8話:家庭教師のお姉さんを手に入れた。
「なるほどねぇ。あの実践的オリエンテーションは魂魄値を1未満にする為のものだった訳か。」
現在、カナ先輩の部屋。小綺麗で可愛らしいTHE女の子の部屋である。うちの寄宿舎とは違い築10年以内のアパートだった。なんでも家賃を払えば誰でも住めるとか。
「あっ、でも神器を得る為のものでもあって、最初の一回目は神器をつかえないの…です。」
「なんで敬語ー、別にタメでいいですって!それより良い所ですねー、俺も此処に住もかっなー。」
カナ先輩は若干しどろもどろになりつつも色々話してくれた。例えば、やはり神器を持たない学生はここには居ないとか。
「えぇぇえ!?いや、嫌じゃないけど!その……一緒に住む何てそんな!」
(うーわ、更に顔赤くしちゃって。そんなにさっきの言葉が効いたかね?)
先程、言った台詞は中一の時カナ先輩に放った最後の言葉だった。……はず。何せ、名前を忘れていたぐらいである。確信は持てなかった。
「いやいやいや、同棲とかじゃなくて。俺もこのアパートに移ろうかなって事ですって。」
「そ、そっか………。そうだよね…。でも当分は無理だと思うよ?ここの家賃高めだから。……それと、そっちも敬語やめて。」
「イヤでーす。俺は今カナ先輩の後輩ポジな訳ですから。」
笑って誤魔化すとカナ先輩は少しムッとした。少しずつ俺に慣れてきたようだ。
「取り敢えず、えっと…上ほど「ほとり。」……ほとりさん「ほとり。」………ほとり様「ほとり。」…………ほとり君「まぁいいでしょう。」」
この人、何回目だよこのやり取り。
「えっと、ほとり君は部活に入った方が良いと思う。上位の部活に入れば情報の質も違うし、ダンジョン攻略にも差がでる。入ってるかどうかで今後の生活が違ってくると思う。」
(部活ねえ…。)
この学校にも部活というシステムは存在する。本当に部活動をしてる訳ではなくダンジョン攻略の組合みたいなもので、サッカー部と名乗っていてもボールを蹴ったりしないそうだ。ちなみにダンジョンとはあの異世界の学生間での通称らしい。
「…取り敢えず、あたしの部活に入る?全員女の子だけど、私が言えばどうとでもなるから!あっ、べつに入らなくても情報はいつでも提供するからね!!」
聞けばカナ先輩、自力で男子に立ち向かえない女子達を集めて保護する慈善活動っぽい部活をしているそうだ。中学時代とは大違いだ。そんな所に男がほいほい入っても混乱を生むだけだろう。
「そうだなー。カナ先輩、部活ってどうやって創るんです?」
「え?えっと、三名以上の部員と現存する部の推薦があれば誰でも創れるけど…。」
「顧問とかは?」
「ここに顧問のいる部は一つもないよ。」
(それだけなら、なんとかなるな。)
「まさか…、新しい部を創るつもりなの?止めといた良いよ。手芸部創ったあたしが言うのもなんだけど、創設されたばっかの部は鴨扱いだから周りから何されるか…。」
どうやら本気で心配しているようだ。顔が真剣味を帯びている。どうでも良いけど手芸部なんだ…。
「なんとかなるでしょ。それにカナ先輩だってどうにかなったでしょ?」
「それは!………悔しいけど推薦した部が後ろ楯になったからで。」
どうやらカナ先輩はその推薦した部が気に入らないらしい。これはつつくと面白そうだ。
「まあまぁ、何とかするんで。知ってるでしょ?」
そう知っている。カナ先輩は知っている。俺がやろうと思えばやることを。
「…っ。でも、ここじゃレベルがものを言う!ダンジョン内ならクラス値の差は一年生じゃ相性とかいう前の問題っ!」
必死に訴えてくるが、今一ピンとこない。ダンジョンの中以外だと能力関係は全て使えないらしく、魂魄とクラスが高ければ少しは発動するのだが、安い手品みたいなモノだと言う。そこでものを言うが身体能力にブーストをかけるレベルという事だ。
「じゃあ、カナ先輩が手伝ってください。そうしたら、カナ先輩が煩わしく思ってる問題も片付くかもしれませんよ?」
「…………。分かりました。分かりましたよ!部活創りも、鍛えるのも!」
最後にふんっ。とそっぽを向くが、その顔は微妙に赤い。そんな顔を見ているといじめたくなるじゃないですかー。
「じゃあ…話がまとまった所で、その前金と情報の提供料として俺が何でも言うこと聞きますよ?」
「へっ…?なんでも?」
「はい、何でも。あっ、できることにしてくださいね?今お金ないですし。」
そう言うと、カナ先輩は視線をあっちこっちにさ迷わせて最終的に俺の唇を見てきた。
「キスがいいですか?」
「いやっ!その!!」
耳どころか首まで真っ赤にして後退ると、机にぶつかりペン立てが床に転がり、中身が散らばる。
それを無視して追いかける追い詰める。
「はっ!ハグで!!」
折角、壁まで追い詰めたというのに希望を出されてしまった。しかし、目をつむって両手を突き出す様は乙女の様だ。
「んっ。………あっ、んん。」
「…。」
べつに普通のハグのつもりだが、腕を動かすと変な声をだす。
「はっ、……あぁ。……んむ!??」
キスしてやりましたよ。ええ。
「ちゅ、んんん!られっ……ぇぁりゅ、…ちゃ。」
舌も入れてやりましたよ。ついでに押し倒しましたけど?
「……んは。ポテチでも食べました?」
カナ先輩は呼吸を荒くしながら小さく首を縦に振っていた。