18
「ここから出せ」
「イヤ♡」
「……」
「ユウも毎日毎日飽きないね。今日もそれで会話終了?」
「……」
「君の兄上のこととか気にならないの?」
気になるに決まってるだろ。学園で孤立してないか、楽しんでいるのか気になって仕方ない。けど聞いてシャルルに危険が及ぶのは嫌だ。だからこいつには聞かない。会話もいつも通り最初の一言で終了。これ以上は喋りたくない。
こんなことをしても無意味だって分かってる。でも少しでも反抗したいんだ。
「ユウ」
優しい声色で名前を呼ばれる。壊れ物を扱うような手つきで髪を触られる。それでも反応はしてやらない。
「手錠と足枷外したいから、こっち向いて」
誰が向くか。外されたって自由になる訳じゃない。足は繋がれたままで外に出ることも出来ない。それなら別にこのままでいい。
「ユウ」
「……」
「ねぇ」
「……」
「私は別に君を傷つけたい訳じゃないんだよ。君が振り向いてくれたら、この生活はすぐに止める。だから教えて欲しい。どうしたら君に好きになってもらえるのか」
どうしてそんなに必死なんだ。誰かに愛して欲しいなら、愛してくれる人を選べばいい。アランは王太子な上に見目もいい。少ししか通えなかったが、学園でお前に好意を持っている人はたくさんいた。
「ユウ」
「俺はこんな風に脅して自由を奪うやつを好きにはなれない」
「……ごめん」
「……」
「これは君が好きになってくれるまで止めれない。だって止めたら君は……なんでもない」
止めたらなんだ。
「ユウ好き、愛してる」
アランはそう言いながら、腕をのばし俺を抱きしめる。
愛の言葉なんか望んでない。俺は自由が欲しい。婚約者に選ばれてから十年、我慢した。シャルルを破滅させないためだ。会うのも我慢した。アランが最低限会うなと望んだから。
シャルルのためにアランが望むことには応え続けた。
「俺は愛してないし、これからもお前を愛することはない」
「まだダメか……」
「まだも何も未来永劫お前だけは絶対にない」
「酷いなぁ」
「どっちが」
「まぁいいや。今日はたくさん話せて楽しかったよ」
「……」
「お風呂とご飯ノクスに用意させてるから、行ってきなよ」
アランだけが持つ鍵で手錠と足枷を外される。礼は言わない。こんなものはしないのが普通なんだ。
ベッドから降りてノクスが待つ隣の部屋へと向かう。
閉じ込められているここは学園寮ではない。この部屋の内装は学園寮と全く同じだけど、風呂と食事を取れる場所は内装が異なる。
最初は寮の部屋に閉じ込められてると思ってたけど、ここは王家が管理する土地のどこかなのだろう。
それを敢えて教えず俺に気づかせるようにしたのは、俺を絶望させて諦めさせるためだろう。
「ユウ様」
「ノクス……また無理したのか?」
痛々しい顔にできた傷に触れる。平然と立っているが、ノクスは俺がここに連れてこられた日に足の腱を切られている。
日常生活に支障はないが、走ることと長い時間歩くことが出来なくなった。俺を抱えて逃げられないよう、アランがしたノクスへの枷だ。
「無理などしていません。散策していたら転んだだけです」
ノクスはずっと外との連絡手段が取れないか探してくれている。不自由な足で無理して探すから、生傷が耐えない。
「……もういいから、無理をするのは止めて」
「無理ではありません。私はユウ様のためなら命など」
「やめて」
ノクスの口を両手で塞ぐ。大袈裟に言ってるだけかもしれないが、そんな言葉聞きたくない。俺のせいで誰かの命が消えるのは嫌だ。
「……」
「俺は大丈夫だから。もう無理はしないで、これ以上ノクスからなにか奪われるのは嫌だ……」
「ユウ様……申し訳ありません」
「分かってくれたならいい。もう俺のために動かなくていいから。ごめん、こんなことに巻き込んで」
「そんな……!俺はあなたのお側にいれるだけで幸せです。だから負い目なんて感じないでください」
手を握られながら言われ、胸が苦しくなる。忠誠心は厄介だ。ノクスが自分の利益を考えられる従者で、俺を裏切ってくれてたら……アランを道連れに死ねたのに。
なぜ独占欲の強いアランが、ノクスを処分しないのか謎だった。でも最近分かった。
ノクスは俺の心の枷だ。
気が狂いそうな監禁生活。そこで俺が自殺しないよう、ストッパーのためにノクスを置いた。だから俺がノクスを解放しようとしても、アランはそれを絶対に許さない。だって居なくなったら、俺は死を選べるから。
ほんと、気持ち悪いぐらいアイツは俺のことを把握している。
「ごめん、ごめんノクス……」
「……謝らないでください。今日はユウ様が好きな柑橘の匂いがするお風呂にしました。お風呂に入れば少しは気持ちが楽になります」
「うん……」
「だから泣かないでください。俺はどうなろうと貴方様が……」
「ノクス?」
「いえ、なんでもありません。行きましょうユウ様」
差し出された手を取る。暖かいその手に、胸がじんわり痛くなる。
この生活に終わりが来たらノクスを解放しよう。俺の従者なんかより、シャルルに仕えた方が幸せになれる。
それが贖罪になるかは分からない。けど俺はノクスが望むなら何だって与えたいし、叶えてあげたい。幸せになって欲しいから。




