風の精は少女と共に-3
「…Eクエスト…っ!?」
未知の光と共に私の視界は別の世界に移り変わっていく。
此処は何処だろう。一体何があるんだろう。期待と不安を織り交ぜた表情を浮かべながら、私は周囲をじっと見渡し続ける。
「…って、沢山の敵が……レベルは…みえませんね」
小さく呟くのと同時に、周囲のプレイヤーが一斉に突っ込んできた敵に攻撃をし始める。
…あれを倒すのか?…しかし体力が減っているようには見えないし、相手も攻撃しな…
「…あ。にげ…」
見えたのは、拳を振り上げたその一瞬だけ。
けれど敵を攻撃し続けた彼らには見える筈もなく……突き刺さった拳が地面に突き刺さるのと同時に…あっけなく死んでいった。
それを見て遠距離で攻撃していた人がそのまま逃げだそうとするが、“反対側から来た”魔法の一撃によってあっけなく死んでいく。
「……え?」
気付けば、プレイヤーは私以外居なかった。
何処か夢みたいな光景だった世界から一転して、地獄の様な景色が広がり始める。
…攻撃スキルは持っていない。そもそも効かないのだろう。
じゃあ逃げる?…逃げた所でどうしようもない。後ろから攻撃が来たという事は、既に後ろ側も陣取られているのだ。
取り合えず気付かれない様に一歩、二歩と下がろうとして…
『…ほう?まだ生き残りがいる様だが…こいつは一体どうしたんだ?』
「!?」
突然耳元から聞こえた声に、私は思わず息を呑んだ。
…どうする。どうすればいいのだろう?解決策なんて思いつかない…せめて殺す時は痛みを与えずに殺してほしい。
そんな事を考えながらも、私は声のする方向に視線を向け……
『…ふっ。そんなに怖がらなくても良い。非戦闘員を殺す程、我らは落ちぶれてはいないのだから』
「……じゃあ、何をしにこの街に…」
『それ自体は簡単だ。…この街を、魔族の街に変えてやろうと思ってな』
その言葉と同時に、私は漸く察した。
…これは最初の街が最後の砦になって終わるゲームシステムなのか…と。
騎士団と協力して街を救い出し、それで第一ストーリーが終わる。…此処までが運営の考えていたストーリーなのだろう。
「…ふざけないで下さい。それなら此処に住んでいる人達はどうする心算ですか!」
『無論、魔族に“変えた”』
「…かえ、た?」
『そうだ。彼らに力が欲しいかどうか聞いたらすぐに頷いたからな。力を渡したら…この通りだ』
「……まさか。この魔物達って…」
一人の魔物が、私の方にやってくる。
ニタニタと嗤いながら、私に対して筋肉を見せつけて…そしてそのまま何かを持っている様に手を握りながら大きく両手を振り下ろす。
「……親方、さん」
『彼は最後まで抵抗していたがな。この街が彼以外魔族に変わった事を伝えたら…この通りだ』
「…ふざけないで、下さい」
『人間は弱い。肉体も精神も魂も全てが弱者だ…お前は神に愛された作り手だろう?どうだ?その脆弱な身体を捨てて、我らの為にその力を』
その言葉と同時に、私の周囲に風が吹き出す。
目の前の敵からではない。何故なら、目の前の敵は驚いた様な表情でこちらを見ているのだから。
じゃあ誰が?……そんなの、決まってる。
「…リン」
【特殊条件達成】条件達成の為一部ルートを変更します。
「うん」
『ほう?お前は先程まで街には…』
『「黙れ」』
リンとクリエス様の声が重なるのと同時に、私の傍にいた敵が一斉に引き剥がされる。
それと同時にこの街の住民だった彼らに対してリンが剣を振るう。
「…今だけは貴方達を憐れんであげる。もし私が同じ立場だったら…きっと頷いて力を貰って…そのまま街を滅ぼしてた筈だから」
小さく何かを呟くのと同時に、風がリンの下に集まっていく。
…そのままゆっくりと私に微笑みながら…リンの周囲に集まった風達の音が掻き消え…
「でも私は力を貰ったから。貴方達みたいな奴に成り下がらない!」
-殲滅せよ。ウィルマ!
その言葉と同時に、周囲の空気が破裂する。
強くなった風に目を閉じつつも、最後に私が見た光景は…
『貴様…そうか!貴様が忌まわしき風の……!?』
「…シルフは関係ない。唯…あの子が大事なだけ」
T【クエスト達成】
LルートEX1、総合評価S…貢献度によって報酬が振り分けられます。
L最大貢献度:100.貢献者:リン(NPC)
システムにより文字が織り交ぜられた、不思議な光景だった。
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「…っ!?リン!」
大きな声を上げるのと同時に、私の身体から幾つかの線が抜けていく。
それと同時に苦痛の声が出つつも、私は必死にログからクエストの詳細を見つける。
「…あった!クエスト達成……ルートEX1…?」
新しい言葉を聞いて、私は思わず首を傾げながらメニュー欄からヘルプを出す。
一応此処には様々な情報が書かれているらしく、私は其処からルートで検索を掛けて一つずつ読み漁る。
それと同時に急に悲鳴が聞こえたが、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。というか強盗とか来ても倒せないし…。
「…成程。一部のNPCや特別なスキルが必要なクエストをクリアすると、EクエストやEXクエスト。後は…Wクエスト?の一部のルートが変更できるんですね…」
恐らくEXクエストはエクストラでWはワールドクエストだろう。…それならEクエストって一体何だろう?と思い、今度はEクエストの説明を見る為に画面をタッチして新しい画面を見る。
「Eクエスト…成程、精霊や魔族に関するクエストが此処に入るんですね」
小さく呟きながら私はそのまま立ち上がろうとして……一人の少女が私の姿を見て固まったままになっているのを見つけた。
…彼女は一体誰だろう?というか此処は一体……
「あ、あの!目覚めてすぐに立たれるとちょっと…!貴女身体弱いんですから、もう少しくらいは…!」
「大丈夫ですよ。私は旅人ですから……それよりも此処は何処です?」
「旅人…さん?…でもこの人を連れてきた人は普通の住民だったし……うーん…」
「…連れき…っ!リンは!リンは今此処に…!」
聞き捨てならない言葉を聞いて、私は目の前の彼女に掴みかかって聞こうとして…そのまま余りの痛さに思わず身体の重心が崩れる。
それと同時に彼女が私の身体を持ち上げてベッドに運んでくれるが、私はもう一度無理矢理立ち上がって……痛みを消せばいいんだと思いオプションから痛覚を一時的に0にしようとして…それじゃあ唯のゲームだと小さく息を吐いてから、何もせずメニューを消す。
「と、取り合えず落ち着いて!」
「…ああ。すみません落ち着きました…リンに怪我とかありますか?」
「い、いえ…唯傷だらけの貴女を連れた後は何処かに去って行ってしまいました……所であの人って誇り高き風精騎士団の一員なんですよね!?もしかして貴女もそうだったりします!?」
その言葉を聞いて。私は前にリンに言ってしまったあの一言を思い出した。
……ああ、リンもこんな凄い微妙な気持ちで聞いてたに違いないだろう。…そんな事を考えながらも、目をキラキラとさせている彼女に本当の事を言うのも申し訳ない。
そんな事を想いながら私はどうやって伝えればいいか考え……
「えっと。確かにリンは元精出身の風精騎士団でしたけど、私は旅人なので違います。なのでもし騎士団について聞きたかったら…」
「……え!?リンさんってあの魔王に滅ぼされたって噂の元精出身なんですか!?」
「…えぇ。そうで、すね……という事は此処は元精の街じゃないんですか…?」
「はい!此処は風精の街です!なので風精騎士団は皆の憧れの街なんですよ!」
その言葉と同時に、私の視界に運営からメールが届いた通知が現れた。
…今まではイベント状態だったのでメール等のアレが非表示だったのだろう。経った今送られた内容を見ようとして……その前に彼女の方が先だと小さく頷いた。
「私にも何か出来る事はありますか?」
「へ?…えっとお薬が最近足りなくて……ああでも!怪我人の貴女にさせる訳にはいきませんから…」
「じゃあ怪我が治ったらお手伝いしますね。それなら良いでしょう?」
「え……あ、いやそれは……うう…おねがいします…」
彼女が項垂れるのと同時に私の目の前にクエストが現れ…今度こそ私は驚いてしまう。
それを見た彼女が首を傾げるのを見て苦笑しながら首を振ると、それを見た彼女は少しだけ安堵の笑みを浮かべながら私に会釈をして去っていった。
それと同時に、私は運営から届いたメールを見る為にメニュー欄を開く。
┌チュートリアル突破のお知らせ。
├クエストAI修正のお知らせ(こちらは一部のプレイヤーにしか送信しておりません)
└EXルートクリア報酬のお知らせ(貴女にしか送信しておりません)
取り敢えず二番目のAI修正のメールを見ると…どうやらクエスト時に強制的にAIが方向を指示するのを一部のプレイヤーのみOFFにしたという文面らしい。
これはNPC達の会話の違和感に気付いたプレイヤーのみにする対処らしいので、どうやらこれが理由らしい。
次にチュートリアル突破のメールを見る。
チュートリアル突破のお知らせ。
手始めにチュートリアル突破、おめでとうございます。これから皆様には三つの国に別れて生活を送る事になります。
其処では釣りをするのもよし農業をするのもよし鍛冶をするのもよし…周りの森やダンジョンを攻略するのも良いでしょう。
チュートリアル死亡時に得ていたスキルに基づいて三国に配置しているので、皆様がやりたい事が出来ると思います。
それではまたどこかで、次のイベントでお会いしましょう。
「…元精の名前は無いって事は、本来は知る筈の無い名前だったんですかね…?」
そして最後に貴女にしか送信していないと書かれた恐怖の手紙をじっと見つめ……何度かため息を吐きながらメールを消そうとして……そして最後に大きくため息を吐いてからメールを開けた。
EXルートクリア報酬のお知らせ
先ず初めにEXルートのクリア、おめでとうございます。
開発者一同全員がクリアされる訳ないと高を括っていた訳ですが、物の見事にクリアされてしまいました。
初めに幾つかの修正をこちらの方で述べさせていただきます。
初期スキルのメイドですが、こちらは本来“元精”か“水精”のどちらかのみで雇用が可能でした。
初期スキルでメイドを選んでいるのは其処まで多くなかったので全員“水精”の方に送ったのですが、チュートリアル死ななかった貴女様は受け取る事が出来ませんでした。
お詫びとして“水精”で手に入る初級製作道具を添付し、そちらにメイドをお送りしました。受け取っていただけると幸いです。
EXルートクリア報酬ですが、本来序盤で手に入れる物ではなく更には貴女様が使える道具では無かったので、最大功績のリンにお送りいたします。
二番目は80ポイントの貴女様なのですが、功績ポイントを交換する場所は次のアップデート後に実装予定で現在の街では何処もやっておりません。
ですので苦肉の策としてこのメール欄の方で交換するという形を取りました。
--報酬一覧.jpeg
最後に貴女様のお名前についてです。
本来ならミルファ性を考え“水精”の方に送る心算でしたが、“風精”になってしまいました。
こちらに関しては完全にミスなので、つきましては転移をするか名前を変えるか等の補填をしたいと考えております。
どちらが良いかを考えていただけると助かります。
送られてきたメールを最後まで読み終わり、私は小さくため息を吐いてから最後の文章の選択肢を両方却下した。
…ミルファ性がこの街で差別の対象になっているのはとっくのとうに知っているのだ。でも、それでも良いと考えていた。
何故なら今までのゲームは名前で差別などされなかったからだ。とても得難い経験だろう。
そんな事を考えながら、私はJpegで贈られてきた一覧を眺めながら何を貰おうかと小さく笑みを浮かべた。
「…というか報酬一覧多いですね。成程、二位だと結構貰える……ふむふむ」
生憎戦闘系ばっかだが、どうやら生産職系も無い訳ではないらしい。
しかし全部取ってもポイント的には余ってしまうので残りはリンにプレゼントでもしようかな…?なんて考え……そして小さく笑みを浮かべた。
「…良いですね。たのしくなってきました…!」