」
「……いやだ……私の方が……ずっと……ずっと……」
ブツブツと呟くアラン。その姿に胸が痛くなる。せめて最後くらいちゃんと伝えた方がいい気がする。
「シャルル、降ろして」
「ダメだ。アイツの元に行くんだろ」
「うん」
「それだけは聞けない」
「お願い」
手を合わせてお願いしてみる。シャルルは俺のお願いに弱いから、きっと許してくれる。
「はぁーーー……分かった」
「ありがとう!」
「少しだけ。あと手は絶対に離すな」
大きなため息を吐きつつも、シャルルは許してくれた。俺をゆっくり降ろすと、手を繋いで蹲っているアランの元へと向かう。
「アラン」
「ユウ!ユウ……!やはり私の元がいいんだな。そいつに攫われたんだろ?もう大丈夫だ。私が今度こそ君を誰にも……」
「ごめん。俺はアランの気持ちには応えられない」
「ユウ……?」
「ずっと返事できなくてごめん。俺はアランとは結婚しない。婚約も解消したい。お、れ……は……」
突然、胸に衝撃が走る。口いっぱいに血の味がし、胸の辺りを見るとアランの剣が刺さっていた。
「ユウ!貴様っ!」
「許さない。私から離れるなんて許さない!こうなったら一緒に、死をもって私たちは結ばれるんだ!」
「あ……らん……」
「私もすぐ君の元へ逝くよ」
そう言って泣きながら笑うアランの顔をみながら、俺の意識は遠くへ行ってしまった。
アラン、俺はずっと……。
アランと友達になりたかった。




