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第1話 生け贄選抜

 季節は春。太陽の日差しは日に日に暖かさを増して、風からは冷たさを感じなくなり草も待っていた、と言わんばかりに芽吹きだす頃。


 アランドル王国の王城、そこでこげ茶色の髪に黒い瞳をした若干18歳であるアランドル王国の「実質的な」若き王であるデニス=アランドル、

 俗称(ぞくしょう)呪殺王(じゅさつおう)デニス」とその側近たちがエドワード王国の王一行と話をしていた。

 会議室に集まった男たちは国家間の同盟に関する内容を協議していたのだが……。


「しかしこれでは……」


「まぁ端的に言えば、そういうことです。ご意見があれば受け付けますがよろしいでしょうか?」


「ご意見があれば受け付けます。ただし、いただいた『貴重なご意見』を元に方針を変えると確約したわけではない」と言い放ち余裕の表情を浮かべるデニスが率いるアランドル王家一行に対し、

 エドワード王家の者は(こよみ)の上ではようやく春になったばかり、というたいして暑くもない季節だというのにアブラ汗がじわり、とにじんでいた。万全を期して挑んだ会合のはずだが、体調はすこぶる悪い。


(家族一同を呪い殺したという噂の「呪殺王」に頭を下げねばならんとは……)


 昔はふさふさの銀髪をたたえていたが中年となった今では頭髪がとても寂しい、オーバーな表現で言えば「落ち武者ヘアー」である2男1女の父親でもあるエドワード国王は、表向きには平静を装った表情をしているが、正直言ってあまりいい思いはしていない。

 相手を怒らせたら自分の国は大変なことになるという恐怖、呪殺という特殊能力にたいする不安。それらが彼に重くのしかかるが、30年近く王をやっているためその態度を他人には、ましてや協議の相手には絶対に見せない。

 とはいえ、こんな乱世な世の中では結局は「弱いやつが悪い」ので出来ることは非常に限られ、ましてや逆らうことはできなかった。




 アランドル王国とエドワード王国の戦力差は子供が見たとしても明らか。

 富の源泉たる領土面積は両国間では少なく見積もっても6倍から7倍という大差がつく。しかもこれはあくまで「領土の広さだけ」を単純に測ったもので、穀倉地帯などの有効活用できる領土の広さ比べではそれ以上の差がある。

 当然軍事力の面でもその差は歴然としており、アランドル王国から比べたら「圧倒的に狭い」国土しかないエドワード王国のそれは「(ケタ)が1つ少ないくらい」に劣る。


 しかもアランドル王国とエドワード王国は国境を挟んでお隣同士。小国が生まれては滅びるを繰り返す今の世においては、いつアランドル国がエドワード国に攻め込んできても全くおかしくない。

 その会合は一応は「同盟に関する話し合い」という形になってはいるが、実質的にはアランドル王国からエドワード王国に対する「穏便な降伏勧告」であった。




「で、わが国との友好の証として持参金と……娘か」


「ええそうです。我々が得ている情報が正しければ確か……そう「魔女姫」と呼ばれている末娘のカレンがいるそうではないか。彼女をめとる事で友好の証としたいのだが、いいか?」


「……我々としてはそれで構いませんが本当によろしいのですか?」


 カレンの事を「魔女姫」というあだ名を使って呼んでいる以上、彼女が抱えている「特殊な事情」は既に周知済みなはずである。それでも彼女を取引材料に使う事に対し念を押す。




「友好の証として相手国の姫君をめとる、というのは何も珍しい事ではないでしょうに。何か不満な事でもあるのかね?」


「い、いえ別に。不満な点は特にございませんよ」


 エドワード王家にとっては今回の話は正直、娘といくばくかのカネ、特に娘は「魔女姫」と呼ばれ忌み嫌われている末の娘、カレンを差し出せばとりあえずは王国の形は残るだけずいぶんと幸運だろう。

 戦争になって一方的に蹂躙(じゅうりん)され、国もろとも滅ぼされるよりはかなり「マシ」だといえる。


 その後の協議の末、アランドル王国とエドワード王国との正式な同盟が成立した。

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