鏡よ鏡
「ちょぉっとすごい音したよ、どうしたの〜!?」
周りをふと見回してみる。ここは踊り場みたいだった。下の階から声がしている。
「…あ、ウィル先生の声…」
「ウィル先生?」
「え、と、保健室の先生で…じゅ、授業も…たまに」
「先生?じゃあ…」
はたと足元の破片に気付く。砕け散ってるこの鏡、どう考えたって備品、だ。
「…に、逃げるべきかな!?」
階段の続きに足を踏み出そうとして、続きがないことに気が付いた。しまった、ここが最上階なんだ!逃げる先がなくてあわあわする。私の言葉に驚いていた女の子も一緒にあわあわしている。
あたふたしている間にそのウィル先生がやってきてしまった。
背が高くて、この人もものすご〜く外人さんだ。先生は周りを見るやいなや驚いた顔をした。
「ええっ!?何があったの!?鏡が倒れてる!」
「え、えーっとですね…な、なにかな…」
なんと言っていいのかわからず二の句の告げない私に、女の子が何度かつっかかりながら先生に話した。
「…あ、あのっ!」
「うんっ?うん、なにかな?」
「この子、怪我っ…手当て、したんですけど…」
先生がは、とした顔をする。少し咳払いをして、懐から手袋を取り出す。あたりのガラスを払って、階段まで道を作ってくれた。
「分かったよ、フローラちゃん、ありがとう。もうすぐ休み時間も終わるから、クラスに戻ってていいよ。頼れるウィル先生が、この子の話はしっかりと聞いておこう!」
女の子…フローラちゃんっていうのかな?は、先生の言葉に小さくこくんと頷いて、先に階段をぱたぱたと降りていった。でも途中でちょっと振り向いて、私に小さく手を振ったりした。
「先生!あの子かわいい」
「うんうん、いいことだけど君には聞きたいことが色々あるかな〜!迷わず後ろ着いてきてね〜」
「はぁい!」
「うーんあの惨状の後とは思えない、いいお返事だ!」
ウィル先生は赤っぽい茶色の髪をぴょんぴょこさせてて、眉毛が少し太くて、笑った感じがほんわかしてる。私は階段を降りながらちょっと振り返った。割れた鏡は周りより黒ずんでて汚れて見えた。なんだか新しそうな木の建物ってあんまり見ない。明かりもなんかヨーロッパみたいだ。行ったことないけど!
「先生、見て見て四角い電気!全部木の建物!映画みたい!」
「うーんとりあえず保健室で聞こうね〜!」
「はぁい!」
授業が始まる時間なのか、廊下に生徒はいなかった。授業中の廊下ってちょっぴりワクワクする。なんだか羨ましがられるんじゃないかなって気持ちになりながら、先生の後ろを着いて歩く。
ここは絶対学校なんだと思うし、でも見たことない場所ばっかり。なんだか映画の世界みたいだ。通り過ぎる部屋にもガラスはなくて、小さめの四角い穴が空いてるだけだった。たまに遠くから授業の声が聞こえる。あと、なんかガチンガチンって音も。先生に聞いてみようかなぁなんて思いながら、授業中だから静かにしてた。
「はい、入って入ってー。僕のお城だよー」
「失礼しまーす!」
扉の中はツンとして、病院よりもっと消毒液っぽい匂いがした。こういうのも嫌いじゃない。なんだかワクワクしながら、促される通りに木の丸椅子に座る。先生が紙をすべすべの木の板に乗っけて、机の上のインクをかぽって開けた。ペンをそれにちょいっとつけて向き直る。彼はくるりとそれを回しながら口を開いた。