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跳ね橋  作者: 維酉
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03

 哀しいですけど、哀しいことは、まあ、それなりにあって、特急が止まる、ここはどこだろう、覚えてもないけど、なにか、ちいさいころに、来たような、気もする。


 ちょうど夜の中、くらいカーテンのちらばったあおじろいほのお、つきのりんかく、夜は長く、夜は長く。階段をのぼればそこにはなにもなく、ただ、ようやくおとなになった、哀しさがいすわっている、いすわっている……。


 つきのりんかく。とおくでふみきりのおと。ああ、やけにしづか、やっとのおもいで歩きだす、とろけそうなのう。


 どろにまみれてどう生きていくの。さいごにわらえたらいいっていうけど、わらいかたも知らないのに、わらえるものなの。どうやってみんなわらうの。


 こどものころにしがみついています。まだやさしかったね、みなさん。たしかあのころ、電車でいったまちに、跳ね橋があった。跳ね橋……跳ね橋です。がが、がが、ががががが、と鳴る、あがっていく、橋が跳ねる!


 そこを船が通っていきました、かわいらしい、船です、尾をみなもにえがきながら、すうっと走っていきますが、それが、どこかへいってしまうと、また、跳ね橋は、がが、がが、ががががが、と鳴る、さがる。もうしばらく跳ねません。


 お母さんに手を引かれて、跳ね橋をわたる。なにも、へんてつのない、ふつうの橋。もう跳ねない。どうして跳ねないの、と、きくと、母は、ちょっと困った顔して、そういうものなの、と、いいました。


 そういうものなの。


 あおじろいほのお、夜のまっくらのところどころに、いくつもいくつも、するどそうで、ぜんぜんそんなこともない、哀しいあおで、泣いています。つきはなぐさめない、ひかるだけ、まぶしいくらいのくっきりした光――光害。


 だれをあいしてみせればいいのか。だれをあいしたらまんぞくなのか。だあれもこたえません。だって夜ですから、くらい、くらい、あおじろいほのお。


 そういうものなの。片手間に挨拶。しなない、しなない、ほのおはしなない。つきはもう見えません。あおじろいほのおだけの、さみしい世界ね。跳ね橋は、跳ねます。また跳ねる。あのころの橋が跳ねている。いまも跳ねている。

 ありがとうございました。

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