巨乳美人の彼女欲しいと貧乳の幼なじみに言ったら大変なことになった
「ねえ菜奈」
「何? 今いいところなんだけれど」
漫画を読んでいた菜奈が俺の方を見て睨んでくる。どうやら少し間が悪かったらしい。まあ発言を無かったことには出来ないからこのまま聞いてしまおう。
「どうして俺ってモテないと思う?」
「逆にどこにモテる要素があると思ったの?」
これは手厳しい。いつも菜奈の毒舌をふるわれてきた俺でなかったら泣いていたところだ。
「明るいところとか?」
「明るいだけだったら他にも山ほどいるでしょ。顔そこそこ、成績もそこそこ、運動神経微妙、改めて聞くけどどこにモテる要素があるの?」
駄目だ。泣いてしまいそうだ。もう俺の心はボロボロだ。
「もういい。俺がモテない理由は分かった」
「そう。なら良かった」
そう言い終わると菜奈は漫画に目を落とすかと思ったがまだ俺に視線は向いている。どうやらまだ聞きたいことがあるみたいだ。
「なんで急にそんな事言いだしたの」
なんだそんな事か。それなら簡単に答えられる。
「俺たちもう高校2年じゃん?」
「そうね」
「そろそろ恋人とか欲しいなって思ってさ」
菜奈が持っていた漫画を落とす。
「へ、へえそうなの」
菜奈は漫画を読み直しているように見えるがよく見ると上下が逆だ。何やら相当動揺しているみたいだ。
「菜奈漫画上下逆」
気づいた菜奈が漫画を持ち直し、恥ずかしさからか俺をキッと睨み付ける。俺悪くないでしょ。
「それで菜奈は彼氏欲しいとか思わないの?」
菜奈は成績優秀、運動神経もそれなりに良く、顔も幼なじみの贔屓目抜きにしても可愛い。帰宅部なのは俺と一緒だけど別にそこは大した問題ではないと思う。まあそんな菜奈は俺とは違って一部の界隈ではモテる。本人は全て断っているようだけど。
「作る気がないわけじゃないけど全く知らない人といきなり付き合うのは無理ね」
「そういうものか。俺だったら知らない人でも好みのタイプだったらオッケーしちゃうかも」
菜奈が再び漫画を落とした。それ俺の漫画なのでもう少し丁寧目に扱ってくれませんか。
「浩のタイプってどんな人?」
「えっと巨乳で、美人で……」
「もういい」
まだ外見しか言ってないんだけど。見ると菜奈が心臓のあたりを抑えている。胸が苦しいのかな。
「浩」
「どうしたの?」
「私って綺麗よね」
いきなりどうしたんだろう。急に菜奈が自信家になってしまった。
「菜奈は綺麗というより可愛い寄りだと思うよ」
「ぐぬぬ……」
ぐぬぬってリアルに言っている人初めて見た。なんというか嬉しさと悲しさがごちゃ混ぜになったような複雑な表情をしている。
「胸のことなんだけど将来性は加味されるの?」
将来性か……。それは考えた事無かったな。
「まあアリじゃない?」
「例えば、例えばの話なんだけど私の場合は……」
「無理でしょ。将来性という言葉に謝罪が必要なレベル」
無言で俺の頭部にチョップが飛んでくる。暴力反対! 俺は正直に答えただけなのに。
「そんなに言わなくてもいいでしょ。まだ成長の余地が残ってるかもしれないじゃない」
菜奈が胸部を両腕でガードしている。別に胸を奪おうとしているわけじゃないのに。
「さっきも言ったけど俺たちもう高2だよ? 今から成長に期待するのは難しいんじゃないかな」
「ぐぬぬぬ……」
ちょっと涙目になってる。まずい、ないとは思うけどこの状態で母さんが俺の部屋に入ってきたら誤解されかねない。
「ま、まあそうは言っても確かに育つ確率はゼロではないと思うよ」
菜奈の顔がパっと明るくなる。良かった、どうやら機嫌は直ったみたいだ。この隙に話題を変えよう。
「菜奈は異性の好みないの?」
そう聞くと菜奈は少し顔を赤くして俯いた。
「さっきも言ったけどはじめて会った人に告白されても正直困るから元から周りにいる人……」
いきなり範囲が大きく絞られたな。菜奈は若干人見知りで異性に対して積極的に話しかけたりしないから異性の知り合いは俺以外にほとんどいない。女子の知り合いはそれなりにいるみたいだけど。
「ふむふむ、他には何かある?」
「私って口が少し悪いところがあるでしょ? そんな私でも一緒にいてくれる人」
思っていたより自分の毒舌を気にしていたのか。菜奈の毒舌は親愛の裏返しだから菜奈の周りにいる人で気にしている人はいないと思うけど。
「なるほど。そこは大丈夫だと思うけどね。あとは何かある外見の条件とか?」
「外見は清潔感があればそこまで重視しないわ」
そこはイケメンとか言ってくれないと最初に巨乳とか言った俺がバカみたいじゃないか。
「そうなんだ」
「聞かないの?」
「何を?」
好みの異性についてはそこそこ掘り下げたし、話題も逸らせたので俺個人としてはもう満足なんだけれど何かまだ聞いていないことあったかな。
「好きな人はいないのかって」
菜奈の顔が熟れたイチゴのように真っ赤に染まっている。自分で言っていても恥ずかしいようだ。
「そこは親しき中にも礼儀ありというか聞いちゃいけないラインかなって」
「人のこと貧乳呼ばわりしておいて今更そんな気遣いしないでいいわ」
だって菜奈の胸部が起伏に富んでいないのは紛れもない事実だから仕方ないじゃないか。と言ったらまた頭部にチョップが飛んでくることが確定してしまうので心の中に留めておく。
「なら聞くけど菜奈は好きな人いるの?」
「いるわ」
菜奈は間髪入れずにそう答えた。まあ聞かれたがっていたからいるのではないかと思っていたけど改めているって言われると驚く。
「それが誰かって聞いてもいいの?」
「まだ分からないの」
え? これまでの会話で菜奈の好きな人に関係する伏線って何かあったっけ。
「分かってないって顔してる」
駄目だ。表情からこっちの考えていることが読まれている。
「はい、分かってないです」
「この朴念仁」
菜奈がずんずんとこっちに近づいてくる。
「わ、た、し、が好きなのは、あ、な、た分かった?」
「わ、わかった」
嘘です。理解が全然追い付いてないです。えっ、菜奈って俺のこと好きだったの。
「で返事は?」
「返事?」
「私が浩のこと好きって告白したのだから、それに対する返事があってもいいんじゃない?」
そうだった。頭が完全にショートしていた。菜奈が勇気を出して告白してくれたんだから俺も真剣に答えないと。
「菜奈が俺のこと好きって言ってくれたのは嬉しい。でも、正直今まで菜奈のこと異性として見てこなかったから恋人とかはすぐには難しいと言うか……」
「そう、私は貧乳だからフラれるのね」
なんか凄い人聞きの悪いことを言われた気がする。というか思ったより菜奈はショックを受けていないように見える。
「まあ浩はヘタレだからそう答えるのは予想していたわ」
そう言うと菜奈が俺の方にゆっくりゆっくり近づいてきた。あまり広くない部屋の中で必死に後ずさる。
「あの菜奈さん? 無言で近づかれるのは流石に怖いんですけど何するつもりですか?」
「大丈夫、怖くないわ。ただ女性の良さを体で分からせるだけよ」
全然大丈夫じゃない。俺の貞操の危機なんですが。
「私もはじめてだから心配いらないから」
だから心読むのやめてくれないかな。というか心配しかないよ。
「このまま突き進んでも誰も幸せにならない。冷静になろ菜奈」
「そうね。既成事実を作ればなんだかんだで浩は真面目だから責任とってくれるなんて考えてないわ」
バリバリ冷静だった。クールに俺の人生を終焉までもっていこうとしていた。
「母さん家にいるからね!?」
「もしばれたらその時はその時よ」
ガバガバな作戦だった。作戦の穴が思ったより大きい。
「考え直そうよ菜奈」
「考え直すのは浩でしょ。少しは私を異性として意識してよ」
「もう意識してるよ菜奈が女の子だって!」
じりじり俺に近づいてきた菜奈がピクリと止まった。
「ほんと?」
「この状況で嘘つく胆力は俺にないよ」
「なら改めて言うわ。私は異性としてあなたが好き。だから付き合ってちょうだい」
「俺面食いだよ?」
「私の顔好きでしょ浩」
言い返せない。美人が好きだが菜奈の可愛い系の顔も好きだ。
「俺巨乳好きだよ?」
「私の将来性に期待しなさい」
あるだろうか将来性。でも絶壁の本人がこんな自信満々なんだからあるのかもしれない。
「で答えは?」
もう出来る言い訳も思いつかない。なら俺の答えは1つだ。
「こんな俺で良ければよろしくお願いします」
「……はい」
その時俺に見せた笑顔は今まで見た中で1番良い笑顔だった。
こうして俺と菜奈は付き合い始めた。それからの2人の交流は詳しくは話さないけど菜奈の将来性はゼロでは無かったことはここに記しておこうと思う。