食料調達と手のひらの怪我
(カナル、そろそろ休んでいい?)
ぼわんと響くような、そんな音が耳の中で聞こえる。動物が聞かせてくれる心の声も、子によって違う声だ。
「エナル、そろそろティフが休みたいって」
「この辺ならどこに降りても大丈夫だけど……。少し先に水辺があるからそこにしようか」
カナルはこくんと頷く。
(もう少し先に水辺があるからそこで休もう)
(分かった)
ティフはゆったりと下降しつつ、水辺に向かって進んだ。
「水があるなら、食べられるものもあるかもしれないね」
イヴが言う。
そういえばもう食料がないから、調達したいと言っていた。エナルはにっこりと微笑んで、それから言った。
「イヴはそういうの詳しい?」
「すごい詳しいわけではないけど……。でも一応、野宿することも多かったからね。普通の人よりは分かると思うよ」
「そう。じゃあ、教えてくれると嬉しいわ。そしたら今後は手伝えるでしょ?」
イヴは首を傾げた。
「エナルは植物と意思疎通できるんでしょ? なら植物に聞けば分かるんじゃないの?」
んー……とエナルはしばらく考え込んだ。
代わりにカナルがひと言だけ、助け舟を出す。
「能力だってそう都合良くはいかないんだよね?」
エナルはカナルをちらっと見ると、言った。
「植物はちょっと難しくて……。こちらの意思は読み取ってくれはするんだけど、それに応答したり、あちらから話しかけたりするのはできないらしいのよ」
いっぱいいっぱいだというように身振り手振りで話してくれたエナルに、イヴは大きく頷いた。
多分口で説明するには少し大変なんだろう。でもなんとなくはイヴにも分かった。
「食べられるか聞かれて、『食べられる』って答えたら全部取られた、なんてことになれば植物側も困るからかもね」
「かもね!」
なぜかカナルが楽しそうに答える。
「じゃあなにか見つけたら俺に教えてよ」
「うん!」
エナルも楽しそうに笑った。
「船長! これは?」
ティフが水辺でウトウトし出したので、一行は食料調達に出かけた。
とはいえ近くのあちらこちらに実のなっている木がたくさんあったから、遠くに行く必要はなかった。
「それはクルミだから食べられるよ。ティフにもあげられるから落ちたヤツをいっぱい採ってきて」
ふざけつつクルミを見せるカナルに、イヴは答えた。
「ラジャ!」
カナルはタタッとかけて行って、もう見えなくなってしまった。
「えっと、この梨みたいのは?」
「それはダメ。梨に見えるけど、猛毒だから」
ひゃっと手を引っ込めるエナル。
それから少ししょんぼりした顔をするから、イヴは付け足した。
「でも……」
エナルの足元にイヴがしゃがみ込む。
「このきのこはすっごいレア物。エナル、俺たち運がいいよ」
「本当!」
ついさっきとは違って、エナルは嬉しそうだ。なんだかつられてイヴまで嬉しくなってきた。
「そろそろ戻ろうか」
両手いっぱいにクルミを抱えたカナルと、嬉しそうにきのこを持つエナル。イヴの手にも、いくつかの果実が握られていた。
「クルミは殻をむいて、半分は粉に、半分はそのまま保存する。俺が殻をむくから、二人はつぶして粉にしてくれる?」
短剣でクルミを叩きつつ、イヴは皇女たちに石の椀と洗った小石を渡した。
これでクルミをつぶすのは、宮育ちの双子には随分と大変なことだった。
「クルミってこんなに固いの……!」
まず歯で噛み砕くのとすりつぶすのでは必要な力が全然違う。
「あ、血が出てきた」
慣れないがゆえに変な力が入って、二人の柔らかな手のひらはすぐに血だらけになった。
「ほら、そこの川で血をすすいで」
エナルとカナルは大人しくイヴの言う通りに手を洗った。
「洗ったらまたつぶして」
「えっ」
思わずエナルは声をあげた。
血が出ているのだ。薬を塗るなり、なにか手当てをすると思っていた。
「その程度で手当てなんてしないよ。薬なんて高価だからムダ使いは出来ないし、洗えば大丈夫」
「でも……」
カナルも困って笑った。
手はヒリヒリするし、洗っても血は滲んでくる。
「今は二人は皇女じゃないし、ここは宮じゃない。郷に入れば郷に従えってね」
イヴの声は、いつもより少しだけ冷たかった。
「分かった……」
宮にいる頃は、自分たちは特別だと分かっているつもりだった。
でもそれはつもりに過ぎなくて、すごく大事に甘やかされていたんだと、やっと少し分かった気がした。