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ある王国での謎解き〜幕間〜

お久しぶりです!

完結に向けて頑張ります!


連日開かれる長ったらしい会議が再び始まる。保安局室長のセノイは辛うじて捻出した僅かな時間を使ってここに居る。ただ、会議だからと手を抜く暇はない。貴族の世間話一つでも聞き漏らすわけにはいかない。


「ヘンダーソン公爵はまだ見えられておりませんが、一先ず魔術団団長のセマンゲロフの研究発表から始めさせて頂きます。」


円卓のセノイの隣で、姿勢の悪いひょろ細い男がおかしな挙動で立ち上がる。


「えー、発表とは、古代魔道具についての研究報告となります。

現在の理論で作り得ない超高性能なブツを古代魔道具と我々は呼んでいます。世間のオカルトマニアは古代の超文明が作ったと主張していますが、事実そんな文明の痕跡はありません。二百年ほど前に急に出回ったため、王国は回収命令を出しその大いなる力で文化文明を発達させたわけです。」


理屈が好きなセマンゲロフは前置きから長い。そして無闇矢鱈に文章を飾り付けるのが好きなようだ。


「この世界の我々はこの程度の文化発展レベルでは考えられないほど贅沢な環境に住んでいるんですよ。

例えば服。デザインや布地が洗練されています。染色技術は優れダンス会場はいつでも七色です。

例えば洗濯技術。私達の服にはどんなシミもシワも残りません。

例えば衛生状況。貴賤問わずほぼ全員がお湯で風呂に入れます。公衆トイレもあるし、野糞禁止法律すらありますし。

例えば宝石カット技術やアクセサリー製作技術。

例えばマナー。

例えば食品に関する衛生状態、食事バランス。

例えば肥満解消方法。

例えば美容整形」

「もういい。で、何が言いたいんだね君は?」


会話数を適度に制限してくれる魔術団の部下が居ないことで、司会者はやや不満気味だ。


「この世界は古代魔道具によって一定の生活水準に保たれているということです。問題は誰がその魔道具を作ったか。

そして、資料をご覧ください。先日の田舎から来た『古代魔道具を触ったことのない』学生が発見した法則です。そして、魔道具の魔術基礎部分にも同一の構造式がみられる。興味深いのは、私がどれだけ魔道具を調べても『学生が発見したと知るまで全く気が付かなかった』ということ。

つまりっ!!

古代魔道具は『古代』のものじゃない。未来からやって来た。そして、時間軸上のパラドックスが発生しないよう、何者かがこの世界の認識を阻害していた!!」


「んだとしたら面白いなという仮説です!!」

唯一話を理解していたセノイがガクッと項垂れる。

「……仮説かい……」


円卓の他の皆々は、セマンゲロフの話を殆ど聞いていない。セノイは、同期のよしみで質問をしてやる。


「じゃあ古代魔道具は……誰が作ってばら撒いたんだ?」

「分かってないからロマンなんだろ?」


セマンゲロフは的を得たりとにやりと嗤う。

(ドヤ顔うっざ。)

セノイは心の中で毒づいた。


「あと、本題の魅了の魔術、傀儡の魔術、この二大洗脳魔法は古代魔道具を解析し、現在の魔術学によって不完全に増幅した結果作り出したもの。傀儡の魔術についての対抗措置はもう少し掛かりそうです。なんてゆーんですかね、【これだ!】っていう奴がないんすよねー。」

「それを先に言い給え!!」


司会者が机を叩く。


「それにしても、ヘンダーソン公爵はまだ来ないのか。」

「昨日の族の件で顔を出せないのではないか?」


やはりリリアナの件によるヘンダーソン公爵の権威の失墜は免れないか。政権争い名物【ひそひそ話で足を引っ張り合うの図】を監視しながらセノイは軽い欠伸を曝す。


会議が空中分解しかけていたその時、誰かがドアを急き込んで叩く。駆け込んできたのは事もあろうにセノイの部下だ。


「大変です室長!!」

「会議中だ。」


部下は渋るセノイに構わず会議室から引き摺り出す。そして持っていた水晶玉に魔力を灯した。王宮内の映像が立体的に映し出され、その中にはラジアの大使とヘンダーソン公爵が映っていた。


日付は昨日の夕方。場所は大使の居室の一角。セマンゲロフ開発の最新式監視魔法により数多の防御システムを掻い潜って取り得た映像らしい。


『これはこれはヘンダーソン公爵、お久しぶりですな。』


『大使殿!!奴隷は十分行き渡ったでしょう。(傀儡)例の魔法に対する効果も確認できたはず。約束は守ってもらおう。』


侍従を連れたヘンダーソン公爵がラジア大使に食って掛かる。


『約束……?はてなんのことでしょう。』

『貴様!!忘れたとは言わせん!娘に掛けた殺人魔術、十分な奴隷をラジアに送れば解除すると言ったはずだ!!』


『おやおや、王位に返り咲く事よりもマリー(娘)にこれ程ご執心とは。もう一人のリリアナ(娘)の方には刺客まで送り込んだというのに。気まぐれなお人だ。』


『何故それを……、むぐっ……!!』


虚ろな表情をした公爵の侍従が、主の首にナイフを押し当てる。


『アストリエの人間に合わせた傀儡の魔術が成功した証ですよ。貴方の家令は特段操りやすい。

しかしそうなると……もはや、貴方は不要ですな。』


ラジアの大使は操り人形に向けて視線で命令を下す。


『さようならです。』


続く緋色の映像を見て、セノイはため息を一つ吐く。


「これは死んだな。」

「……はい。」

「ヘンダーソン公爵は王太子妃の命を人質にラジアに操られていた、奴隷網を形成していたのも公爵で間違いなかった。それから、」

「傀儡の魔術の最適化が完了してしまったんっすね。このままではエルドラの二の舞いになるっす。どうしましょう……。」


セノイは壁に体重を預け、他人事のように笑う。


「あはははっ、あーあこの国終わったなー。」

「保安局室長がそんな事言ってたら駄目じゃないっすか。」

「今あるカードは役立たずばかり。やるとしたら、ジョーカーひねり出すか棋盤ごとひっくり返すしかないかな。」


部下は、危機感0のセノイが会議室に戻っていくのを期待の眼差しで見送った。


「皆様、緊急の報告がございます。ヘンダーソン公爵はラジアの大使に殺害されたようです。」


セノイの報告に王太子が悲しげな顔を浮かべたが、円卓の皆は粛々と受け入れる。その後の会議としてラジアへの対策と事後処理が話し合われることとなった。


✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡✡


セノイは昼間に見た映像を思い出し、棚に置かれた酒に手を伸ばし、諦めた。

ヘンダーソン公爵についての処理、リリアナの脱走についての件、ラジアの傀儡の魔術の件、何か一つでも対応をミスればこの世からさようならだ。酒の力は余りにも危うい。


部下には既に指示を出した。まず何よりもリリアナの件を片付ける。


「途中で矢を当てたという報告もある。死体は無かったが花が摘み取られた茎。穴。……リリアナが死亡したんだろう、オトエット遺跡で力尽きて、それで埋葬したんだ。」


ギルドは葬儀(そこら)辺しっかりやったのだろうと想いを馳せてからその雑念を振り払う。今だけは集中しなければ。


「すると不自然だ。リリアナの遺体は何故存在しない?……誰が持ち去った?何故追跡魔法が消失した?」

「室長……!リリアナの鑑定結果出たっす……!」


セノイはドタドタ駈けてくる無粋な部下を睨んでから報告を促す。


「リリアナの能力は『仮死回復』です。毒を飲ませたり傷付けると仮死状態になるんだそうっす。……それで蘇る……『真実の愛』の相手さえ側にいれば……何度でも。

……全然驚かないっすね室長。」


「大体拷問の手応えから想定していた事だしな。それにしても【眠り姫】じゃなくて【白雪姫】だろう……まぁ、不死身体の攻略は真実の愛を殺すしか無い。その愛の相手は分かったのか?」


状況的に見てギルドとかなら面白そうだが。


「リリアナの母、リリスだそうっす。」


セノイは自分の耳を疑った。部下から資料を引っ手繰り、走るように目を通す。だが部下の発言は真実だった。


「リリスは……十年前に死んでいるぞ。」

「で、ですよね。死んでる相手とのキスとかちょっと突飛すぎて理解できないし……まじもんのゾンビ的な何か」


「待て!ネックレス……。聖女の魔力……!」


部下は全く以て意味が分からないと目で訴える。セノイは頭の中で言葉を噛み砕くと同時に、紙にペンを走らせる。


「リリアナは真実の愛が無ければ生きていけない。リリスは死亡した場合、リリアナは永遠の眠りにつく筈だった。」

「永遠の眠りってなんだかロマンチックっす。」

「話の腰を折るな。死にたいのか?」


セノイが睨めば、部下は慌てて口を噤む。だがセノイのペンは動き続けている。


「だからリリスの魔力を一時的にネックレスに封じ込めた。効力『基礎スキルの抑制』で以って、リリアナの仮死回復を抑制していた。」


「確かに……一時凌ぎですが筋は通っています。リリアナは死んだけど、死んでいないって事ですよね。でも消えた死体は……」


「共犯が居るだろう。リリアナが蘇る事を知っていた共犯者が遺体を回収した。

全体的なシナリオはこうだ、リリアナは恐らく仮死状態。その事を誘拐犯は知らず埋葬、その後共犯者がリリアナを回収及び可能であれば蘇生。」


「室長質問です。何故リリアナは母の魔力が宿るネックレスを持って王宮に侵入したのでしょうか?」

「そりゃ、化けるためだろ?」

「そ、そうですよね。」


紙の末尾にサインと版を押すと、紙を仰いでインクを乾かした。


「……何故持ち込んだのか……はっきりしないがまあいいか。」


セノイは蝋で封をした手紙を部下に託す。


「騎士団への助力依頼書だ。リリアナは生存している可能性が高い。草の根分けてでも探し出せ、騎士団長のサンをこき使っていいから。」

「アイアイサー!」


部下が手紙を鞄に入れたと同時に、爆音と共に城全体が揺れた。棚が外れ書類が雪崩れて落ちる。ラジアの魔術攻撃だろうか。


「何が起こっ……」


壁に掛けられたタペストリーの魔術塔という文字が光を放つ。


「魔術塔からだ。お前も付いてこい。」

「ア、アイアイサー!!」


セノイ達は魔術塔にて、大きなため息をつき深々と頭を垂れた。辿り着いた先の魔術塔は吹き飛び煉瓦の山が散乱している。

セノイとしてもいつかはやるだろうなとは思っていた。本当だ。だが、これほど見事な犯行になるとは予想していなかった。


「はははっ凄い、凄い魔力値だ!!魔力発電も夢じゃない……!!」


魔王に降臨を願ったかのような、魔術師(マッドマジシャン)がそこにいた。地下へぽっかりと開いた口の底に魔王ー例のネックレスが火花を散らしながら小刻みに震えている。セマンゲロフがかつて、ネックレスを人に例えた意味が分かる。ネックレスは狂ったように、何かを求めるように、閉じ込められた結界の中で暴れているのだ。


セノイはその膨大な魔力によって塔の修理を開始したセマンゲロフへ、冷たく言い放つ。


「室長権限で実験の中止を命じる。」

「ええー!今いいところでー」

「黙って宙に浮く椅子とネックレスを持って来い!」


好奇心さえ平伏させる激を飛ばしながら、セノイは哀しげな真実を垣間見た気がした。

リリアナはここまで計算した上で事に及んだらしい。たった一人セノイが真実に辿り着く事を除いて。


セノイは状況推測が得意で、込み入った状況に燃えるプロ。セマンゲロフは天才魔術師。二人は割とタイプが似てる。

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