5話:ユイユイ可愛いよユイユイ。
あー、たのし。
「あんたらーいつまで盛ってんのー」
ドアを叩く音がする。
「んんー」
目蓋がピクピクと動くのを感じながら、ほとんど無意識下で布団を頭からかける。
「んー、布団とんないで。寒ぃー」
さっきと違う声がすると、身体の心地よい暖かさが消える。
「ぁー、返せ。ビチクソには勿体ない。」
「あ"ー?知らないわよ、凍死しろボケカス。」
「…ああ"?昨日散々ひーひー泣きわめいといて、また泣かせて欲しいのかクソグズ。」
「ちっ…、お前がヤりたいだけだろクズカス。」
「あぁ良いぜ、ならやったろ「いつまでも喋ってんじゃねえっ!みんな待ってんだよ!!」」
ダンッッッ!
俺の言葉を遮る様に快活そうな女が部屋に押し入ってきた。
その女は自慢のポニーテールを揺らしながら、ズンズンと俺達の前まで進んでくると、「さっさとしろっ!」とキレてくる。
そこで俺は気付いた。気付いてしまった。自らの過ちに!!
『みんな』。『みんな』とこいつは言った。つまり!
「ユイユイが俺を待っている!!」
布団など蹴飛ばして、急いでドアの方へ向かう。
が、
「そんなカッコで行くつもりか?」
怒気を十二分に含んだ声を震わせ、先程通りすぎた女が肩をつかむ。
「……。くっ、紳士としてあるまじき行為をするところだった…。」
俺は苦虫を噛み潰したかの様な表情をしている事だろう。
なにせ俺は何も服を着用していなかった。つまり裸。全裸。すっぽんぽん。
…まあ、ベッドで身動ぎしている奴も全く同じ格好な訳だが。
「なーにーカッシー。あたし眠いんだけど?」
「何じゃない!今日"部"の定例ミーティングの日だっ。」
「おいっ!クソ、さっさと服着て行くぞ!ユイユイを待たせる訳にはいかん。」
衣装ケースから適当に見繕ったものを着ながら今だに寝てるグズに説教する。
「だ、か、ら!もう小都を待たせてるんだっ!お・ま・え・らの所為でなっ!」
「なんてことだ………。」
ここまでの戦慄をかつて覚えた事があっただろうか?いやない。
「ねぇ、あたし下着でもいい?」
バタバタした朝(※昼)を過ごしながら一階のミーティングルーム兼サロンに三人で移動する。
「遅いよ…二人とも。一時間の遅刻だよ?」
階段から降りてきた俺らを呆れた顔で見ながら中性的な顔立ちの男が椅子に座りながらコーヒーを飲んでいた。
「お荷物リーダー、おっはー。」
「……相変わらず一結さんの呼び方はどうにかなんないの?」
ちなみに我が部の部長様だ。
そんなどうでもいいのは無視して俺は目的を果たすべく一人の少女に真っ直ぐに近づく。
「ユイユイおはよ。今日も可愛いね!オコヅカイをあげようじゃないか。いやいや気にしないで?俺、結構稼いでてさ。これで日子都と美味しいものでも食べにいっておいで?それでまた欲しくなったら言ってね?いくらでもあげるから?ね?」
びくっ!と正に表せそうにして驚くのは我が部のマスコット兼俺のオアシス、唯唯小都。通称ユイユイだ。
小動物的可愛さに可憐な容姿、どっかの誰かと違って正真正銘の清純さ!二つ結びにされた髪のキューティクルも素晴らしいの一言につき、愛称であるユイユイっていうのも可愛らしい。思わずオコヅカイをあげたくてしょうがないのは仕方のない事だと思う。ちなみにユイユイは男の人が苦手でそこもまた可愛い。オコヅカイをあげる時は決して身体には触れず、紳士に上着ポケットに入れなくてならない。そしてユイユイは絶対にオコヅカイを遠慮する為(過去22回の経験より明らか)気にする必要のない理由付けや、彼女である日子都をダシに使い道を提示してやるのも忘れてはならない可愛い。それに今後渡す時の布石も「あ…の……、」
俺は(ユイユイに対してだけ)紳士だ。言葉は一字一句聞き漏らさない。
「あり、がと…う。ござぃ……ま、す。」
可愛い。
「………もっとオコヅカイはいらない?今ちょうど諭吉とケンカ中でさ、三人程引き取って欲しいんだ。なに、気にしなくていいんだ。これで日子都にプレゼントでも買ってあげるとイタッ」
頭に重めの衝撃。顔を上げると俺を起こしに来た時以上の剣幕で槝間日子都が拳を下ろしていた。
「小都が困ってるだろっ!いい加減にしろ残念美人っ!」
くそっ、ユイユイと付き合ってるからって偉そうに。ユイユイはユリカップル略してユリップルなのだ可愛い。
「……。悪かったよ、ただユイユイが可愛いくてさ?解るだろ?」
俺は(ユイユイのry)紳士だ。言葉選びは慎重にする。
「解る。」
俺達は握手をアツく交わし合った。
「ねー、お金余ってるならあたしに「うっせ、黙れクソ。」」
俺はようやく階段から降りたクソの処分を優先した。
「ちょっ!一結さん!?何で服着てないの!!?」
先程は顔だけ見えていたらしく、クソの格好を確認したリーダーは目に見えて狼狽えている。
「興奮すんなよリーダー、ぶっちゃけキモい。」
「リーダーもあんたに言われたかないでしょ、確かにキモいけど」
「えっ……と、部長さ、ん。……………。」
ユイユイは目を反らした。可愛い。
「むっつりお荷物リーダーなんて、どうでも良いのよ!おいっカス!ユイユイとの扱いの差はなんなのよっ!!」
うっせクソ、死ねクソ。
「野乃ーー!みんなが僕を虐めるよぉー。」
我らがリーダーは隣にいた巨乳美人に泣きついた。ぶっちゃけキモい。
「まぁまぁ、みんなも悪気がある訳じゃないのよ?二持君が親しみやすくてついからかってしまうだけなのよ。」
「いや、のの姉さん。あたし自身普通に気持ち悪いですよ。ていうかカス無視すんなっ!」
「ぐはっ!」
知らんクソ、黙れクソ。
「くぎり、茶。」
「はい。主よ、ただいま。」
俺はサロンに来たときからずっと後ろにいたプラチナブロンドの美人にお茶のオーダーを出す。
「ムッキー、あたしココアー。」
「自分で作れクソ、だらけんなクソ。」
「あぁあ"?」
くぎりは俺の好みである玉露を用意していたお湯ですぐに作ると甘さ控えめなお菓子と共にテーブルに並べた。なお、ココアはない。
「ん、うまいな。菓子も合う。」
「光栄です。」
綺麗なお辞儀を披露するとののさんをも超える胸の膨らみを揺らしながら優雅に下がった。
「え~。ムッキーあたしのココアは?」
「主がだらけるな。と仰ったので。」
こてん。と可愛らしく首をかしげた。一切計算されてない所が逆にどことなく卑しく感じる。
「けー、これだもんな~。ムッキーは。」
そう言いながらも自分でココアを入れにいった。最初から自分でやれクソ。
「うー。それでは部の定例ミーティングを始めたいと思います。」
しっかりと彼女に慰めてもらった情けない部長の声により、まとまりのない我が部の一日が始まった。
入学して一ヶ月程経ったある日の事だった。
部長 :宝ヶ原二持
副部長:音蔵野乃
平部員:上解ほとり
一結むずき
槝間日子都
唯唯小都
向片くぎり