冬と春の境目に
「くしゅん」
「どうしたのママ。花粉症?」
「かもね。お薬飲んでおこうかな」
「なら、私持ってくるよ」
私はキッチンに行って踏み台に乗りコップに水を汲む。
そしてテーブルの上にある薬箱からお薬を取り出し、空いた手に持つ。
ゆっくりと静かに私は廊下を歩き、部屋に戻るとママに手渡した。
「ママ、持ってきたよ」
「ありがとう。リシアちゃん」
母が優しく静かな声で私の名を呼ぶ。
「どういたしまして」
私は小声で返事をする。
「びええ――」
ベビーベッドで眠っていた弟が泣き出し、ママがあやしにむかう。
「よしよし、タイガちゃん、ママはここにいますよ」
大きな声で鳴く堆芽を抱き上げ、ママは背中をなでる。
(ママはタイガにつきっきり……)
頭を撫でてもらえるかなって私は期待していた。
(タイガが生まれてからずっとこんな調子……)
パパやママを取られた気がする、と考え始めた頭を横にも振る。
何度も何度も横に振ってかき消す。
(お姉ちゃんになったんだもん)
しっかりしようと私は私に言い聞かせる。
(なんだろう、このぐるぐるする気持ち)
しっかりしようって気持ちとパパやママを取られたって気持ちがある。
心の中で絡まりもつれあい、私はため息をつく。
(パパは私の名前が『愛の理を知る』って書いてリシアって教えてくれたけど……)
愛ってなんだろう、パパとママからの愛が減っちゃった気がする。
ボーンという音が、葛藤中の私の耳に届く。
リビングの大時計が4時を指していた。
「あら。もうこんな時間」
堆芽をあやしているママが言う。
「お夕飯、買いに行って――」
「ふえええ」
また堆芽が泣き出す。
「あらあら」
「私行ってくるよ」
「リシアちゃんが一人で、か。うーん……」
私だってお手伝いぐらいできる、そんな思いをママに告げる。
「そうね、もうすぐお兄ちゃんが部活から帰ってくるから、任せちゃおうかな」
ママはそう言うと、はさみを取り出し、新聞紙の上で広告を切る。
「……わかった」
「上着は着ておこうね。外はまだまだ寒いから」
「はーい」
ママが大河をあやしながら、クローゼットから上着を取り出す。
「ただいまー」
私が上着を着ていると、兄が返ってきた。