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縄の作り方

 「まさかイリナがイヴの主人だったとはね」


意外そうなカナルの呟きに、イヴは首を傾げた。


「あれ、俺そんなこと言ったっけ」


「ティフはイヴの主人の竜なんでしょ」


「あ、言ったか」


納得してそのまま黙り込んでしまったイヴは、なにかを深く考え込んでいるようだった。

エナルは心配そうにイヴを覗き込む。


「大丈夫? なにをそう考えてるのよ」


「イリナがあんなにすぐに立ち去ったのがちょっと引っかかるだけ」


そう言うと、イヴはまたすぐに思考の中に入っていってしまう。

エナルもそれを聞くと、一緒に考え出してしまった。


「確かに、私が知る限り、イリナはかなりしつこい性格だわ」


「昔、山賊退治をお願いした時だって、父様が止めるまでボコボコにしてたもんね」


カナルのひと言にエナルは苦笑いした。

そうだった。山賊はとっくに戦意喪失したのに、イリナは攻撃を続けていたっけ。


「まあ、別に大丈夫でしょうよ。私たちがいると悟られた訳でもあるまいし」


「そうかな……」


まだなにか気になる様子のイヴだったが、考えてもしょうがないと諦めたのか、立ち上がった。


「はい。お二人さん、集まって?」


「どしたの?」


エナルもカナルもイヴにのそのそと近寄った。

イヴの手には、パキパキに乾燥した藁が握られていた。


「これを石で潰して、繊維にしたら、他のとまとめて……」


説明しながら、イヴの手は淀みなく動く。


「んで、よじる」


潰してまとめた藁を手のひらでよじると、あっという間に細い縄になった。


「おお!」


「これじゃまだ細いから、これをいっぱい作って、三本くらいにまとめてよじる。それで完成」


イヴは足元に転がる縄ばしごを持ち上げた。

きっとエナルたちと出会う前から使っているのだろう、足をかける真ん中は、黒くなってボロボロだった。


「これももう古いから、作るの手伝ってよ」


イヴはそう言うと端に積んであった麻袋のひとつを持ってきた。

中を開くと山盛りの藁が顔を見せる。


「げ。まさかこれ全部?」


カナルがあからさまに嫌そうな顔をする。


「うん。三人で手分けしようね」


「まあ、お話しながら出来るお仕事よ。楽しくやりましょう?」


エナルがなだめるようにカナルに笑う。

イヴはもう座り込んで作業を始めていた。


「仕方ないか」


カナルも諦めて、藁の山を囲むようにしてイヴの向かいに座ると、作業を始めた。


「潰して……」


パキパキと小気味良い音を立てて藁が潰れる。中は空洞だったが、意外としっかりしていて、綺麗に潰すには力が必要だった。


「まとめて……」


何本かを潰すとそれを手のひらにまとめる。


「よじる!」


イヴがやっていた通りによじると、カナルは思わず顔をしかめた。


「痛い!」


「ん、カナル、大丈夫?」


カナルは恐る恐る自分の手を見て、イヴに突き出した。


「刺さった……」


「おお、また派手に」


イヴはそれに少し笑って、薬箱を取ってきた。

中を漁って、小さな針を取り出す。


「取るの痛い?」


「痛くしないから、大人しくしてて」


ちょんちょんっとイヴがカナルの手のひらをいじって、あやすように言った。


「はい、もう平気だよ」


「ありがと」


涙目で棘が取り払われたかを確認するカナルを眺めつつ、イヴが言う。


「しかし、二人とも、初心者のやりがちな事をコンプリートしていくよね」


「え?」


「クルミを割るのも確かに最初は手が削れるし、藁よじるのにもコツがいるし」


「やったことないもん」


「それでいいんだけどさ」


話しながらでもイヴの手元にある藁はどんどん縄になっていく。


「早いわね」


「慣れだって」


カナルはもちろん、エナルもかなり悪戦苦闘しているようだった。

それでもなんとかやりながら、段々とコツを掴んでいる。


「これ終わる頃には今日の宿に着くと思うよ」


イヴがなにやら意味深に笑った。

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