2.上書き
ガラガラ、と扉を開ける。
「おはよう。聡美が遅刻なんて初めてだね」
クラスメイトで聡美の友人の佐藤 真理絵が声をかけてきた。
「ちょっと家の都合でね」
「なんかあった?」
「うん、ちょっと」
「ふーん」
俺は聡美の席に座る。
「なに座ってんの?」
「え?」
真理絵が時間割を指差した。
一時間目は体育だ。
と、いうことは、だ。
俺は聡美の体を見定めながら着替えなくてはならないのだ。
これは男としてはやってはいけない行為だと思う。
「更衣室行こう?」
俺は真理絵に引きずられ、女子更衣室に。
この学校には各学年ごとに男子女子共に専用の更衣室があり、ロッカーが備えられている。
俺はロッカーに手を伸ばした。
「あ……」
「どうしたの? 顔赤いよ」
それは赤くもなるわ!
こいつには言うか、疑問符。
「ねえ? 大丈夫?」
「あ、ごめん」
うん、やっぱ相談しよう。
「真理絵に相談したいことがあるんだけど」
「相談?」
「ここじゃなんだから、屋上で早急に」
「え、でも体育が……」
「いいから」
俺は真理絵を屋上に連れ出した。
「で、相談ってなによ?」
「北見なんだ」
「何が?」
「俺が」
「え?」
「俺、北見 浩輔なんだよ」
「ほえ?」
「実はさっき、一緒に階段転げ落ちて入れ替わっちゃったんだ。それでホームルーム遅れた」
「ええええ!? まじですかああああ!」
「それで、元に戻る方法を探したいんだ」
「いいんじゃない? 戻らなくても。だって北見くん、いじめられてるから」
「それは小島さんに悪いよ」
真理絵は実は一年の時のクラスメイトで、俺はよく話し相手になっていた。
「でもねえ。最近の聡美、ちょっとうざいなって思ってて」
「え?」
「それでね、不思議なノートを拾ったから、書いてみたの。北見が聡美だったらって。そしたらあなたの口から出るんだもの、入れ替わったって」
「不思議なノート?」
「これよ」
そう言って真理絵が取り出したのは、ドラえもんに出てくる予め日記に似た、怪しさ漂う一冊のノートだった。
「これにそんな力が?」
「北見も書いてみる?」
俺はノートに書き殴った。
聡美の魂に刻まれた聡美の記憶を失くして俺の記憶で上書きする、と悪魔が囁いて、俺はそう書いてしまった。
「なに書いてんだ俺は!?」
すると、ノートが一瞬光り輝いた。
「あ! 見ーつけた!」
と、そこに現れたのは、カマを持った死神。
「死神?」
「それ私のノート」
「あなたのだったの?」
「うん。拾ってくれてたんだね。ありがとう」
死神がノートを取り上げた。
「あー! もう二ページ使ってんじゃん! 何書いたの!? まあいいや」
いいのか。
「じゃあね」
死神はそう言って、ノート手に去っていった。