散歩の道で春探し
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。ポチの散歩、私もいっしょに行って良い?」
「良いよ。父さんにリュックを渡したら、一緒に行こうか」
「すぐ渡してくるね」
私はバタバタとダイニングに向かい、父にリュックを渡す。
「お兄ちゃんの散歩手伝ってくるね」
「気をつけて。暗くなるからリフレクターをつけてライトを持って行ってね」
買ってきたものを冷蔵庫に入れ、父が私の腕に黄色のリフレクターを巻き付ける。
「パパありがとう。行ってきます」
「いってらっしゃい」
私は玄関で靴を履き、帽子をかぶってマスクをして外に出る。
お兄ちゃんは片手にライト、もう片手にポチのリードを持ち待っていてくれた。
「川沿いに歩いて橋を超えたあと、公園を一周して帰ってくるよ」
「うん、わかった」
玄関を出て、私は指輪についた宝石にマスク越しにキスをして魔法を唱える・
――廻る廻るよ、糸車
縁を紡いでその先へ
私が魔法を唱え終えると、ポチが私を向いて鳴き始める。
お兄ちゃんがポチをなだめる。
「よしよし。ポチはその言葉聞くと、吠えちゃうから気を付けてね」
「そうなの?ママはよく使うのに……苦手なのかな?」
お兄ちゃんと会話しながら私は周囲をきょろきょろする。
「今度はどうしたの?」
「春を探してるの」
私の言葉にお兄ちゃんは少し考えると、川に向かう階段を下りていく。
茜に染まった夕焼け空が川に当たって反射する。
きらめく夕日と水の光に目を細めながら、私は兄を追いかけた。
「はい、フキノトウ」
これも春だよ、とお兄ちゃんは橋の下で私に言う。
近くに咲く菜の花を夕日が照らす。
冷たい風が吹き、私は身を震わせた。
「どう?」
小声で冬の精霊さんに話しかけると、雪だるまは首を小さく横に振った。
お兄ちゃんとポチは階段を上り、私も後ろについていき、橋を渡る。
「ママならもう見つけられたのかな」
街灯の明かりがつきはじめたころ、私とお兄ちゃんとポチは公園に着く。
花壇や芝生の柵を通り、杖を突いたおじいさんとおばあさんに挨拶をする。
途中で落ちていた缶を拾う。
「これ捨ててくるね」
近くにある自動販売機に向かい、私は駆け出す。
その隣にあるボックスの前に立って背伸びをする。
精一杯背伸びをしてなんとかペットボトルをボックス内に捨て終えた。
お兄ちゃんの元に戻る前に私はもう一度魔法を使い、春の精霊さんを探す。
「どうですか?」
「うーん、気配はするよ。ただ、ぼんやりしてどこかは――」
冬の精霊さんの質問に私が答えていると、またポチが鳴く。
「そうですか……」
冬の精霊さんが肩を落としている。
「大丈夫だよ。なんとか見つけて見せるから」
私は冬の精霊さんを励まして、公園内を歩いていく。