人々の知恵
「終わったぁ……!」
最後のクルミを粉にして、それでやっと皇女たちはひと息ついた。
手のひらから出た血は、つうっと手首まで伝っている。
エナルは痛さで少し涙目になっていたし、カナルも何度となく泣きそうになった。
「お疲れ様」
クルミの殻をむいて、きのこは干物に、果実は蜜漬けに。それを全部やって、いちばん早く終わらせたイヴがにこにこと言った。
「これ飲みなよ」
イヴが差し出す、ところどころが欠けたカップには薄紅色の飲み物が入っている。
「……甘い!」
ひと口すすって、カナルは言った。
「桃の蜜漬けをお湯に溶かしたヤツ。去年は桃がたくさん取れたから、少し持ってきたんだ」
にんまりとイヴは笑った。
エナルもすすって、ほうっと息を吐いた。
「ひと仕事した後は甘いものが欲しくなるからね」
イヴはそう言うとすっくり立って、どこかへ行ってしまう。
「どこ行くの?」
「思った以上にいっぱい食料があったから、もうちょっと取ってこようと思って」
えっ、と双子の顔がそっくりに歪んだ。
それを見てイヴが吹き出す。
「大丈夫、もうクルミはつぶさなくていいよ。その代わりティフの背中の船から樽を下ろして水を汲んでおいて」
「了解」
エナルとカナルはすぐにティフによじ登り始める。
イヴはそれを見届けてから、足早に歩いて行った。
樽にはご丁寧に担ぐ用の肩ひもがつけられていた。
四つある樽を二度に分けて、エナルたちは慎重に下ろした。
「見た目より重いね」
「後ろに転ばないように気を付けましょう」
慣れない作業によたよたしつつ、川縁まで運んでいくと、今度は水を汲まなくてはならない。
「これどうやんの?」
樽は担ぐのが精一杯で持ち上げることなんて到底出来なかった。
困ったようにカナルは呟く。
「カップに汲んだ水を入れていくんじゃない?」
エナルはちまちまと水を汲んだ。
「なにしてんの?」
そこに食料を集めたのか、戻ってきたイヴがやってきた。
エナルたちを覗き込んで不思議そうに聞く。
「水を汲んでって言われたから……」
「あはは、カップでちょっとずつ汲んでるの!?」
それは想像しなかったなぁ、とイヴは感心したように頷いた。それから少しだけ水の入った樽を担いで、川沿いに歩いていく。
「こういうちょっとした段差になってる流れのところに樽を置くんだよ」
イヴは、小さな滝のような、水が落ちる場所に樽をおいてみせる。
カナルはぽんっと手を叩いた。
「イヴ、頭いいね……!」
「逆にこれ以外じゃ、効率よく汲めないでしょ。人々の知恵ってやつだよ」
呆れたような笑顔を浮かべるイヴ。
「後はお願いするね」
ぽんっと双子の肩に手を置くと、走って行ってしまった。