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フォルセティアル・デバイス  作者: 雨宮ゲンドウ
7/9

クルトの過去~終章~

「………ッ。」


私は一心不乱に刀を振るう。


「………ッ。」


真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに。


「………ッ。」


私は自然と一体となり、振るう刀身のその煌めきだけが唯一私がこの場所で異質であることを証明している。


「………ッ。」


振るうは母の刀。私が母から譲り受けた唯一のもの。


「………ッ。」


あの後、母は死んだ。母は恐らく難病か何かに感染()()()()()いた。

父はそれの活動をかなり抑制できる謎の薬で母を制御していたらしい。それを母にちらつかせ『この薬が無ければ死ぬ』と洗脳することで父に依存させていたようだ。


十中八九、薬は新皇共和国からの物だろう。となると、父…いや、裏切り者はかなり前から繋がりがあったと思われる。だが、これは私のほぼ事実に近い推測でしかなく、私以外の人間にとってはただ、私が父親を殺したということしか残らない。


故に私と母はバーンステイ家から追われることになった。そんなとき、母の実家から連絡があり、廉家が私達を匿ってくれた。私はそこの地元の学校に通うことになったが、何処で聞いたのか知らないが周りから《親殺し》と噂され始めた。それまで私に付きまとっていた周囲の視線は、羨望から疑問と恐怖のものに変わった。


それでも私が学業でも運動でも常に頂点にいるのが気に入らなかったのだろう。時々、男女問わず私を煽ってくるときがある。

…別に私が罵倒されるのは良い。どうあがいても事実は変わらない。だが、同時に何の罪もない母を《売女》と罵る輩が存在する。…まぁ、力で分からせるが。


「………ッん!」


私は邪念を消すために刀を振るう。くぐもった鼻息が森に木霊する。


実家に帰ってからというもの、一度も道場で刀を振るっていない。もちろん、追い出されてはいない。ただ、道場に入ると居づらさを強くかんじる。


『人殺しのいる場所ではない。』


道場にそう言われている気がして。


だから私は森で刀を振るう。自分の罪と向き合うために。でも、本当は違う気がする。

自分の罪と向き合うのも嘘ではない。ただ、それだけではない気がするのだ。


「………ッんっ!!」


虚しく声は森へと吸われた。



そしてその日も、私は虚しく刀を振るっていた。



~~~~~~~~



その日は不思議な日だった。

普段、圧倒的にインドアな僕は外になんて殆ど出ない。なのにその日だけは妙に外に出たい気分だった。それも少し離れた低く平たい山の中なんて変に具体的な欲求だった。


理性と本能の間で困惑しながらも、僕はにじみ出る好奇心を抑えられなかった。


山なんて殆ど行かないせいか、登山の装備とすら言えないような軽装で自宅を出る。


「いってきます。」

「ちょっと、何処に行くの?」


すかさず母がストップをかける。


「…何処でもいいだろ。」


僕は少し考えたが、山に行きたいなんて言うわけにもいかず、反抗的に家を出た。


鍵を取り、それをポケットに突っ込むとすぐに自転車に跨がってスピードをどんどん上げ、すぐにトップスピードに乗った。梅雨明けの夏先の蒸し暑かった風がスピードで涼しくなっていくのが肌に心地良い。


「自転車はホントこれが最高だよな。」


まるで専門家にでもなったかのようにしみじみと語り出す。引きこもりのくせに。言ってて悲しくなってきたからやめよ。


「…ホンット田舎だよここは、はぁ。」


自宅周りの住宅街を抜ければ、行けど行けども田園風景。変わることといえば時々目に映る自動トラクターや住宅、お墓と言った所だろうか。


僕は大学は都会の所にしようと決めている。本当は高校から行きたかったのだが、新皇共和国との戦争が激化して村からは出られなくなってしまった。ちょうど、戦争状態も緩和されて緊張状態に落ち着いたし。


「あと二年の辛抱、だっ!」


僕はギアを上げて、前傾姿勢で田舎への怒りと共に力強くペダルを踏み込んだ。



しばらくして背の高い木が増えてきた。明らかに住宅街とは匂いが違う。自然環境特有の清涼感漂う…それでいて少し鼻につくような、そんな匂い。


「うっ、この森こんなに臭いのか…。」


僕はこの生まれながらに嗅いできた田舎臭い匂いに顔をしかめながら、白と黒のモノトーンのスニーカーで枯れ葉に埋もれた山道を登坂する。


「うおっ…」


そんな初心者でさえ選択しないような装備ではもちろん躓く。僕は込み上げる行き場のない怒りを抑えながら、歩みを進める。


――――――――カンッ…!


堅いものを叩きつけ合ったときの、あの甲高い音。


「キツツ…キじゃないよな。」


上から枝でも降って来たんだろう。そう思いながら、僕は拭いきれない不気味さを感じていた。

足取りが速くなったのもそれのせいかも知れない。



「………った~~…。疲れた。」


何事もなく一時間半ほどて頂上まで着いた。山頂が低いこともこれに起因しているのだろう。


「結局何なんだ、あの音。」


その間、あの甲高い音が止むことはなく、常に定期的に響いている、今も。


気になり出すと止まらない、僕の()()()が、また僕の中を蝕むように巡り続ける。


「……。……んぁあ!もう、くそっ!分かったよ!行きゃいんだろ行きゃあ!」


自分に言い聞かせるように叫ぶと、僕は音の鳴る方向へ茂みをかき分けかき分け進んでいく。


―――――バキッ、ベキッ


折れて弾け飛んだ枝の破片が腕を掠めて小さく傷を残す。奔る痛みを無視して、不気味な音へと急いていく。


どれくらいそうしていたか、あるいはそう感じただけなのか…ともかく、その頃には僕は首元と脇に大きなシミを作っていた。髪からは塩味の効いた自家製の食塩水が滴っている。


時折、額に腕を引かせ、目に入った食塩水と格闘しながら進むと、ようやく小さな広場が見えてきた。どうやら音の中心地もここらしい。


『逃げてしまうかも知れない』

僕は謎の見解を以て茂みの中をくぐり、広場をこっそりと覗く。


(…女の子?)


そこには長い刀を携えて凛と佇む女性がいた。

そして、ゆっくりと目を見開くと…


―――――――はぁッ!!


――――――…ギギギギ、ギギギギギ…!

――――――ペキペキペギ、ベギギギベキッ!


「は?……う、おぉぉぉぉ?!」


周りの枝をなぎ倒しながら全長十メートルはありそうな巨木が唸り声を上げて、僕目掛けて落ちてきた。


僕は急いで茂みから飛び出すと、丁度同じ時間で背後からズシッという重低音が響く。直後、背中に木っ端と共に強烈な風を感じて、改めてそれに恐怖する。


()()()()()()ではない。その女性が携えていた刀に、僕は悪寒を感じたのだ。


現在、新皇共和国は緊張状態にある。そのため詳しい情報はよく分からないが、僕らの町のような田舎にも伝わっている情報がある。


即ち、『新皇共和国はあらゆる面において才能、能力を持っている者で構成されている。』ということだ。


「………は、え?」


女性の持っている刀は()()()()()


「…君は…何者なんだ…?」




~~~~~~~~~~~~




「…君は…何者なんだ…?」


突然現れた奇妙な男の子に言われた。


私はただ彼が不思議だった。棒のような手足、擦り切れた肌、およそ山に登る者とは思えない軽装。明らかに外に出るような人ではない、なのにそこに居た。


極めつけは目だった。同様した様子とは矛盾した、肝の据わった目付き。


もしかすると私はその時からその目に魅力を感じていたのかも知れない。私には無いような力強さ、覚悟、不屈そして…不安。そんな物が彼からは感じ取れたのだ。


「…では、作戦会議を始めよう。」


…今も。

(投稿欄と中身を見て)

ワイってやっぱり厨二病やなぁ(卒倒)

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