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「暇を持て余した神々の皆様ァ!本日はようこそお越しくださいました!!」


 幕が開き、ステージ上に会場の熱気が流れ込んでくる。

マイクを持ったイケおじが声高く言う。キィィン......とハウリングが鳴るが、シルクハットのイケおじは気にせず会場からの声援に手をふり応え、言葉を続ける。


「本日行いますのはァ!......皆様お待ちかねッ!魂の、オォークショォォォン!」


 魂の、オークション。つまり彼らは、商品。“神々”とやらに売られる側の、魂。


.......

...


 地球に住むさくら高校に在籍するクラスの1部は修学旅行中、事故にあいこうしてこのオークションである主催者側の神に魂を輪廻の輪から抜き取られてしまった。


そんな、彼ら彼女らは透明なプラケースみたいなものに入れられて、身動きとれなくなっている。人魂のような形で漂っている。


「......本日出展いたしますは、地球という星より収穫いたしました、年若い人間の魂でございまァす!その数、全部で40個!!ちなみにこの地球という星は沢山の世界からも評価が高い魂の産地として有名でございます!」


 イケおじはステージ上の演壇から、客席に向かってしゃべり続ける。


「もちろん、皆様方が競り落とした魂は自由にして頂いて構いません。煮るなり、食べるなりまたまた、実験に使ったりと」


 客席から笑い声があがる。客席には、超絶美男美女な神や角生えてたり、腕や足が何本も生えてる神がいたり、見た目が人型ではなく昆虫だったりトカゲみたいなのがいたり、ぐちょぐちょ不定形のいわゆるスライムみたいなのがいたりする。


「ンまァ!ここにお越しいただきました皆々様におかれましては!そんなもったいないことをされるわけがない!それはワタクシも重々承知してございますよォ!」


 ジョークだったらしい。


「主役、脇役、はたまた悪役!どのようにご使用いただきましても結構でございます!これらの魂、自由にお使いいただきまして、皆々様が紡ぎだしたる物語!存分に盛りあげてくださいませッ!」


「さァッ!第100回、異世界転生用魂オークション IN エグゾディア開幕でございまァす!!」


イケおじがそう叫ぶと、ビジネスウーマンのような女性がステージ上にあるプラケースを持ち出し前にある赤い台に持っていく。


「魂のプロフィール、ご紹介させていただきましョーゥ!」


 イケおじが魂にかぶせられたプラケースを外し、手元の資料を読み上げる。


「名前は成田陸地球では一般的な名前ですね。

部活動は、地球でも有名なスポーツである、強豪サッカー部主将としてチームを引っ張っていました。

おっと、このオークションに初参加の方もいますので単語は説明しましょう。部活動とは、地球では仲間とせっせたくまするよえな場所です。他に聞きたいことはありますでしょうか? 」


「すいません、主将とは何ですか?」


「おおっといい質問ですね。主将とは、言わばリーダー的な立場ですね。彼は、リーダーとして信頼も厚く、学校では、人気者だったそうです。そして、成績優秀 運動能力抜群

老若男女問わず優しいところから街の人にも人気が高かったそうです。皆さんもお気づきかと思いますが!これほど、勇者適性 主人公適性が高い人物はわずかしか居ないんじゃないでしょゥ?自分も司会を初めてここまで凄い魂は初めて見ましたァ!」


この魂はどうやら、凄いらしい。

純白な神々しい光を放ち金色のオーラが纏っているように見える。誰がどう見ても凄いことは分かる。


「なんと、美しい魂じゃ。これは、司会の言っていたように食べたくなってしまったわい。」

「私の求めている魂じゃありませんが.......なんて美しい色合いなのでしょうか」

「おいおい、こりゃーいい時にオークションきたぜ!楽しみだ」

「うわぁ〜綺麗。勇気出して買っちゃおうかな」


「さァさ!さっそく入札のほう、始めてまいりますよォ!この上質な魂、”成田 陸”!最低落札価格からのスタートですッ!」

「20,000!」

「25,000!」

「53,000!」




 どんどん鈴堂くんの魂の価格が競り上がっていく。どうやら、通貨?は“マナ”というものらしい。


「108,000!現在108,000マナ!他にこれ以上の値をつけられる神様はいらっしゃいますかッ!?」

「えぇい......っ!なら110,000マナよ!これでどうかしら!?」

「110,000!110,000!......ほかに、いらっしゃいますか!?......いらっしゃいませんね!?それでは“鈴堂 翔太”の魂は、そこのあなた......“聖神ライントーリア”様、落札決定だァッ!ご使用時には記憶、加護など各種設定をお忘れなく!」

「えぇ!もちろんよ!」


 ステージにあがって鈴堂くんの魂を受け取ったのは、美しい金髪の女神様だった。

 魂を頭上に持ち上げ、他の神々に見せびらかしている。


「ちぃっ!しょっぱなからライントーリアにはやられちまったな!」

「でも、楽しみです!ライントーリア様とバハリア様の『勇者VS魔王』シリーズは安定の面白さですからね!配信が待ち遠しいな!」

「王道すぎる感じもしないでもないけどな」


 周りの神々は悔しがりながらも、笑顔で拍手をしている。

 配信って何?


「さぁ!次々参りますよォッ!続いてご紹介いたしますのは......」




 こんな風に、私の周りに置かれていた魂たちは、次々と神々に競り落とされていった。

 その様子を横から見ていてわかったのは、どうやらここに並べられている私含めて29コンの魂たちは、私のクラスメートであるらしい、ということだ。

 さっきシルクハットが“地球から収穫してきた”って言ってたよね?

 私たち、クラス丸ごと攫われて、魂にされて競りに出されてるのかな。


 えぇ......と?

 私たちの意思はなんの考慮もされないの?

 神様的に、それってアリなの?

 ......アリなんだろうなぁ。みんなノリノリだし。


 ......まぁ、私は、これまでの生活に未練があるかっていわれたら、ないから別に良いんだけど。




「80,000!80,000!......これ以上は、いらっしゃいませんね!?落札!落札です!“郷木 健”の魂は...“盗賊神ヤボー”様、落札でございまァす!」


 ステージ上では、郷木という男子の魂が競り落とされていった。

 ちなみにこの郷木、端的に言えばいじめっ子だ。

 男だろうが女だろうが、気に入らないやつはあらゆる手段でいじめ倒すろくでもないやつだった。

 私も色々とされた。

 言葉にしたくないようなこともされた。

 誰も助けてくれなかったけど。

 世の中って冷たいよね~。


「カカカッ!みろよこの魂!この歪んだ感じが芸術的だよなぁ~!?オレ様の加護を与えるにゃ、やっぱこういう刺激的な香りがするヤツじゃねぇとな!」


 盗賊神ヤボーとやらは郷木の魂を受け取り、上機嫌で席に戻る。

 ってか盗賊神て。その神様自体もろくでもない存在であることが察するに余りあるな!?




「さッ!続きましてはァ......」


 そのシルクハットの言葉が聞こえると同時に感じる、ふわりとした浮遊感。

 私の入れられたプラケースが持ち上げられ、ステージ上に運ばれていく。


 ......私の、番が来たのだ。


「“藍原 瑠奈”!勉強、運動、すべてダメ!友達もいない!助けてくれる家族もいない!みんなからいじめられる、正直いって落ちこぼれの女子高生!」


 私の紹介が酷い!?

 いや、間違ってはいないよ......悲しいことに間違ってはいないけどさ!

 それでも私、頑張ってきたじゃん!超、頑張ってきたよ!?

 殴られようが、モノ盗られようが、クラス中......“家族”からも無視されようが!!

 つらいことがあっても負けないように、気持ちだけは明るく前向きに生きようとしてきたじゃん!

 そこら辺評価してくんないのかな!?




 ......えっ、何この会場の空気。

 何で私が出てきた途端に、シーンてなってんの?

 ちょっと神々~!しらけないでくんな~い!?何で若干引いてんの!?




「......汚っ......」




 会場の中の誰かが、そう言った。

 小さなつぶやきだったけど、静まり返った会場の中で、その言葉は悲しいほどよく響いた。


 ......うん、わかる。そう言いたくなる気持ちは良くわかる。

 だって、あのいじめっ子の郷木でさえ、魂はそれなりに透き通っていた。形はいびつだったけどね。

 で、私はどうかといえば。




 ......真っ黒だもんね。

 どす黒いって言っても良いかもしんない。

 それに加えて時折さびっぽい赤色が浮かんでは消えるとこなんか、最高に汚い。

 他の魂と比べたら、そら引くほど汚いってのは、まぁ、わかる。

 そうかもしんない......。


「あ、アァーーッ、と......」


 シルクハットがあわてている。

 司会に夢中で、私の魂がめちゃんこ汚いって事実に、今更気づいたらしい。

 ちょっと準備不足じゃない?ワキが甘いよキミィ~!社会人......社会神(?)失格じゃな~い?


「で......ではこの魂、最低落札価格は......1マナ!1マナで良いです!はい、入札スタートォッ!」


 シルクハットがどう見ても投げやりな感じで最低落札価格を決め、私の競売が始まった。

 アシスタントの顔もやもや黒スーツお姉さんが、私にかぶさっていたプラケースをとる。




 次の瞬間。




「くっ臭っ!?その魂臭っ!!?」

「ゲホッちょっ......ありえねぇ!ありえねぇぞ!?なんだその臭い!?」

「オ......オゲェッ!ゲロロロロロロ......」




 会場は、一瞬で地獄絵図となった。

 鼻をつまみ、苦しそうにする神々は良いほう。

 床に倒れ、痙攣している神もいる。

 デロデロ不定形のスライムみたいな神は、ゲロ吐いてた。

 失礼だな!自分もゲロみてぇな見た目してるくせによ!


 まぁ、とにかく。

 私の魂は、汚いうえに。

 もの凄く......臭いらしい。


「も......申し訳ございませんッ!申し訳ございませんッッ!!どうやら魂の収穫過程で、ゴミが混じってしまっていたようです!!」


 シルクハットは平謝りだ。

 ってかゴミって酷い言い様だなおい。

 これでも17年間、一生懸命生きてきた女子高生の魂なんだぞ!


「すぐにッ!すぐに滅却処分いたします!」


 胸ポケットから小さなリモコンのようなものを取り出したシルクハットが何やら操作すると、私の目の前に真っ黒な渦が出現した。

 ......ん?滅却処分??


「ただ今、虚無と接続中......接続確立いたしました!このゴミは臭いごと虚無に廃棄いたします!ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでしたッ!!!」


 え?虚無?廃棄?何言ってんの?


 いまいち事態を理解していない私は、腰を90度に曲げ客席に謝り倒すシルクハットや黒スーツお姉さんを眺めながら......。


 シュポッ......と小気味よい音を鳴らしながら、黒い渦の中に......虚無とやらの中に吸い込まれていった。

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