自分を責める感じから
「大丈夫だよ、ちょっとびっくりしただけ」
「念のため、手を見せてね」
お兄ちゃんはしゃがんで私の手を取り、確認する。
「そう?ポチの声がするからいったん外に出るね。ここにいてね」
痛いの痛いの飛んでけーといったあと、お兄ちゃんはポチのところに向かう。
「なんでこんなにぼんやりなのかな?」
「私のせいですね。私が離れたから……」
冬の精霊さんが自分を責めている。
「私と春でバトンを渡しあうことで、徐々に季節が変わっていきますので」
「えーっと……」
「今は季節の変わり目ということです」
まだ冬の管轄だから上着とか帽子、手袋が必要と冬の精霊さんは言う。
そして春の精霊さんは冬の精霊さんと離れたからぼんやりしているのだとも。
(『三寒四温』とか言われても……あとでママに聞こう)
冬の精霊さんの話を私は馬耳東風に聞き流す。
ママなら簡単に片付けたのだろう、の考えが私の頭をよぎり、肩を落とす。
(ここに来たのはお兄ちゃんとポチのおかげだし)
もしお兄ちゃんが魔法を使えたら、もう解決しているだろう。
「私はいただけだよね……」
うつむいてつぶやく。
マイナスの考えがさらにマイナスを呼び、私はとぼとぼと入口に向かう。
「リシアさん」
私の名前が呼ばれ、振り返る。冬の精霊さんが私を見ていた。
急いでママを呼んでくるね、と言おうとした矢先、冬の精霊さんが先に話す。
「ありがとうございます」
冬の精霊さんが頭を下げる。
「お礼はお兄ちゃんとポチに、だよ。私はなにも」
「私を見つけ、お話を聞いて探してくれた。それだけで嬉しいのです」
私が見つけたのは偶然、お兄ちゃんが魔法を使えたらもう解決したはず。
そう伝えようとすると、春の精霊さんのぼんやり感が増す。
「大変だ!」
私は慌てて冬の精霊さんのところに戻る。
冬の精霊さんが春の精霊さんを抱きかかえていた。
その姿はどこかで見た覚えがある。
(どこだろう)
私は記憶の糸をたどると、ママが堆芽を抱きかかえた姿が思い浮かぶ。
「リシアちゃんもこうして抱いていたのよ」
「そうなの?」
「リシアちゃんもお姉ちゃんとしてタイガちゃんを守ってね」
ママの言葉が蘇る。そして約束したことを。
(ママならこういう時どうしてたっけ)
ママが言っていたことや、やっていたことを思い出す。
(『周囲を見て力を借りる』だったよね)
私は顔を上げ、虫眼鏡をかざして周囲を見渡す。
春の精霊さんの力はどこかしらに感じ取れた。
「やれるだけやってみよう」
私はそう開き直り、もとい決意して、魔法の言葉を紡ぎだす。