10話:歪んだ1×2の3
「さて、行くか。」
ユイユイ観察もそろそろ日子都に煙たがられ始めたので、移動する事にした。
当然の様に後ろに侍るくぎりは良いとして、むずきを起こすという面倒な作業がある。
「おいっ、何時まで寝てんだ。」
足で蹴るが反応がない。
溜め息混じりに反応を示さない重りを担いで二階に上がる。
「ほとり、あんたこんな真っ昼間から寝てる奴相手にヤル気かよ。」
日子都が絡んでくるが、変な勘違いが生まれている。他のメンバーも訝る様な態度だ。
「ちげぇよ、こいつと外に用事があるから着替えさすだけだ。」
そう言って、肩に担いだ物を揺すると「そっか。」と言い興味を無くしたと思えば、
「なぁ、お前らって実際付き合ってんの?」
全身の毛が逆立ち、痒みに襲われる。肩の荷物を今すぐ叩き落としたい衝動にかられるが、何とか耐え。何とか耐え!油のささってない首をギギギと動かす。
「日、子都。世の中には言って良い事と言ったら戦争も辞さない事があるんだぞ?」
「あっ、やっぱ違うんだ。」
納得した様に言うが、何処にそんな悪魔的発想が出てくる要素があるんだ。
「この全身に至る鳥肌を見ても同じ事が言えるか?ユイユイの彼女だからって調子のってると痛い目見るぞ?ん?」
「悪かったわるかった。いやさ、昨日の夜トイレ行こうとしたらお前の部屋からさ『旦那様!好きです!世界で一番お慕いしております!!』『むずき!わたしもだ!お前を愛している!!』って肌をぶつけ合う音と一緒に大声が聞こえてさ。」
あー、もうちょっと防音設備を気を付けるか。
「プレイだけど?」
「いやそもそも、嫌いな奴とエッ…床を過ごせるかって事なんだけど。」
この話題は結構気になる様で、後ろで静かに佇む、くぎり以外はまじまじと見てくる。
「単純に顔が好みだから、俺面食いだし。」
「前、むずきに聞いたときと同じ事言ってら。」
うげ。マジかよ。
「それと簡単な話、愛情と愛欲を一緒にすんな。俺は嫌いなこいつだから欲を完全に満たせるし、好きな奴なら情が邪魔して気を使う事になるだろ。」
「それ、簡単か?訳わかんね。」
分からんでもいいさ。と言って二階に上がると「生々し過ぎて話に入っていけない…。」何て聞こえてきた。
◐
「くぎり、自分とこいつの用意。」
「はい。主よ、ただちに。」
くぎりは良い。言われた事のそれ以上であり、それ以下でもある事しかしない。つまり"言われた事"を"言われた分だけ" "忠実に" "無駄無く"こなす。
一度やらせた事は短いやり取りだけで、判断し反復する。
AIを育ててる気分だが、見た目は従順なプラチナブロンドの美少女だ。仕事も完璧と成れば文句が出るはずもない。
「えーと、カナ先輩から貰ったコートに、カナ先輩からプレゼントされた武器。カナ先輩から渡された不思議アイテム。をカナ先輩に買って貰ったバッグに積めてと。」
ダンジョンではこの世界の物を持っては行けるが、脆いそうだ。鉄の鉛をぶちこもうが全く効かないし、防刃防弾仕様の特殊スーツだろうが容易く切り裂かれる。
そこで出てくるのがダンジョン産の装備だ。明らかに脆そうな金属でもあっちでは鉄の武器より役に立つ。更に既知の法則を逸脱した効果を発揮する事もしばしばある。
という訳で、売買される装備品はアホみたいに高く、この学校にくる生徒がそんな物に手を出せる訳もない。要するに一年は死ねという事である。
「主よ、準備が整いました。」
廊下で待っていると起きたむずきを伴って装備を整えたくぎりが現れた。
「お待たせして申し訳あ「いい。」はい。」
どうせ、むずきを起こすのに手間取ったのだろう。
「ね~、今日は休みたいんだけど。誰かさんの所為で疲れてる、し!」
ギロッ。とこっちを睨むが無視して裏口へ向かう。別にリーダー達に見られても構わないが、見られたい訳でもない。
「今日はくぎり用の魔鉱石が見つかると良いなー。」
「低層だと見つからないって聞いてたけどホントだねー。今日はもっと上いく?」
AIは主に意見しない。謙遜しない。自身の考えは気持ちは語らない。
その後もペチャクチャとむずきと益体もない事を話ながら、侍るだけで喋らない奴も入れ、今日も今日とてダンジョン攻略に勤しむ。
部活メンバーとの出会いや馴れ初め?は大分あとの方になると思います。
とりあえず『むずき』と『くぎり』は書きます。