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謎の違和感

 「装備はこれくらいでいいだろうね」


「ありがとう。助かったや」


気にするなとでも言うように、おじさんは手を振った。

それから、ふと考えた顔をして言った。


「イヴ、ここにはどのくらいいるんだ?」


「連れの体調も心配だし、明日もお世話になるつもり」


「その間、(こいつ)借りていいか?」


何に使うんだと、イヴは首をかしげる。


「いいけど、なんか運ぶの?」


「いいや。いいなら、乱暴も働かせもせん、黙って貸してくれや」


そう言ったからには無茶はしない。

イヴはそう確信を持って思えた。だから不思議に思いつつ、おじさんの言葉に頷いた。



 一晩明けて、ティフの元へ行ってみると、ティフはすやすやと寝ていた。

ただ、背中の小船だけが見当たらない。


「イヴ! 昨日の晩はどこにいたのよ?」


すっかり元気そうな声が、商家の渡り廊下に響く。


「あ、エナル。元気になったみたいで良かった。ちょっと久しぶりに色々ね」


「ティフはー?」


カナルはどこか退屈そうだった。


「本日ティフは休業日ですので」


「ちぇ、つまんないの!」


たった半日会わなかっただけなのに、すごく久しぶりに思えて、イヴは苦笑した。


「二人は?」


「商家の見学中」


「なら買い物に付き合ってよ」


買い物と聞いた途端、目がキラキラ輝き出したのはやっぱり女の子だからだろうか。

せっかくだから髪飾りのひとつやふたつ、買ってやろう。イヴはポケットの銅貨を握った。


「なに買うの?」


「食料と日用品の買い足し、服と俺の短剣を研いでもらう」


「多いね」


ゲソっとした顔をするカナルに微笑んで、イヴは続ける。


「二人にもなんか買ってあげるよ」


真っ先に口を開いたのはエナルだった。


「本! 本が欲しいわ、イヴ。なんでもいいから、なにか本を買ってよ」


てっきり靴やらペンダントやらをねだると思っていたから、イヴは驚いた。


「本でいいの?」


「私も本がいいなぁ」


カナルも賛同する。

なにせ皇女様だ、ドレスにもジュエルにも飽き飽きなのかもしれない。


「いいよ、おばさんのところに行こうか」


「うん!」


研いでもらうために引き抜いた剣を、手のひらで見事に回してみせて、イヴは歩き出した。


「あ、いた。おばさん、これ研いで!」


「おや、イヴ。お嬢さんたちも平気かい?」


ピクッと、イヴはなにかおばさんに違和感を感じた。

なにがとは言えない、そんな違和感。


「二人が本が欲しいっていうから、見せてやってくれない?」


「いいよ、お安い御用だ」


こっちだと先導するおばさんの首元を見て、イヴはニヤッと笑った。だから違和感があったのだ。


「ほら、ここの本は売り物だから、お気に入りを探しなね」


でーんと腰に手を当てて、優しそうに笑うおばさんにイヴはこっそり声をかける。


「おばさん。ずっと言ってなかったけど……」


「なんだい?」


「あの二人、()()()()()()()


「やっぱりねぇ。似てるからそうなのかと思ってはいたよ」


上手くいったと、イヴは意地悪く微笑んだ。

ネタばらしはまた後で、ここを発つ時でいい。


「イヴ、これがいい」


エナルが大事そうに持ってきた本は、どうやら冒険の物語のようだった。


「あと何冊かいいよ?」


「じゃあこれも」


カナルが持ってきたのは『世界の食べられる実』。

思わずイヴはくすっとして、頷いた。


「おばさん、この二冊とエル・グランデとベル・スフィアスがどっちも載ってる地図頂戴」


「銅線五枚」


「ほいよ」


おばさんに銅線十枚を手渡す。

怪訝な顔でこちらを見るおばさんにイヴは笑って言った。


「お釣りでその二人に合う雨合羽と短剣を見繕ってよ」

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