春をさがして迷うもの
風が吹く。
吹き飛ばされる気がした私は、しっかりと足に力を入れ踏ん張った。
風の強さに公園にある風見鶏が回りだす。
まるで踊っている気がして、風が吹き止んでも私は風見鶏を見ていた。
「春一番ですな」
冬の精霊さんが、立ち止まっている私に声をかけた。
「今吹いた風も春なの?」
「はい。春がつく言葉はたくさんありますよ」
「小春日和とか?」
「それは秋から冬の言葉ですな。今ぐらいですと、春日和になるかと」
「ありがとう、冬の精霊さん」
これ以上は難しい話になりそうな気がして、私は春探しを再開する。
「先行くよー」
「待ってよ、お兄ちゃん」
お兄ちゃんの声がして、私はそっちに走り出す。
お兄ちゃんに合流したあとも、私は右に左にあちこちに歩く。
「うーん……虫めがねか何か持ってこればよかったかなあ」
「カードタイプのならあるよ」
右に左に歩き回る私にお兄ちゃんが声をかけ、ポケットを探る。
「もうじき暗くなるから、ほどほどにね」
「はーい」
お兄ちゃんから虫眼鏡を借りて、私は春の精霊さんを探す。
「もう暗くなってきたね……」
公園の出入り口から一番奥にある森に続く遊歩道の手前で、私はつぶやいた。
空の色は茜色から暗い青に変わりかけ、月がはっきりと見える。
「そろそろ帰ろうか」
外灯がもうじき咲きそうなスミレを照らす中、お兄ちゃんが告げた。
「もうちょっと、もうちょっとだけ良いでしょ?」
「あんまり遅いと、父さんも母さんも心配するから」
お兄ちゃんの言葉に続いてポチもワンと鳴く。
「うーん……」
パパとママが心配するのは困る。春の精霊さんも見つけたい気持ちもある。
「外に出かけたい気持ちはわかるからね」
お兄ちゃんが、やさしく私に話しかける。
「え?」
「父さんも母さんもつきっきりだし、寂しさを紛らわせたいのはわかるよ」
「えーと……お兄ちゃん、何の話?」
「散歩についてきた理由を、考えてみた」
お兄ちゃんの回答に、私は首を傾げた。
「えーと、私は春の精霊さんを見つけたくて外にいるの」
「そっか。そういうお話だったね」
お兄ちゃんは私の頭にポンと手を置く。
「ほら、帰ろう。寒くなってきたから」
そう言ってお兄ちゃんは私に手袋を渡す。
(うーん。どうしたらお兄ちゃんにわかってもらえるかな)
私は手袋に手を入れながら、お兄ちゃんを説得する方法を考える。