第三話
くゆの横顔は、日差しを浴びて、きらきら輝いているように見えた。
*
二時間程、二人で喋っていただろうか。昼食の時間が近づいて来たのをきっかけに、俺達はそれぞれの病室に戻ったのだった。
味の薄い病院食にも慣れた。味噌汁を啜りながら、くゆの顔を思い出す。
確か、自分の体内の血液を作れないって言っていたはず。
空になったお椀に蓋をする。
人の病気を調べるなんて、本当はしてはいけないだろう。でも、俺はくゆのことをもっと知りたかった。
〝再生不良性貧血〟
聞いたことのない病名が、スマホの画面に表れた。
【難病指定されている。症状として顔色や唇の色が悪くなる。頭痛、めまい、疲れやすくなる。出血斑。血小板不足で、内出血を起こした時にできる。顔にできる場合もできる。体を強く拭いただけでも内出血を起こす。】
文章を読むと、くゆの姿がリンクする。もしかして、くゆの体にも、出血斑ができていたりするのだろうか。目に見える症状は、どんなに辛いだろう。
それでもくゆは、今まで懸命に生きてきたのだ。そう思うと胸が締め付けられるようだった。
学校に通って、適当に授業を受けて、くだらない話を友達として……
それが当たり前だと思っていた。でも、そうじゃない子もいる。源也と七海の顔が浮かんだ。
*
くゆの勉強や、検査の合間に、俺達はデイルームで話をするのが、お決まりになった。ある日、小さい頃何になりたかったか、という話から、互いの誕生日の話になった。
「壱哉の誕生日っていつ?」
「五月十六日。半年前に終わったー。くゆは?」
「十一月二十八日」
「え! 明後日じゃん!」
「そうだね。十六になるのかぁ」
しみじみした口調で言う。普通に誕生日を迎える、俺達とちがい、くゆが無事、一年過ごせたことは奇跡に近いのかもしれない。
二人で中庭に出た日以来、くゆとの距離が縮まったように思う。何気ない会話に花が咲く。
俺は点滴治療が終わり、もう一度血液検査とレントゲンを撮り、退院できる見通しがついていた。
それがちょうど明後日だった。くゆの誕生日。友達になった証に、プレゼントをあげたいと思った。その晩、早速、七海に電話で相談した。
くゆのことを一から説明しないといけないのは、面倒だった。途中で、冷やかされたりもしたけど、聞き流した。そして、ようやく、誕生日プレゼントを渡したいということに行き着いた。
女子が何をもらったら嬉しいのか、はたまた重くないのか、俺には皆目見当がつかなかった。
「何がいいかなぁ。くれるんだったら何でも嬉しいと思うけど」
「それじゃあ、お前に相談してる意味ないじゃん」
「んー……じゃあ口紅とかグロスは?」
それはレベルが高いプレゼントに思えたけれど、くゆには、喜ばれるんじゃないかと思った。唇の色が悪くても、それで隠せる。
「それ! いい!」
「声でか!」
「それでお願いなんだけど……買ってきてくれない? 代金後払いするから」
「やっぱそう来ると思った。いいよ。でも、退院したら、そらいろカフェのフローズンヨーグルト、三回奢ってね」
そらいろカフェは、学校の近くに最近オープンしたカフェで、フローズンヨーグルトが大人気なのだ。
「はぁ〜? そっちの方が得じゃねぇ? いいよ。わかったよ」
「やった! じゃあ、明日買って持ってくね」
「サンキュ」
そう言って電話を切った。急なお願いに文句を言いながらも引き受けてくれる、七海に感謝した。