風の精は少女と共に-1
「…そういえばご飯とか食べてませんでしたね。向こうの世界だと満腹感は感じないらしい代わりに色々食べられるらしいですし、ちょっと楽しみです」
そんな事を小さく呟きながら、私はログイン出来る時間を待ち続ける。
一応外の掲示板や内部の攻略サイトには接続できるらしく、其処で様々な情報を漁っている……のだが…
「…うーん。メイド持ちは幾つか見ますけど生産特化は全く見つかりませんね…生産に行きまーす!なんて言っている人でも戦闘系のスキルは最低限しか減らしていませんしね」
気分転換に魔物を狩りたいのだろうか?なんて首を傾げながらも、私は幾つかのウィンドウを開いては閉じていく。
…さて、私の選択が合っていたか間違っていたかが分からなくなってしまったぞ。
「…後は戦神の加護系でしょうか。初期スキルの中で驚異のポイント数でしたからね」
どうやら加護系は前にあったβテストには無かったらしく、これの解明をする為にどんな効果なのかを教えて欲しいと言ったレスがあった。
…私は教えても良いかなぁ…とも思うが、どうやら他の人はあんまり乗り気ではないらしい。
手札が減るとか書いてあるのを見たし…やっぱりPVPとかやりたいのかな?
「後は生産職の掲示板はどうやら躍起になってる人が居ますね……何でしょう。なんかこう…はい」
まぁ簡単に言えばお近づきになりたくない人という事で…まぁこれだけ人数が多ければ出会う事は無いでしょうけれど……生産職じゃないのに生産職の掲示板に来るのは違うと思います…えぇ。
「……って、もうログイン出来るんですね。それじゃあ始めましょうか……出会えますかね。私の一目惚れの相手は…」
小さく呟きながら、私はログインボタンを押す。
…それと同時に、誰かの声が聞こえた気がして…私は最後に一回振り返り…
「…?やっぱり誰もいな…」
『がんばって』
それと同時に私の視界は一気に白く染まっていき…そしてそのまま周りの景色が変わっていった。
…今までの電子世界から草原へ、草原から森になり…そして街へ。
見えたのは一瞬の筈なのに、どうしたって頭からあの情景が離れない。離さない。
「…きれい、だった」
小さく呟くのと同時に、私は小さく周囲のプレイヤーを観察し始めた。
…私と同じようにぼーっとしている者、誰かを待っている者、嬉しそうに何かを話している者……まぁ、よくあるプレイヤーの姿だ。
「…って、あっちの方はNPCでしたか。割と会話が自然過ぎたので吃驚しましたね…」
そんな事を小さく呟きながらも、私はNPC達の会話を聞く為にゆっくりと近づき始める。
…あくまでも自然に、そして出来れば会話に混ざりたい。
初めての会話がNPCなのは少し寂しいけど、それでもちょっとくらいはお話してみたいのだ。
取り敢えず最初は怖いので、優しそうな夫婦っぽそうな二人組に話しかける。
「こんにちは」
「おや…こんにちはお嬢ちゃん。ってその姿は…旅人だね?」
「…見た目で分かるんですか?」
「勿論。ほら周りを見てみて?」
NPCの言葉を聞いて、私はゆっくりと周囲を見渡す。
…此処からだと私達がリポップした場所が一目で見れ、それを私はじっと見つめた。
戦闘職が多いなぁ…武器背負ってる人多い。
「ほら。貴方と似た様な服を着た人が一杯いるでしょう?だから貴方も旅人だって分かったのよ?」
「……そうなんですね」
「所で君はギルドに行ったりはしないのかい?」
「…ギルド?」
私が首を傾げるのと同時に、知らないのかい?と驚いた様な声が聞こえ…私は思わず目を逸らしてしまった。
それを見た夫婦が微笑ましそうな表情を浮かべていき…それを見て私は更に苦々しい表情を浮かべてしまった。
「ふふ。そんな顔しなくても大丈夫よ?多分だけどギルドを知ってる旅人の方が少ないと思うわ」
「…え?そうなんですか?」
私が首を傾げるのと同時に、二人の顔が曇りだす。
…もしかして何かいけない事をしているのだろうか?そう思って問いかけてみると、別に悪い事ではないんだけどねと優しく呟いてから…
「唯、ギルドに行かずに外に行ってる旅人が多いんだよ」
そう言って男性の方が息を吐いた。
その溜め息の付き方からかなり悪い事だと考えつつも、それを悟られない様に小さく首を傾げた。
「…それって駄目なんですか?」
「駄目かどうかって言えば…まぁ、君達からすれば別に駄目って訳じゃないんだけどね」
「…私達からすれば…」
つまり何れは彼らに対して害になる…といった所だろうか?
…でも、どうして?仮に私達が適当に魔物を狩ったとしてもNPCにデメリットなんて…いや、幾つかある……でも…
「…私達は死なない。つまり幾らでもクエストに特攻する事が出来る訳で…基本的に自分の身体を第一に考えているこの世界の冒険者達からすれば…」
「そう。良くて死亡だ」
「……最悪の場合は冒険者が私達によって職を失ってしまう。其処から考えられるのは…盗賊?」
其処までこの世界が上手く出来ているのだろうか?
この世界は何処まで行ってもゲームだ。そう、ゲームである筈なのだ。
だからこそ私はこの世界の住民の事をNPCと呼ぶし、彼らが私達みたいな会話をしていた事に驚いたのだ。
…NPCと交流しようと始めた私でさえ、この始末なのだから……もしギルドを発見したら…
「…一応言っておきますが私の方で呼びかけるのは無理ですよ」
「そうだろうな。君に其処までの対処を求めてはいないよ…こんな時に騎士団が居てくれたらなぁ…」
「……騎士団?」
私が小さく首を傾げるのと同時に、二人の表情が少しだけ変わる。
…今まで私の表情を見て話していた様な状態から、一方的に語り掛ける様な…つまりはまぁ…
「ああ。最近騎士団を街で見かけなくなってしまってね。武器が必要とか言っていたのだが…」
「そうねぇ。…あら、貴女は生産職の方なのね?良ければ王城に行って騎士団の装備を作ってあげる事って出来ないかしら?」
クエストの開始だ。
…この表情や動かし方、とても気に入らなかった。普通に頼めば良いのに、どうして此処だけはプログラムで動かすのだろう。
「…分かりました。聞いてみます」
「あら、助かるわ!」
クエストが開始されましたというウィンドウを閉じつつ、私は小さくため息を吐いた。
…私はお話をしたいのであって、クエストを受ける気は一切ない。
「…それで、騎士団って何ですか?」
「ん?…ああ、そういう事だったのか。騎士団って言うのはこの街を守ってくれる“風精”騎士団の方だ」
「…“風の精霊”騎士団?」
私が思わず首を傾げると、二人が私を微笑ましそうな表情で見つめる。
…どうやらこの街では騎士団の事は常識レベルらしい。私なんて警察の階級も覚えていないのに。
「さて…そうだな。先ず初めに此処に立っている王城の名前は分かるかい?」
「はい。雷嵐の大地、蒼炎の大地、氷光の大地。この三つの大地に隣接した唯一の王城“元精”」
「そう。この王城…というよりは街だが、其処には絶えず敵がやってくる」
「それを防ぐ為に、騎士団が設立されたの。それが“風精”“火精”“水精”“地精”」
「“水精”騎士団は蒼炎を、“地精”騎士団は雷嵐を、“火精”騎士団は氷光を…そして」
「“風精”騎士団がこの街の警備を……でもそれだと“風精”騎士団がかなり楽な仕事の様に思えますね」
私がそう言いながら首を傾げると、二人は少しだけ驚いた様な表情を浮かべた。
…何か間違えたのだろうか?そう思いながら私はもう一度考え直し…一つの結論に辿り着いた。
「…もしかして、街を守っている騎士団は“風精”騎士団しかいないんですか?」
「……そうなのよ。他の騎士団は他の大地に行ったりとかで戻ってこないし…」
「……っ!?じゃあもし、“風精”騎士団の武器が無い時に…」
旅人である私達が他の大地に行ってる間に魔物に襲われたら、この街が滅ぶのだろうか?
…そんな馬鹿みたいな考えが私の頭をぐるぐると回り…そして息を一気に吸ってから私はクエストを開いてから全力で走り出した。
それをずっと微笑ましそうな表情で見ていた夫婦の視線を、私は全く気付かなかった。
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「っ!クエスト場所は此処であってますよね!?」
「うぉ?!なんだ…ってお前!生産職か!?頼む!力を貸して欲しい!」
「…はい!私に出来る事であれば何でも!」
私の一言と同時に、騎士の人が付いてこいと言ってから走り始める。
…それに合わせる様に私も走り始め、大量の職人達が居る場所に辿り着いた。
一応私以外にもプレイヤーはいる様だが、素材を運ぶだけらしい。…私もそうなのだろうか?
そんな事を考えていると、私の目の前に巨体の漢が現れる。一言で言うなら親方だろう。
「君は武器や防具を作ったことはあるか?!」
「いえ全く!吃驚するほどのド素人です!」
「それが言えるだけまださっきの奴らよりマシだな!ひどい奴らは嘘を吐いたりとかしてたしな!」
その一言に私は思わず苦笑してしまう。
まぁ確かにNPCなら嘘吐いても良いだろうとか、色々考えては居たが…本当に実行する人が居るとは思わなかった。
それと同時に私の腕を見て、少しだけ考えた後に指示を出そうとするのを…
「…っ!一つ良いですか!」
私は大きな声を上げて止める。
それと同時に近くで鉄を打っていた職人が驚いた様な表情を浮かべるのを見つつも…私はしっかりと親方の目を見つめた。
「なんだ!」
「今は武器を失った“風精”騎士団の為に武器を作っていると聞きました!」
「そうだ!お前は詳しいな!」
「…それと同時に、もし私達が時間を無駄にしてたら“風精”騎士団の力が必要な時にどうする事も出来ない…つまり…」
「もしこの間に街が襲われたら、街が崩壊するな!だから俺達は汗水垂らして必死にやっている訳だ!」
その言葉と同時に、真剣な表情で周囲を見つめる親方を見てから…私も同じように周囲を眺める。
…生産をしているのは全てNPCで、何処か不安そうに叩いている姿と何も考えず唯叩いている人が居る。
「だが他の奴等…特に若い連中はそうは思ってないな。今まで“風精”騎士団に守られてきて魔物の怖さを知らないと言うのもあるが…」
「…他の騎士団が居るから…」
「そうだ。あいつらは名前だけの騎士団で実際は破落戸と何も大差はない。それなのに近頃の若い奴等はあれを英雄と……本物の騎士団は“風精”騎士団だけだというのに…」
その言葉に首を傾げつつも、私はゆっくりと周囲の職人達をもう一度見つめた。
…確かに腑抜けている人達は適当に叩いているだけで、それを見た目の前の親方が睨んだ瞬間に真面目にやるだけ。
「…私にやらせて下さい」
「出来るのか?」
「出来るかどうかは分かりません。だって作った事は一度もありませんから……でも」
私は周囲を睨み付けてから、自分の初期道具セットを手の甲で叩いてからゆっくりと視線を目の前の漢に向ける。
「助けたいと思う心は、この中では一番私が強い」
「……」
黙ったままの親方が、ニィっと笑みを浮かべた。
…これでも駄目だったら、私は此処で作り始めるだけだ。
「じゃあお前に試練を与えよう。これが出来ればお前に下級騎士の防具修理を任せても良い!」
「…助かります」
「いや。小娘と侮った俺が悪いな!お前の心は…きっとクリエス様も愛してくれるだろう!」
「…ご勘弁下さい。私は当然の事を言ったまでですから…それよりも試練を始めて下さい。合格でも不合格でも、早い方が良いですから」
「それもそうだな!じゃあ行くぞ!」
そう言って渡されたのは、320本の釘と普通の金槌。
そして大量の木材…此処から予測されるのはまぁ…単純にあれだろう。
「木箱を作りますね」
「あぁ!釘は予備で渡しているが…何なら二個作っても良いぞ?」
「…ご勘弁を。ちゃんと全部作りますよ」
自分に言い聞かせる様に言ってから、私は木材と釘を使ってから急いで打ち込む。
……誤差0.04。VRだからちょっと加減間違えたかな。
今度はしっかりと…よし、出来た。
「…ほう?お前、大工でもしてたのか?」
「華奢な乙女に大工家業は似合わないですよ?唯人より手先が器用で…プロの職人の真似事が大好きだった…それだけの少女です」
「……そうか。其処まで早いなら全て作った後に研磨も出来るだろう。傷付いた鎧の修復も頼むぞ」
「…はい!」
認めてくれた事に嬉しさを感じつつ、私は急いで木箱の作業を終わらせる。
…勿論丁寧にやる事を忘れてはいけない。ちゃんと一回一回に魂を籠めるのが、私なりの職人魂だ。
「…よし。これで木箱は5個完成。後は鎧を修復して……成程、ああやってやれば良いんですね」
あんまり変わらないですね。
そんな事を呟きながら、周囲で修理をしている人間の手元を見つめて学び始める。
…両親は危ない作業をさせてくれなかった。だからこうやって見て覚える事しか出来なかったのだ。
「…ちょっと磨けば傷や錆が取れるのはゲームならではですね……ん?」
そんな事を考えながら私は鎧のステータスを見つめると、磨くのと同時に左の耐久度が増えていき…そして右の最大値が減っていった。
…やっぱりこういった罠はあるのか。という事はこれは正解じゃない。
……なら正解は…成程、奥で親方がやっているやり方が正解なんだ。確かに唯擦ってるだけで回復するならこんなに人数は要らないだろう。
…ゆっくりと耳を傾けると、“修理”や“劣悪修理”といった声が聞こえ…私はメニュー欄からスキルを設定してからゆっくりと呟いた。
「…修理」
それと同時に幾つかの光の柱が見え、私はそれに合わせる様に金槌を叩く。
…親方が私の方を見て笑ったのを見てから、私は近くの溶鉱炉から鉄を取り出して急いで叩き始める。
本来なら直す時はもう少し面倒なのだが…これで良いのだろうか?
そんな事を考えながら光の柱を全て消すと……どうやら耐久度や最大耐久度も復活しているらしい。
「……ふぅ」
『…がんばれ。いけるよ』
「…はい。ありがとうございます」
作っている間、ゲームが始まる前に聞こえた声が良く聞こえた。
…もしこの声が私の推理通りなら……そんな事を考えながら、私は作った木箱に鎧を詰める。
「……もし聞こえるなら、一つだけ良いですか。この街を救う為に…力を貸してください」
『…どんなふうに?』
「武器を一つだけ作らせて下さい。多分ですけど、鎧を作ってるだけじゃ意味が無いですから」
『ひとつだけでいいの?』
「…えぇ。一つで十分です」
その一言と同時に、小さくクスクスと笑われた様な気がした。
…何か間違えたのだろうか?…それとも、神様は一本だけじゃ意味がないと思っているのだろうか?
『いいよ。…おやかたさんにこうつたえて』
「…?」
『風精は世界を轟かせる偉大な精霊だ…って』
その言葉をしっかりと覚えながら、私は親方に向かって歩いていく。
…それを見た親方が少しだけ首を傾げたが…私は気にせずに先程の言葉を反芻した。
「『風精は世界を轟かせる偉大な精霊だ』」
「…っ!…ああ、成程…やはりお前が溺愛の…」
「…?」
「ワッハッハ!俺も耄碌した物だなぁ……ついてこい、案内してやろう」
その言葉と同時に私は奥の部屋に連れていかれる。
…其処には私以外に二人の少女が居て…そのまま親方は頑張れよと言ってから去っていった。
「……此処は、何処でしょうか?」
「…貴女がクリエス様に愛された伝説の職人?」
設定上は、なんて言えれば何処まで良かっただろうか。
…けれどそんな事を言った所でしょうがないし、仮にそんな事を言ったら此処でクエストが終わる気がする。
「…えぇ。その様です」
「私と同じですね。私も風精様に愛された…」
「ちょっと!愛されたのは私だっての!だから使い手も私なの!」
「……あの、えっと?」
『…はぁ』
頭の中でクリエス様と思わしき神物の溜め息が聞こえた気がする。
……いやまぁ、こんな風になったらため息も吐くだろう。
「…ん。…ああ、成程」
――クエスト:使い手を選べ
―クリエスに選ばれた貴女は使い手を選ばなければいけない。
―クリア報酬:??? ??? ???
単純なクエストの発生に苦笑しつつも、私はクエスト内容を吟味した。
……単純だからこそ罠がある。そう思えば今回のクエストの正解を導き出せる筈だ。
「…先ずは武器を作りましょうか。私が使い手を選べるなら、武器もその形になる筈ですし…」
『ふふ。わたしのこはかしこいなぁ…♪』
「……それもそうね」
NPCが納得する様な顔を見て、今の言葉が正解だと分かって小さく安心した。
……一応イベントの武器は必要な容量を減らす為に一種類しか作られていない筈だ。
それを逆手に取って先に武器を作れば、クエストも楽に進むだろうという魂胆でもある。
「…」
先程の初心者セットから一気に進んだ道具を手に取って、私は回りに浮かんでいた素材を取る。
…順番は頭の中に叩きこまれている。今回のクエストはクリエス様が補佐としている様だ。
「模倣」
『共鳴同調』
「『劣化融合』」
クエスト専用スキルを使って、私はゆっくりと息を吐く。
…そのまま息を吐くのと同時に、私は道具を一瞬で素材に叩きこんだ。
「…凄いですね。これが神様の力ですか」
『?貴女の力だよ?』
「いえ、“コレ”は神様の力ですよ。私に出来るのは速度を維持したまま正確に叩く事だけです」
私がそう言うのと同時に、この素材最後の工程が終わる。
…そのまま私は息を止めて、粉々にした素材を飛ばさない様に気を付けながら次の素材を取り出す。
『次の工程はちょっと難しいよ。私がやろっか?』
(…いえ、私が挑戦します。失敗した時の補佐はお願いしますね)
『ふふ。はーい』
気の抜けた返事と同時に、私は集めた粉を素材を新しい素材に振りかけてから…突然現れた溶鉱炉に入れ込んだ。
…そのまま私は息を止め続けながら、頭の中で時間を計り…そして素材を取り出して、そのまま瞬時に叩き始めた。
『…息、吸わないと』
(此処で風の力を少しでも動かしたら、失敗しますから……せめて此処から三十分は息を止め続けますよ)
…私が叩く毎に、神聖な風が私の髪に吹き込まれる。
その感触を味わいつつも、私は何も考えずに道具を振り下ろし続けて……
――クリア。―達成率:150%
「……っ!」
『…せいこうしたねー』
目の前に現れた文字を見て、私は深呼吸をする。
…あぁ…やっと、終わった。…いや、まだ終わってない。武器を作っただけで使い手を選んでないのだ。
そう思いながら二人を見れば…二人共ぼーっとこちらを見ていた。…成程。
「…あ、やっと終わったんだ」
「武器は…ふむ。大剣ですか…私達でも使えますね」
『…んふふー♪どうかなぁ?』
「……この娘の使い手は、この娘が選ぶんですよね」
小さく呟くのと同時に、私はこの剣に自分の血を垂らす。…そしてゆっくりと、その剣から垂れた血が一直線に続いていく。
……それは二人のどちらかに向かって線が続き…
「…これは…」
「……嘘。私達じゃ…ない?!」
そしてそのまま二人を避ける様に線が続いた。
…それは壁の奥に向かって続いていき…それを見た二人の顔が凍り付く。
「…ああ」
『あーあ。最近の人間ってこんなのばっかなんだ』
私達が呟くのと同時に、私の持っていた剣が浮き上がり…壁を壊して突っ切っていく。
…大量の破片が私の傍に居た二人に当たりそのまま気絶し…私の身体は優しく暖かい風が包み込んでくれていた。
私は壊された壁の道を歩き続け、そして……
「…そもそも二人から選べって書かれてない時点で疑っていましたけどね」
「……そう。私が選ばれたのね」
ボロボロの身体のまましっかりと立っていた少女を見て、私は小さく笑みを浮かべた。
「えぇ。貴女が持っているその娘が選んだ…本物の使い手です」
「…そう。貴女がこの娘を作ってくれた人?それなら一つ、願い事を叶えて上げるけど?」
「いえ。私は神様の意思に従っただけですから別に……唯、一つだけお願いをしても良いですか?」
そう言って私は少女の方を見つめ…そのまま小さく息を吸ってから…
「もしこの街に危機が迫ったら…この街を助けて下さい」
目の前の少女に聞こえる様に、私ははっきりと喋った。