1.入れ替わっちゃった
俺の名は、北見 浩輔。十六歳の高校二年生だ。
周りの人たちはみな、俺に対してデブでブサイクという印象を持っているようだ。
確かにデブで醜いと自覚はしてはいるが……。
ある日、俺が登校すると、全校生徒の間で話題になっている、端正な顔立ちをした同い年のマドンナの女子、小島 聡美と出会した。
聡美は俺を見るなり、まるで気持ち悪いものを見たような顔でその場を離れようとした。
階段を上りながらそれを見やると俺は。
「うわ!?」
階段を踏み外した。
「え!?」
流石にやばいと思ったのか、振り返った聡美が俺の手首を掴むが、俺の方が重く、引っ張られるかのうように落下を始めた。
「ちょ!?」
「うわ!」
ズデーン、と擬音を上げて共に転げ落ちた。
「痛……」
頭を押さえながら俺は起き上がる。
「あれ?」
体がさっきより軽い。
背中まで伸びた黒い滑らかな艶のある髪。
少し膨らみを帯びた胸。
こ、これは?
「うう……」
俺の下でうめき声を上げる巨体は、俺だった。
「えーと、これは?」
俺は疑問符を浮かべる。
「いたたたた」
巨体が起き上がり、俺は転げ落ちた。
「え? あれ? なにこれ?」
俺が俺を見て疑問符を浮かべる。
「なんで私がそこに?」
「君、小島さん?」
「え?……って、あんた北見?」
「どうやら落ちた衝撃でお互いが入れ替わっちゃったみたいだね」
「最悪。よりによってあんたとだなんて」
「その最悪なことも俺を助けようとしなければ起きなかったよ」
「確かに。……どうしよ?」
「提案なんだけど、俺が小島さんを演って、小島さんが俺を演るってのは?」
「いじめの対象にされるのはごめんよ」
そう、俺はこの見た目なために、特定の人物からいじめを受けていた。
教師に相談しようも、見て見ぬ振りである。
「でも、入れ替わりだなんて漫画みたいな話、誰も信じないよ」
「はあ………」
聡美はため息を吐いて頭を抱えると、階段を上り始めた。
向かったのは屋上だった。
「ちょっと待って! それだけはお願いだからやめて!」
聡美は柵を乗り越えた。
死ぬ気だ。
「待って!」
「来ないで! この体になってしまった以上、私に安息はないのよ!」
「だからって死ぬことないだろ! 死んだら俺が戻れないじゃないか!」
「戻れる保証なんてあるの!?」
「あるよ! なくても俺が絶対見つける!」
「そう……」
聡美は縁から戻ってきた。
「言ったわね? 絶対戻る方法見つけるのよ。いいわね?」
「でもみんなの前ではどうするの?」
「半分は私の責任なんだから、あんたの提案に乗るわ」
そう言って聡美は、俺と一緒に二年生の教室がある二階に向かって階段を降りる。
「今、何時?」
「俺時計ない」
「携帯ぐらいあるでしょ」
「携帯も持ってない」
「使えねえなこのデブ。私の右ポケットに携帯が入ってるからそれ貸して。あ、今は私がデブだった」
俺はスカートの右ポケットに手を突っ込んだ。
これか。
今はやりのスマホを取り出した。
聡美が強引に奪い取る。
「えーっと……げ! もうホームルーム終わってんじゃん!」
聡美がスマホを俺に向かって放り投げた。
「おっと」
慌ててスマホをキャッチした俺は右ポケットに戻した。
「せっかく無遅刻無欠席で皆勤狙ってたのに!」
「そうだったんだ」
「あんたが階段踏み外すからよ」
「ごめん」
「あ、私こっちだから」
そう言って聡美はAクラスに向かって歩き出す。
俺は聡美の教室であるDクラスに向かった。