つなぐ思いと兄の声
火花を散らす勢いで話す私にその声が届くと、温室は静寂に包まれる。
光の糸も消え、月が照らす温室の中、一人たたずむ。
なんだか余韻に浸りたくなって、瞳を閉じた。
ガチャっと勢いよく扉の音が鳴り響く。
強い光を浴びて目がくらむ。
「遅くなっちゃった。近くにハチの巣があってね……」
話を最後まで聞くと、お兄ちゃんはまた温度計を見る。
「さあ、帰ろう」
お兄ちゃんの差し出してくれた手を握ろうとして気づく。
「ちょっと待って」
私はあわてて手袋に手を通し、お兄ちゃんと手をつなぐ。
ポチが先頭を歩き、お兄ちゃんと並んで歩いていると、星が見えた。
「あ。オリオン座」
「そうだね、近くにはうさぎ座もあるね」
冬の大三角形に見守られ、私とお兄ちゃんとポチは家に向かう。
「あれがこぐま座で、あっちがおおぐま座だね」
「ほかにはどんなのがあるの?」
「りゅう座とかうみへび座もあるよ。その間にはしし座かな」
お兄ちゃんに星座を教えてもらった星座を虫眼鏡越しに確認する。
「虫眼鏡、気に入った?」
星がしっかりと見える空の下、お兄ちゃんが私に聞いてきた。
「うん!お姉ちゃんになるから、いろんなことを知っておきたいもん!」
「なら、プレゼントするよ」
「良いの?」
「うん。もとからそのつもりだったし」
「ありがとう、お兄ちゃん」
右側を歩くお兄ちゃんは満足げに頷いている。
私たちの目の前の道から車がやってきた。
車のライトが私のライトと交差して、リフレクターがまばゆく光る。
道路標識や電信柱、街灯の林をくぐり抜けると、家が見えてきた。
「もうちょっとだね。少し急ごうか」
ポチも吠えて、少しだけ歩く速度が上がる。
散歩を終え、ポチは犬小屋に帰り、リードをつなぐ。
「ただい――」
玄関を開けたお兄ちゃんの言葉は、泣き声にかき消された。
「うーん」
鳴き声を聞いて、私は悩む。
「少し待てば、良いことあるよ」
離れた場所にいたお兄ちゃんが私に声をかけた。
「良いことってどんな?」
「返ってくるよ、愛が」
お兄ちゃんはそう言うと私から上着を受け取り、少し離れて花粉を払う。
私は首をかしげながらも、その動きを見て帽子をパンパンする。
「良い子にしてると、増えて返ってくるよ」
「なんでわかるの?」
「そりゃお兄ちゃんだからね」
お兄ちゃんは笑って話し、私の頭にポンと手を置いて撫でる。
「うん、わかった」
鳴き声が収まり、お兄ちゃんと私は改めてただいまを言い、靴を脱いだ。




