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海とうみねこ

作者: 薄雪草



元町の駅を出て

アスファルトの急坂を登っていく

坂上に近くなると

大きな(けやき)の木の向こうに

風の強い見晴らしの丘が見えてくる


その先には海と空があり

水平線は一直線に伸びて

湾の先には市街地が小さくなって

地平線まで広がっている


その風景は今も昔も変わらない

木漏れ日のある街なみ



生まれた街のこと

育った街のこと

知らないどこかに記憶が記されて

そうしてある日

鮮やかに蘇ってくるという





丘の上には小さな公園が

こどもたちを遊ばせて

冬の初めの空の下に

枯葉を舞わせていた


この季節には人もあまりいない




庭園の赤い道を

なんとなく散策していると

薔薇の花が数輪

元気に咲いていた

風の子みたい



見晴らし台に行って

白い柵から乗り出してみれば

遠くには海が広がって

空と海の境に水平線


そうだ

海に行こう




長い階段を降りていくと

海沿いの道に着いた


風に海の匂いがしてくる



歩道沿いには鳥のエサ売りのおじさん


一袋買ってみた

中を見るとえびせんだった



海に向かって

えびせんを投げている人がいた


なんだろう、と近くまで行けば


うみねこたちが

波消しブロックの上で

群れて羽を広げたりして

騒いでいた




きみたちは

本当にえびせんが好きだね




フェリーが音を立てて出航する時間になった

かつては流行歌にもなった

ルージュ艶やかだった彼女は

今では落ち着いてサロンの貴婦人のように

時代の流れるのを、のんびりと傍観している


エンジン音とともに

ディーゼルの匂いと

伝わる振動

ゆっくりと岸を離れていく




加速する

風を切って 波を切って


海面には白波が広がる

ずっと先まで

遠くまで



晴れた空

雲ひとつない青空

視界には鳥の影

白いうみねこ



空を切って翔ける

速く 速く



追いかけている



空のなかを疾走する

無駄のない美しい羽の動き



どこまで追いかけていく

えびせんはもうない




遊んでいるような

笑っているような

面白いかお


目はちょっと怖いね

きみたち



気持ちよさそうだね

先端に立ってみようかな



風を切っている

映画のようではないけれど

空を飛んでいるよ

海の上を



なんか

気持ちいい風

最高だね












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