鏡よ鏡
「…で、それで、駅前のシュークリーム屋さんは毎日二時間半の行列で!」
「シュー…って、二時間半!すっごいおいしいんだね」
「そうです、すっごいおいしいんです!今度先生にも買ってきてあげたいんですけど…」
「うわぁ〜、異世界産スイーツ食べてみたいなあ…ってあれっ、チャイム!?」
「あれ!?だ、脱線しすぎた!」
話は脱線していた。すごい脱線していた。普通に話しているだけで授業時間が終わっていた。先生が慌てたように、でもひとつ咳払いをして穏やかそうに話す。
「うーん、とりあえずね、やっぱりどこから来たのかもわかんないわけだから…。」
カチ、カチ、とペンの背を押してくるりと回す。手元のボードをコンコン、と叩いて彼は話す。
「無料部屋しかさ、空きの面でもお金の面でもど〜〜しても貸せないんだけどね、色々帰りの目処が立つまで寮に入れてもらえるように一緒にお願いしてみるから…女の子に申し訳ないけど…!」
うん、うん!と頷くと彼が嬉しそうに笑った。それで、また咳払いをした。先生は脱線しやすいみたいだ。
「じゃ、なくて!そう、申し訳ないけど…我慢してくれるかな?」
手を上げて、はーい!と返事をする。
「いいお返事!話が早いねっ、褒めて遣わそう!」
「やったぁ!」
我慢も何も、用意してもらってありがたいもんなんだし!魔法もぜーったいに使ってみたいし、友達もできたら楽しそうだ。先生が色々教えてくれた。ファンタジックな世界の、冒険者養成学校。世界にもまだあんまり多くないらしいけど、なんか勇者が設立したらしい。何もかも全然違うところだ。
「じゃあじゃあ、寮長さんへの案内もあることだし!ウィル先生がばっちり、学生寮へ案内してあげよ〜う!」
先生が立ち上がってどやどやと歩き出した。またいい返事をして立ち上がる。保健室に一旦外出中!ってプラカードを下げていた。かわいいひよこが揺れている。出発進行ー!なんて言いながら、私は見慣れない学校をまた歩き出した。