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人間とヴァンパイアの関係性

作者: 瀬東

 俺が生まれた時には既に、人間とヴァンパイアは共存関係にあった。幼稚園や小学校にはヴァンパイアの同級生がいて、今通ってる高校にもヴァンパイアがいる。子供の頃は、相手が人間だろうがヴァンパイアだろうが気にせず遊んでいた。


 しかし、高校生になった今、人間とヴァンパイアの関係性に違いがある事に気づいた。共存関係にあるといっても、それぞれ考えの違いがあり、みんなそれを上手く調整しながら生活しているんだと気づいた。



 俺の幼馴染みの山城 紅凛(やましろ あかり)も、ヴァンパイアの1人だ。ヴァンパイアの特徴の1つである優れた身体能力を持ち、体育の授業では女子でありながら人間の男子を超える成績を見せつける。色んなスポーツが得意で、紅凛が活躍する度に黄色い声援が飛ぶ。身長は俺より高いし、幼馴染に対して言うのもなんだが美人だと思う。


 成績優秀で、学校の各種行事に積極的に参加する紅凛は、小学生の頃からみんなの人気者だった。高校に入ると一年生から生徒会に参加し、今では生徒会長になった。


 一方、俺はヴァンパイアではない普通の人間。どこにでもいる男子高校生で、勉強や運動能力は平均レベル。これといった特技もない。何でもできる紅凛に対し、嫉妬や羨ましがったりする事もなく、幼馴染としての付き合いを続けている。



「放課後、生徒会室に来て」

 週に一度、メッセージアプリで呼び出される。帰宅部で基本暇な俺は、毎回断ることなく紅凛のもとへ行く。


 

「お疲れ様です。」

 放課後、暫くしてから生徒会室に入る。紅凛の他にも数名居て、生徒会の仕事をしている。

「もうちょっとで終わるから、待っててくれる?」

 紅凛は、申し訳なさそうな顔をしてそう言った。待つのはいつもの事なので、空いてる席へ座って、仕事が終わるのを待つことにする。


 

 「なあ。」

 生徒会室が俺と紅凛の2人だけとなり、紅凛が俺に声をかける。その声は低く、他の生徒がいる前では決して出さない声色。

 「腹減った。首出せよ。」

 紅凛の命令に無言で応え、制服のネクタイを外す。首元を開けた状態で、黙って紅凛のもとに近づく。

 すると、紅凛は飛びかかるように俺の首元に近づき、俺の血を吸い始めた。


 俺は週に一度、血を提供している。紅凛が血を飲みたいと思ったその日に。

 血を吸われている間、弱い痛みを感じる。俺はその痛みをただ、黙って受け入れる。暫くして紅凛が首元から離れ、吸血行為は終了した。


「はぁ。 やっぱうめえ。」

 血を吸い終わり、紅凛は満足そうにしている。俺はネクタイを締め直して、制服を整える。


「もっと早く来いよ。」

「早く来たってみんなで仕事してるだろ。」

「いいんだよ。」

 きっと俺をみんなに見せびらかしたいのだろう。"これは私のものだ"というアピールを。しかし、俺は敢えて、わざと時間を潰してから生徒会室に向かう。俺なりの抵抗だ。


「血を吸ってるところ、誰かに見られたらどうすんの。」

「ヴァンパイアが血を吸ったって問題ないだろ。」

「そりゃそうだけど、変な噂立つだろ。」

「いいんだよ それで。」

 俺の質問に、紅凛は笑いながら答えた。



 誰もが羨む生徒会長の正体は、独占欲の強すぎるヴァンパイアだ。

 紅凛の家は、名高いヴァンパイアの一家だそうで、人間に比べヴァンパイアは優れた存在であるという考えをもっている。俺に対する高圧的な態度も、そこから来ている。

 普段みんなに見せる"優しい生徒会長"という仮面の裏で、紅凛は人間を下に見ている。まるで二重人格だ。



「それでは失礼いたします。」

 2人で生徒会室の鍵を職員室に戻す。その時の紅凛はもちろん"優しい生徒会長"になっている。


「あのさ。」

「なに?」

「わざわざ言葉遣いを使い分けて、大変じゃねーの?」

 俺の疑問をぶつける。すると紅凛は、露骨に嫌な顔をする。

「それ言うなっていつも言ってんだろ。」

 俺にだけ見せる姿で睨みつけた。


 ◇

 

「久しぶり」

「おう 久しぶり」

 数日後、学校でもう一人の幼馴染、藤森と会った。幼馴染と言っても男だが、こいつもヴァンパイア。小学生の頃から勉強ができて、高校に入ってからはずっと学年1位をキープしている。


「どうよ」

「何が」

「山城だよ」

「まぁ いつも通りかな。」

 

 昔は紅凛と藤森と3人で遊んだのに、今は一緒に集まる事が無くなった。その代わり、藤森が紅凛の近況について俺に聞いてくる様になった。


「またいつもの感じか」

 変わってないな と、藤森は笑った。


 せっかく同じ高校に通っているのに、紅凛と藤森の考えが異なるため、二人は距離を取るようになってしまった。

 紅凛は、ヴァンパイアは人間より優れた存在であると思っている。一方、藤森はヴァンパイアと人間が対等であるという考えを持つ。ヴァンパイアの大半は、藤森と同じ考えらしい。


「血、吸われてんの?」

「週1ぐらい。」

「どこで?」

「生徒会室。」

「マジで」

 藤森は驚く。まぁ生徒会室で吸血行為してたら引くだろう。


「なんかさぁ」

 藤森はそう言うとしばらく黙って、これから喋る事をためらう。

「なに?」

「いや。 その…… なんかエスカレートしそうで、あいつ。」

 言いよどんで出たのは、紅凛を心配する言葉だった。


「まぁ、ヤバくなったら相談するわ。」

「分かった。じゃあな。」


 今のところ、週に一度の吸血行為で特に問題は発生していない。ただ、これが毎日となると、俺の体がもつか心配になる。しかし、もし紅凛の要求がエスカレートした場合、求めるがまま血を提供してきた俺が要求を断る自信が無かった。


 ◇


 授業が終わり、家に帰ろうと教室を出ると、見知らぬ女子が話しかけてきた。


「木津くんだよね」

「はい。そうですけど。」

 初めて見る顔だった。


「ちょっと時間あるかな。」

「今?」

「そう。あなたと生徒会長の関係について。」

 そう言って、俺の方をじっと見る。まるで首元を見られている気がして、何故か焦りを感じる。


 恐らく同級生であろう誰かに連れられるまま、校内を歩く。

「さぁ、入って。」

 促されるまま部室に入る。入口には"ボランティア部"と書かれていた。


「あの、名前を聞いてないんですけど。」

「言ってなかったっけ! 桃山っていいます。同級生。」

 やっと自己紹介をされた。やはり同級生だった。


「それで、なんで俺を呼んだの。」

「木津くんさ、生徒会長から血吸われてるでしょ。」

「なんでそれを」

「なんでって、まぁ 私も吸血鬼だし。」

 桃山さんはそう答えた。答えになってないが。



「ヴァンパイアが血を吸うことを咎めるつもりはないけど、生徒会長ともあろう者が生徒会室で堂々と吸うのはねぇ。」

 桃山さんは、何故か生徒会室でのあの行為を知っていた。

「なぜ桃山さんが知ってんの。」

「私達の調査の結果だよ。」

「調査?」

「そう、悪い吸血鬼を監視してるの。」

「紅凛が悪い吸血鬼ってか。」

「悪い吸血鬼かどうかを調査してるの。」

 俺の続けざまな質問に、桃山さんは淡々と答える。俺は焦りを感じているのに、桃山さんは冷静だ。


「山城さんにこの事を質問しようとしたのに相手にされなかったから、木津くんに聞いてみたって事。どうやら本当みたいだね。」

 俺が吸血行為を認めている事に、今になって気づく。


「ねえ、木津くん。」

 桃山さんは、俺の事をじっと見る。

「自分を安売りしたら駄目だよ。大切な体なんだから。」

 桃山さんは、俺の首元を見てそう言った。


 ◇


 次の日、俺は桃山さんとのやり取りをすべて紅凛に伝えた。

「あいつ、無視してたら手出しやがって……」

 紅凛は、自分の物に手を出された苛立ちで怒っていた。"物"である俺は、怒る紅凛をただ見ているしかなかった。


「それで、どうしよう。」

「どうするって何が?」

「生徒会室で血吸ってたらまた言われるだろうし」

「血吸うの辞めろってか」

 俺の提案に対し、明らかな拒否反応を示す。

「そうじゃなくて、」

 血を吸う事では無くて場所の問題。俺がそう言おうとした瞬間、紅凛は急に笑顔になって俺を見た。


「なあ。お前は血吸われたいの?吸われたくないの?」

 紅凛が俺に質問する。いつも無条件で血を提供してきた俺に対し、初めて同意の確認をしてきた。

 俺はその答えを言うのにためらい、沈黙が流れた。


 

「これからも、血を吸ってほしい。」

 俺の本心を正直に答えた。恐らく俺の顔は真っ赤になっている。

「お前、今日から眷属な。」

 そんな俺の姿を見て、紅凛は満面の笑顔で命じた。

 

 紅凛が、ヴァンパイアは人間より優れた存在だと主張する理由が、何となく分かる。

 吸われた人間は、また吸ってほしいという願望を持つ。そして、他人の血を吸うのなら自分の血を吸ってほしいと思うようになる。人間がヴァンパイアに支配されてしまうのだ。

 

 そして、俺の思いは、紅凛にはお見通しなんだろう。


「よろしく…… お願いします。」

 俺は、紅凛にお礼を言った。眷属になった事が嬉しくてしょうがなかった。

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