15
シャルルとの時間はあっという間に過ぎ、気づけば夕方に。名残惜しい気持ちを抱えながら、小屋を出ようとドアに手をかける。
「じゃあねシャルル。また来るよ」
「ああ……なぁ、ユウ」
「なに?」
ドアを開ける直前、シャルルの手が俺の手に重なり制止される。
「僕はお前のためなら世界を敵に回す覚悟がある」
「俺もシャルルのためならたとえ世界でも戦うよ」
近すぎるせいかシャルルの顔が見えない。
「ありがとう……愛してるよ」
「俺も…………って、えっ、え?」
重なっていた手は腰に回され、抱きしめられる。逃げることができない力強さで。
「ずっと愛している。気づくのが遅かった。アランに奪われたあの日、お前を愛していると気づいた」
「シャ、シャルル」
「お前にその気がないのは分かっている。でも、ただの可哀想な兄ではなく、お前を想う一人の男として意識して欲しい」
「そんな、急に言われても……」
「分かってる。だから卒業まで考えて欲しい」
シャルルの腕から離され、真剣な顔が視界に入ってくる。その目ですぐ理解できた。シャルルが本気で言ってることに。
「もし……僕と同じ気持ちを抱いてくれたなら、僕はユウと生涯を共にしたい」
「でも俺たちは双子の兄弟だよ……いくら俺がこの世界の住人じゃなくても、血は繋がっている」
「大丈夫、そんな些細なこと僕が変える。ユウが僕を選んでくれたら、僕はユウといれる世界を作る」
「シャルル……」
「ゆっくりでいいから考えてみて」
シャルルはそう言うとドアを開け、俺の肩を押して外に出す。
「またね、ユウ」
「うん……また」
見送られ少し歩いたところでノクスと合流する。
「ユウ様」
「あっ、うん」
「シャルル様との逢瀬は楽しかったですか」
「逢瀬って……お前は知ってたのか?」
「さて、なんのことでしょう」
「知ってたんだな」
「見ていれば誰でも気づきますよ。シャルル様のあなたに対する感情は」
「誰でも……」
じゃあアランは?気づいていたのかな。
「ユウ様」
「な、なに?ノクス」
「顔が真っ赤ですよ」
「へぇっ?」
間抜けな声が出てしまった。顔を触ると頬は確かに熱くて、でもこれがどういう感情で出てしまっているのか分からない。
「俺はてっきりユウ様もシャルル様と同じ気持ちだと思ってました」
「俺は……ただ、シャルルには幸せになって欲しいって……」
「そうですか。じゃあシャルル様の幸せにユウ様が必要と言われたら、どうされますか?」
「どうって……」
「一緒になりますか?」
急にそんなこと言われても分からない。シャルルのことはもちろん好きだけど、同じ気持ちかと問われても違う気がする。
「急に言われても分かんないよ」
「急ではないと思いますが」
「そう、なのか?」
「ええ、俺が引き取られた頃から既にシャルル様がユウ様を見る目は、恋をする人のものでしたよ」
「ノクスが恋とか似合わない」
「茶化さないでください」
「ごめん……でも、そっか、そんなに前から……」
ノクスが連れてこられたのが五年前。ということは少なくとも、五年前からシャルルは俺のことを。
……結構抱きついたりとかしてたけど、あれってシャルル的にはどうだったんだろ。無神経なこととかしちゃった気もするし、これからは軽率なことは控えないと。
「それで、ユウ様はどう返事されるのですか?」
「返事って……俺は恋とかよく分かんないし……シャルルからあ、愛してる……なんて言われるなんて思ってなかったんだよ……」
「大胆な告白ですね。まぁ、鈍いユウ様にはそのぐらい言わないと伝わりませんよね」
「うっ、確かに俺は恋愛方面は鈍いけどさぁ……」
この世界に来る前も恋愛とは無縁だったけど、人から言われるとグサッと来るものがある。
「ちなみに俺はシャルル様派なので、シャルル様を推します」
「なんだそれ」
「ほら、アラン様とシャルル様二人から求婚って派閥ができそうじゃないですか。一応ノエル様も入りますけど、足元にも及ばないでしょうね」
ノエルから求婚された覚えは無いから、もともと入ってないだろ。
……そもそも俺に選ぶ権利なんて無いだろ。アランとの婚約を破棄したら、シャルルが破滅してしまうかもしれない。俺はシャルルを破滅から救うためにこの世界に来たんだ。それを叶えないのは契約違反だ。
「ノクスは勘違いしてる」
「なにをですか?」
「俺とシャルルが結ばれることはない。お前だって分かってるだろ、王族に逆らうとどうなるか」
「ユウ様……」
「この国が滅ぶかアランが婚約破棄をしてくれない限り、俺が誰かを選ぶ権利はないんだよ」
「それでいいのですか?」
「いいもなにも、俺の望みはシャルルを破滅の運命から救うことだから」
抱きしめられた時に感じた胸の高鳴りも、今張り裂けそうなほど痛む胸も全部全部気のせいだ。
「あの方ならそんなくだらない運命は捻じ曲げそうですけどね」
「でも念には念をいれておかないと」
俺だってシャルルなら運命なんてねじ曲げれると信じてるよ。でも最初に言ったんだ。百年以上、破滅を回避することは出来なかったって。
「シャルル様は貴方を守るために、俺を王室に送り込めるよう教育してくださった。そんな努力をしたあの方を信じないんですか?」
「俺がシャルルを信じないわけないだろ……」
「だったら諦める前に、シャルル様のことを考えてあげてください。あの方の気持ちを無かったことにしないでください……お願いします」
「ノクス……」
震える声で懇願され、かける言葉を見失う。俺だって向き合いたい。でも向き合って想いが成就しなかったら、俺かシャルルのどちらかが破滅したら。それを想像するだけで、俺の思考は止まってしまうんだ。
「ごめん……」
「ユウ様……」
「ごめん、ごめん……せめてシナリオ通りにアランが婚約破棄してくれたら……」
「シナリオってなに?」
突然かけられた声に驚き振り返ると、茂みの奥からアランが現れた。
「やぁ探したよユウ」
「アラン……どうして、今日は王宮に用があるから帰らないって……」
「早く終わったから帰ってきたんだ。愛しい婚約者と一日でも離れるのは辛いからね」
「……」
「ところで、今話してたシナリオってなに?」
「なんでもない……聞き間違いだろ」
「そうかなぁ?私が君と婚約破棄、なんて耳障りなことも聞き間違い?」
口元は笑ってるけど目が笑ってない。あの時と同じだ……俺に婚約を迫ってきたあの時と。
「聞き間違いだ……ほら、寮に帰るぞ」
「やはり学園に通うことは許すんじゃなかった」
「っ、ユウ様!」
「えっ……」
首元にチクリとした痛みが走る。なにか刺されたと気づいた時には遅く、膝から崩れ落ちる。そんな俺をアランは片腕で抱きとめ離さない。
「ア、ラン……」
「最初からこうすれば良かった。ああ、そんな目をしないでユウ。大丈夫、君に危害を加えたりなんてしない。君が反省するまで閉じ込めるけど、君のことを愛する故の行動だから」
「貴様っ!」
「誰に向かって言ってるんだ。たかが従者が私に刃を向けるなんて、それが主人を危険にさらすと知っての行動か?」
「っ、俺の主人はユウ様だ!」
「や、めろ……の……く、す……」
ダメだ、ノクスを止めたいのに上手く声が出ない。鈍い頭でもなにをされたのか分かる。だからこそ、ノクスにはこいつに刃向かって欲しくない
「ユウ様……!」
「お利口な犬は好きだよ。ほら、ご主人様が言ってるんだから、大人しくしろよ」
「くっ……!」
「さぁ、ユウ帰ろうか。僕たちの愛の巣に」
「……あ……ら、ん」
額に口付けをされたのを最後に、俺の意識は暗闇へと落ちていった。
たすけてシャルル……。
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