一話 都会の光の下で You are my hope in the neon night
深夜のオフィス街。
終業時刻を過ぎ、ネオンが灯る都会の通りを、橘美咲はいつものように帰宅途中だった。
一日の疲れが体に染み、無機質な街並みの中で、ただ早く家に帰りたいと思っていた。
そんな中、突然、彼女の前を華麗なステップで歩く一人の青年が目に留まった。
その男性は、テレビやSNSで話題のアイドル、蒼井颯太。
美咲よりもずっと若い彼は、笑顔が眩しいほど輝いていて、まるで都会の夜空に咲く一輪の花のようだった。
「すみません、道を聞いてもよろしいですか?」
颯太は、普段の華やかな姿とは違い、どこか親しみやすい素朴な口調で話しかけてきた。
美咲は、初めは驚いたが、ふと彼の瞳に真摯な光があるのを感じ、戸惑いながらも答えた。
「ええ、この先の交差点を左に曲がると…」
その瞬間、颯太はにっこりと笑い、短いお礼を告げると、立ち去ろうとした。
しかし、ふと足が止まった。
美咲は、普段会社で厳しい表情をしている自分と、颯太のどこか柔らかな雰囲気とのギャップに、心がほころんだ。
翌日、美咲はオフィスの同僚から噂を耳にする。
なんと、昨夜道で道案内をしたあのアイドル、蒼井颯太が、翌朝も同じ交差点付近でファンに囲まれていたという。
一瞬、胸がときめいた。
ただの偶然だと思いながらも、彼の笑顔が脳裏に焼き付き、どうしても気になってしまう。
その週末、美咲は会社の近くで行われたファンミーティングに、ひそかに足を運んだ。
会場の隅で、颯太がひとり、静かに話しているのを見た。
普段のステージ上での煌びやかさとは違い、彼は誰にも見せないような優しい表情で、ファン一人ひとりに寄り添っていた。
「あなたの笑顔が、どんなに辛い日も救ってくれるんです」
颯太が小さな声でそう話す姿に、美咲は自分の中にあった孤独や不安が、少しずつ溶けていくのを感じた。
帰り際、偶然にも颯太とすれ違った瞬間、二人の視線が交わった。
そのとき、颯太はふと立ち止まり、美咲にこう言った。
「もしよかったら、また話しませんか? あなたのこと、もっと知りたいと思って…」
美咲は心の中で、驚きと嬉しさが入り混じる感情を感じながら、微笑んで答えた。
「ええ、ぜひ」
都会の喧騒の中で、こんな偶然の出会いがあったことが、
美咲にとって新たな希望の光となった。
――それは、ただのアイドルとの恋愛話ではなく、
忙しい現代で忘れかけた“心の温もり”や、“人を信じる力”を、
改めて教えてくれるかけがえのない瞬間の始まりだった。
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この物語は、平凡な日常の中でふと訪れる奇跡のような出会いを描いています。
あなたの心に、ほんの少しでも温かな光が届けば幸いです。