第六話 真夏の祭典
天才子役、法天院明衣が加入した劇場では支配人が新たな仕事を取ってきていた。それは絶大な宣伝効果があるというイベントに参加することだったのだが…。
長い長い高速道路のトンネルを抜け、まばゆい太陽の光に一瞬目を閉じてしまう。そしてゆっくりと瞼を上げるとそこには、
「海だー!!!」
一面に広がる青い海。生きていたとき何度か行った記憶はあるけど、まさか幽霊になってから来ることになるなんて思ってもみなかった。
「おい、あんまりはしゃぎすぎるなよ?俺たちは仕事しに来てるんだから。」
支配人はいつものワイシャツ腕まくりスタイルで運転しながらそう言っていたが、明らかに声の調子がいつもより高かった。運転席の一つ後ろの席では、京香さんがアイマスクをして寝ていた。そのまた後ろの最後列は三人掛けで、私・明衣ちゃん・慧ちゃんが座っている。道中はずっと三人でおしゃべりしたりトランプしたりしてわちゃわちゃ過ごしていた。なぜ私たちがいきなり舞台と関係ない海に来ているのかというと、話は三日前にさかのぼる。
「ビーチバレー大会?」
「そうだ。」
「それに参加するのが重要な仕事?ありえない!」
あきれた表情で明衣ちゃんが言った。
「そうね。海まで行ってイベントに参加するなんて劇団員の仕事じゃないわ。」
京香さんも同じように否定的だ。
「そう言うなって。このイベントに出て優勝すれば、絶大な宣伝効果により劇場の人気も爆上げだ。」
「そんなことしなくてもお客さんは来るでしょ。」
「梅野、前回公演のチケットは何枚売れ残った?」
「えっと…たしか、十枚だったかな。」
「えっ!?あんなにがんばったのに?」
私が制作に携わった公演がチケット完売に届かなかったなんて…。
「あぁ。確かに劇場の知名度もそこそこ上がりつつあるが、それでもあと一歩が足りない。その一歩を埋める何かをいろいろと模索中だったんだが、ようやく見つけたのがこのイベントってわけだ。」
「なら支配人だけ行けばいいじゃない。」
「この大会はチーム制だからそりゃ無理だ。」
「幽霊が海に行っちゃっても平気なんですか?」
「そこは心配ない。契約霊は大体普通の人間と同じだ。」
「…劇場は空けてしまってもいいんでしょうか?」
「それも対処は考えてある。手続きに少々手間取っちまったがな。ああ、それと大会の後は時間があればそのまま海で遊んでてもいいぞ。」
「ほんとですか?なら行ってもいいかな…。明衣ちゃん、どう?一緒に行かない?」
「私は、桜子さんがどうしてもって言うなら行ってあげなくもない、けど…」
最初は否定的だった明衣ちゃんも、よく見ると海に行けることがうれしいのを隠している様子だった。いくら芸能界で活躍していても、なかなか海で遊ぶ機会もなかっただろうし、楽しみな気持ちに嘘はつけないのかもしれない。
「慧ちゃんはどう?」
「わたしはあんまり海って行ったことないし、せっかくなら行きたいな。」
みんなが少しずつイベント参加に前向きになりつつある中、京香さんは一人だけ否定の意思を曲げようとしない。
「私は何があっても行かないわよ。」
「まあまあ、海って言っても別に水に入るわけじゃないから大丈夫だ。浜辺でいろいろやるだけだって。」
「それでも行かないって言ったら行かないわ。私は劇場で留守番してる。」
どんなに支配人が説得しようとも行かないとしか答えない京香さん。腕を組んで意地でも折れない、かなりの頑固者だ。
「あら?海が怖いのかしら。そんな年で。」
「は?」
「いいんじゃない別に。一人いなくなっても他でカバーすれば何とかできるでしょ。無理に連れて行っても海が怖くて使い物にならないんじゃ意味ないもの。」
明衣ちゃんの挑発的な発言に支配人が何か言いかけると同時に、京香さんが口を開いた。
「へぇ、言うじゃない。このガキ…!わかったわよ、行ってやろうじゃない!」
煽られると意外とすんなりイベント参加に合意してくれた。明衣ちゃんがすごいのか、京香さんの煽り耐性がないのか…。
「着きましたねー!」
浜辺の駐車場に車を停め、私たちはイベント会場に来た。いろんな屋台が立ち並ぶ中を歩いて通り過ぎ、メインステージへと向かう。まずは、ステージ横の事務所でエントリー手続きを済ませる必要がある。
「はい、劇団むさし、さんね。四人チームでエントリーっと。じゃ、このゼッケンをお貸ししますんで、時間になったらそれを着けてまたここに集まってください。」
「待って、四人?」
「あぁ、俺は参加できない。」
「何でよ?」
「イベントの詳細、読んでなかったのか?参加資格は25歳以下の女性に限るって書いてあったろ?」
京香さんが改めてイベント要項をチェックすると、確かにその記載があった。さらにその下の行には、『水着で参加のこと』とある。
「あと、これお前らの水着な。準備の時間はあまりなかったが、一応ちゃんと選んでおいたから。」
「聞いてないわよ、そんなこと!?もういい、帰ります。」
「あら、ここまで来ておいてまさか逃げるつもり?」
「…っ!わかった、わかりました。もうエントリーしちゃったものね。やるわよ。」
渋々、参加することを決めた京香さんは支配人から水着を奪い取るようにして受け取り、更衣室へ向かう。私たちもそのあとに続く。
「京香さーん?着替え終わりましたー?」
「もう少しだけ待って。」
私たち三人は先に着替えを済ませて、更衣室の前で支配人と待っていた。
「遅いなあ…どうしたんでしょう?」
「さあ?もう置いていきましょ。それより出店に行って何か食べましょうよ!」
私の手を引いて今にも駆けだしそうな勢いの明衣ちゃん。水着はピンクのワンピースタイプで、あちこちに可愛いリボンがついている。来る途中で見かけた屋台に興味津々で、テンションが上がり目を輝かせている。
「だ、だめだよ、明衣ちゃん。みんなで行動しないと…」
控えめに注意する慧ちゃんの水着は、フリルのついた水色のセパレートタイプ。水着も控えめなデザインではあるけれど、しっかり可愛らしい雰囲気があって慧ちゃんにぴったりだ。
「みんな、待たせたわね。ちょっとサイズきつくて時間かかっちゃって。」
更衣室から出ていた京香さんは白のビキニを着ていた。その抜群のプロポーションが遺憾なく発揮された姿は、まさに真夏の浜辺に舞い降りた女神。道行く人も思わず見とれて足を止めてしまう。私も一応同じビキニなんだけど、この差はどうにもできない。悲しみだけが私の心を支配した。
「やっと全員揃ったところで、まずは昼飯にするか。そんとき、イベントの詳細をもう一度確認しよう。このビーチバレー大会では戦略が大事だ。」
「戦略?」
この時はまだ、ただの楽しいイベントだと思っていた私は、支配人の真意を理解していなかった。
「スパァーン!!!」
強烈なスパイクが決まり、試合の決着がついた。
「ッシャァー!!」
試合に勝利したチームの面々が雄たけびを上げながらハイタッチしている。一人を除いて身長が高く、みんな肌が浅黒く焼けている。この大会へ向けて猛特訓したような様子が見て取れた。
「あの人たち、ガチすぎません?」
「まあ、ああいうのもいるだろ。毎年やってるそれなりに大きなイベントだからな。結構ハードな練習を積んでる強豪もいるらしい。」
「まったく優勝できる気がしないんですけど…」
「大丈夫だ。お前たちも日々レッスンで体力をつけてきてるだろ?作戦がうまくはまれば勝てるはずだ。」
「そううまくいくかしらね…」
「みんな弱気ね。私はとっても楽しみだけど!」
今回、明衣ちゃんは終始楽しそうではりきっている。これまで経験したことのない目の前のイベントが新鮮で、一刻も早くビーチバレーをしたいようだ。
「ほら、こいつもせっかくやる気になってんだ。お前らも全力でやるぞ!」
「「はい!」」
「…。」
会場の熱気にふれてやる気を出す私たちとは対照的に、京香さんの態度は冷ややかだった。
そして私たちの一回戦が始まった。最初の相手は、東北の合唱団。私たちと同じく、宣伝のためにはるばる遠くから参加したらしい。見たところインドア派の子たちばかりで、あまり連携がとれておらずグダグダしていたので、私たちは圧勝した。
「お疲れさん。なかなかよく動けてたぞ。ただ松澤、もっと周りをよく見ろ。何度か危ないタイミングがあっただろ?」
「勝てたんだからいいじゃない。」
「いやよくない。次の試合はちゃんと周りと連携をとるんだぞ。」
二回戦の相手は、北関東の劇団の女の子たち。やはり目的は私たちと同じだったが、メンバーの中にバレー経験者がいるみたいで、私たちより少し上手に立ち回れるようだった。それでも私たちは健闘し、あと一ポイントで勝てるところまで来た。しかし、
「あ、危ない!」
相手の甘いボールを拾おうとした明衣ちゃんと京香さんがあわや衝突しそうになったが、間一髪すれ違って大けがは免れたものの、明衣ちゃんが足をくじいてしまった。
「明衣ちゃん大丈夫?」
「へ、平気。それより早く試合を決めちゃいましょ。」
直後、京香さんのスパイクが入り私たちは勝利した。試合の後、支配人のもとへ戻って真っ先に口を開いたのは明衣ちゃんだった。
「ちょっと京香!あそこは私に任せるべきだったでしょ!?」
「いいえ、あれは私に譲るべきだったわ。あなたこそ出しゃばらないで。」
「はぁ!?何よそれ!間違ってるのはそっちでしょ?」
口論が激しくなりそうなところで支配人が間に割って入った。
「待て待て。落ち着け。まずは法天院のけがの処置だ。ほかのみんなは次に備えて体を休めろ。」
支配人の指示に、熱くなっていた二人もおとなしく従った。
「松澤、俺たちが最初に立てた作戦は何だった?」
「…私以外の三人がボールをつないで、私が攻める。」
「そうだ。四人の中ではお前が最年長で背も高く、それだけスパイクも強力になる。このチームの要となる存在だ。だからお前が周りをしっかり見てなきゃいけないだろ?」
「…そうね。」
「あいつらはまだまだ未熟だ。お前が引っ張ってやらなきゃ今度は勝てないぞ。」
「わかってるわよ。」
支配人といくつか言葉を交わして、京香さんは一人離れて行ってしまった。
「どうしたんですか?」
「んー、いつもならこんなことはないんだがな。やっぱり海に来たのがまずかったか…」
「京香さん、海が苦手なんですか?」
「ああ、あいつは海で溺れて死んだんだよ。嫌な記憶が浮かんでしまうのも無理ない。」
「えっ、そんな…。それなのに私たち浮かれちゃって…。」
京香さんの死因。大学生の時海に来て、大波にさらわれた友人を助けようとして溺れ、引き揚げられた時にはもう息を引き取っていたらしい。劇場にやってきてからは全く海に近寄ることもなく、舞台に集中していたため、こうやって浜辺に来ると死んだときのことを思い出して心が乱されるのかもしれない。だから、普段じゃありえないようなミスもする。
「まあ、あいつならちゃんと切り替えて…って、おい!」
京香さんの事情も知らず勝手に楽しんでいた私は、支配人の言葉も聞かず、考えるより先に走り出していた。
「京香さん!」
「ん?桜子じゃない、どうしたのよ。」
「私、その、京香さんのこともよく知らないでここまで無理に連れて来ちゃって、ごめんなさい!」
「いきなり何よ。私のことは気にしなくても…」
「だめです。私たちはチームなんですからだれか一人でも納得してないならやめるべきです。今からでも棄権して…」
「何言ってるのよ。私は大人だし、それくらいどうってことないわよ。それに途中であきらめるなんて後味が悪いじゃない。これまでの試合は調子が出てなかったのは認めるけど、次の試合はベストの状態で臨めるようにするから安心しなさい。」
その言葉通り、次の準決勝では支配人の作戦が完璧にはまり、見事勝利をつかんだ。
「さっきのはなかなか良かったぞ。連携も取れてきてるし、これは本当に優勝しちまうかもな!」
「最後は油断できない相手よ。こっちは一人けがしてるんだし。」
「わ、私なら大丈夫よ。心配いらないわ!」
語気を荒げて反論する明衣ちゃんだったが、少し足を痛そうに抑えている。
「別に心配はしてないわよ。単純に戦力分析をしているだけ。まだ動けるんならしっかりボールをつなぎなさい。」
「そう!ならいいの。」
「でも無理だって思ったら遠慮なく周りに言いなさい。さっきの試合、動きが鈍いときがあったでしょう。そういう時は年長者をもっと頼りにしなさい。」
「ふん、わかってるわよ…」
明衣ちゃんはそっけない態度で返事をしたけど、そのあとに続く京香さんの話をちゃんと聞いていた。
「よし、あと十分ほど休憩したらいよいよ決勝戦だ。相手は昨年の優勝チームで苦戦を強いられるだろうが、勝つ気でいけよ。劇団員の根性を見せてやろうぜ!」
「はい!」
休憩時間があっという間に終わり、それぞれのチームが決勝の舞台へと上がる。相手チームは、最初に見かけたビーチバレーガチ勢の面々。向かいに立つだけで威圧感が半端じゃない。周囲の観客も結構たくさん来ていて、注目の集まる試合に熱狂している。一旦、みんなを落ち着かせようと京香さんが私たちを集め、円陣を組んだ。
「いい?これが最後の試合よ。ここまで来られただけでも十分な成果だわ。あとは当たって砕けるだけ。」
「砕けないわよ!勝つんでしょ!?」
明衣ちゃんが思わず口をはさんだ。
「ふふっ、そうね。私たちは勝つためにここまで来た。昨年の優勝チームだか知らないけど、今年は私たちが優勝して見せつけてやりましょう!」
「「「おーっ!」」」
京香さんがみんなの目の前に差し出した手の上に、私、慧ちゃん、最後に明衣ちゃんが手を重ねて気合を入れなおした。
まもなくして、試合開始のホイッスルが鳴り響く。
試合の序盤から相手チームの猛攻が続き、私たちはほとんど何もさせてもらえなかった。サーブを拾って京香さんにつなげても高い壁に阻まれ、ブロックされてまるで歯が立たない。実力差が大きすぎる。
あえなく一セット目は相手に取られてしまった。
「こんなのさすがに勝てっこないよ…」
「そうですね、相手の実力がありすぎて手も足も出ません。」
「認めたくないけどこれだけの差があるんじゃ、かなわないわね…」
私たちがあきらめかけていたとき、京香さんが口を開いた。
「まだよ!まだやれることはあるわ。」
「あんな相手に何ができるってのよ。あんたのスパイクだって通用しなかったじゃない!」
「そこよ。ずっと私にばかりボールを集めてたから警戒されて何もできなかった。今までの試合ならそんな単純な作戦でも通ってたけど、決勝にもなればそれも効かない。だから、代わりに桜子!あなたが攻めるのよ。」
「えぇ!私ですか!?」
「あなたたちの身体能力を考えたら、この中だとあなたしかいないわ。やれる?」
「…私しかいない。なら、やってみせます!」
第二セットが始まった。今回の大会では二セット先取で勝利のため、ここで負けると試合終了。一本目、二本目まではさっきまでと同じく京香さんにボールを集めたけど、やっぱりマークされていて点が入らない。そして、三本目。相手のサーブを慧ちゃんが受け、明衣ちゃんが絶好球をトスする。
「お願い!」
京香さんがジャンプして打つ、と見せかけて私が跳び上がり、スパイクを打ち放つ。意表を突かれた相手は、あわてて返そうと滑り込むが届かず、ボールが砂浜に落ちた。
「よしっ!」
私たちはようやく入った一点にハイタッチして喜んだ。観客もワンサイドゲームになりつつあった試合が、この一点から変化していくかという期待に沸いた。
しかし、その後、相手チームは瞬時に切り替えてきて私と京香さん二人の攻撃を警戒するようになり、結局、私たちが点を取れたのは意表を突くことができた最初の一点のみだった。そのまま二セット目も相手チームのものとなり、私たちは二位という結果で大会の幕を下ろした。
試合後、対戦相手と握手するとき、一人だけ背が低くて、試合中周りに指示を出していたショートカットの少女から声を掛けられた。
「なかなかいい機転だったね。また会えるのを楽しみにしてるよ。」
一瞬私に向かって言ったと気づかず返事ができなかったけど、その人はそのまま去って行ってしまった。またどこかで会う機会なんて来るんだろうか…。
「いやー、さすがに優勝とまではいけなかったが、なかなか奮闘してたな。あそこから一点もぎ取っただけでも客席はすごい沸いてたしな。」
「でもその一点しか取れなかったのは悔しいわね。」
最後の試合で一番熱くなっていた京香さんは口惜しそうに言った。
「仕方ないですよ。相手はとっても強かったんですから…」
慧ちゃんもやはり残念そうな顔をしている。
「そうだね、でも私も負けたのはやっぱり悔しい!」
「過ぎたことは今いくら言ったところで、もうどうしようもないじゃない。それより早く海で遊びましょ!ずっと楽しみにしてたんだから。」
試合に負けて悔しいなんて気持ちは全然ないかのように、私の手を引いて海に行こうとする明衣ちゃん。四回も試合をしてなお、元気が有り余っているようだ。
「待て待て。その前に表彰式だ。ほら、行くぞ。」
海へ駆けだしそうな勢いの明衣ちゃんの前に立ちはだかった支配人は、表彰式のあるステージへみんなを誘導する。ステージ前にはすでに選手と観客が集まっていた。あとは上位の表彰だけのはずなのに、なぜか全員勢ぞろいで観客もさっきの決勝戦より増えている気がするのは少し違和感を感じた。
「それでは表彰式に入ります。第三位、劇団みやの。…」
呼ばれたチームの代表がステージに上がり、表彰状を受け取る。三位から順に一位までが表彰を受け、表彰式が終わった、かと思いきや。
「表彰式はこれにて終了です。…それでは、今年も大会の延長戦とまいりましょう!題して、『真夏の美女コンテスト』ーーー!!」
「「「「は?」」」」
私たちは一斉に疑問の声を上げた。逆に、周囲の観客は本日最高潮の盛り上がりを見せた。会場のあちこちから歓喜の声が聞こえる。
「待ってたぜぇ!」
「この一年、ずっと楽しみにしてたんだ!!」
「さて毎年恒例のこのコンテストですが、軽くルール説明をしておきましょう。本大会に出場していた女性たちの中で最も美しい!、と思った方へ投票していただき、一番票を集めた方が優勝となるいたってシンプルなルールのもとで行われております。そして、投票受付はすでに終了。集計結果が…たった今到着致しました!さっそく、運命の、結果発表ーーー!!!」
私たちが急展開に呆然と立ち尽くす中、司会が多少興奮気味に結果を発表していく。第五位から順に名前が発表され、ひとりずつステージへ上がっていく。その都度、たくさんのカメラのフラッシュが焚かれた。
「…そして、栄光の第一位は、エントリーナンバー24番、劇団むさしの松澤京香さんだぁーーーーー!!!」
今日一番の歓声が沸き起こり、拍手とともに会場全体が熱気に包まれた。京香さんはぽかんとしていたが、支配人が後ろから背中を押し、ステージへ上がった。
「優勝した松澤さんには賞金とこちらのトロフィーが贈られます。優勝したご感想は?」
トロフィーを受け取り、司会にマイクを向けられて顔を引きつらせながらも京香さんは答えた。
「と、とても光栄です。ありがとうございます…」
「今年の大会はこれにて終了です。皆様、表彰された方々へ今一度大きな拍手をお送りください!!」
「どういうことか説明してくれるかしら、支配人。」
「あぁ、まぁ、その、なんだ。これも宣伝のためというかなんというか…」
京香さんに詰め寄られて、支配人は視線を泳がせて曖昧な返答をした。
「このコンテストのこと知ってて教えなかったわけ?」
「そりゃまあ知ってたが、先に教えたら絶対来ないだろ?お前は特に。」
「そりゃ来るわけないわよ、こんな大会。まさか大会前に立てた作戦って私を目立たせるためだったの?票を集めるために。」
「いやいや、それはちゃんと試合に勝つための作戦であって決して票集めのためなんかじゃ…」
「やっぱり答えなくていい。もうあなたの言葉は何も信じられないわ。私、先に帰るから。」
「待てって、おい!」
優勝トロフィーを置いてさっさと帰り支度を整えた京香さんはそのまま帰ろうとする。それを後ろから追いかける支配人。恋愛ドラマで見たようなロマンチックな光景とは程遠い追いかけっこが繰り広げられる隣で、私たち三人は波打ち際で楽しくビーチバレーをしていた。
舞台のことは一旦忘れて、心の底から楽しんだ夏の良い思い出ができました。