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ティナが鍵を開けるのに手こずっている振りをしながらようやく扉を開けた。

ゴブリンが3匹店の中に入ってくる。

オーウェンが抗議する様に手を大袈裟に振りながら近付いていく。

「どうしたんですか?今日は貸し切りですよ?」

「報告が有った!この店で重要参考人に似た者が居たらしい!全員動くな!」

「何かの間違いでは?今日の客は旧知の…」

「なるほどお前は重要参考人と旧知の関係と言うわけだな?」

スタンが手を上げて近付いていく。

「こんな夜更けにお疲れ様です。

あなた方の様な方々のお陰で我々も安心が出来るってもんですね。

ところで何が有ったんですか?我々は何も知らない。

実は一昨日まで丸5年もの間離れていたんですよ。」

後ろにマルコスが続く。

ゴブリンは顔を見合わせる。

彼らは基本弱そうな相手に偉そうにすることは大得意だが、一見して強そうな相手に強気に出ることは専門外である。

「俺達も詳しくは知らんが宗教的なシンボルが盗まれたとの事だ。」

サリナが顔を上げる。

「蛮族の二人組を見なかったか?

ノースウエストの騎士の護衛をつけているらしい。

取り敢えず中を改める。通せ。」

オーウェンを見ると頷いた。

「判りました。

ご協力出来ることは何でもしますよ。

我々はどうすれば良いですか?」

「端に居てくれて邪魔をしなければ良い。」

「うちらはどのみち無関係だ。

時間も時間ですし解散しても?」

「……それは俺達で判断する…」

だんだんイライラしてきたようだ。

この辺りが限界と見たのかスタンはアッサリ引いた。

部屋の中を(主に食べ物や飲み物の中を中心に)物色していく。

収納スペースに剣を刺した時にマルコスがうなり声を上げるがスタンが手で抑える。


サリナの所に来たときに状況が動く。

杖を渡すことを拒否したのだ。

隊長格のゴブリンがスタンを見る。

「確認するだけだ。没収するわけでは無い。」

「この杖には呪いがかかってるのよ。

私以外が触ると手が爛れて崩れ落ちるわ。」

「……だそうだが?

彼女は見ての通り魔法使いだ。

何が有っても我々は保証出来かねる。

大体どうみても宗教のシンボルには見えんだろうが。」

ゴブリン同士で何かを言い合う。

が、部下のゴブリンも頑なな迄に動かない。

「判った。ではお前は付いてこい。

判らない事が有れば取り敢えず連れてこいとフィス卿は言っていた。」

「フィス卿?」

「そうだ!我々に逆らうのフィス卿に逆らうのと同じ。

神の神業を使うあの方に逆らえるもの等の存在せぬ。」

「この町に来ているのか?」

「フンこんな不便な所に呼べるか、連行するんだよ。」

「なるほど…オーウェン…悪いな。

マルコス、ダヴィッド良いぞ。」

両手を上げたマルコスが何でもないように二匹のゴブリンに近付いていく。

警戒をしたときには二匹はマルコスに首を掴まれていた。

そのまま頭同士をぶつける。

そして首の骨をへし折った。


隊長格のゴブリンが慌てて剣を抜こうとして動きが止まる。

ドサリと前向きに倒れるとダヴィッドが斧を背中から抜く。


「ティナ、これに日持ちするものを出来るだけ詰めてくれ。


ダヴィッド、マルコス、店内を荒らしておいてくれ。

サリナ、オーウェン来てくれ。」

「まず…さっきの話は本当か?」

ゴクリと喉を鳴らして杖を見る。

「想像にお任せしますわ。」

舌打ちをして続ける。

「奴等の探しているのはあの二人で間違いないよな?」

「ほぼ間違いなく。」

「彼等が盗人の可能性は?」

「無きにしもあらずでは有りますが、私の見立てでは違うと思うわ。むしろ逆なのでは?」

「俺もそう思う。

オーウェン、俺達の村に何故ゴブリンが居る?

しかもデカイ面してやがる。」


「半年ぐらい前に占領されたんだ。

あのフィスって奴に。」

「信じられん!この辺り全域か?」

「あぁ戦いにすら成らなかったよ。

突然飛んできてラディアを呼び、一瞬で消し炭にして一言、ここを占領下とする…だ。

そのあとは奴等の軍隊が入ってきてこの有り様だ。」

「飛んで?」

「言葉の通りだよ。

奴は空を飛んできたんだ。

………ドラゴンの背に乗ってな。」

「何者なんだ?」

「良くは判らん。フィス卿って事はどこぞの国の貴族じゃ無いのか?そもそもこの町は占領する価値が有るとも思えん。

無理な税金をかける訳でも無い。

ゴブリンが入ってきて邪魔臭い位か?」

「それはおかしい…有り得るとすれば…」

「宗教的シンボル…ね。」

「やはりそれか。彼等に話を聞く必要が有るな。」

「ですね。まだ情報が足りなすぎる。」

「取り敢えず湖に出たら北…かな?

湖を渡ればそう簡単には追ってこれない。」

「あの湖を森に馴れていない者を連れて迂回するのは難しいんじゃなかろうか?」

「あぁまぁそうだ……な?」

「…駄目じゃ。それは無しじゃ」

スタンはダヴィッドを見つめた。

「なんじゃ…まさか置いていくつもりか?」

「ダヴィッド俺達にも拠点が必要なんだ。いつ何が有っても帰ってこれるように。」

「老いぼれはもう必要がないと言わんかい!!」

「そんなこと言わないでくれ。」

いつの間にか後ろに来ていたマルコスがダヴィッドを抱え込むように抱く。

「俺達が二人に受けた恩を忘れることは絶対に無い。

俺達にはあんたがまだまだ必要なんだ。

でも俺達も大きく成った。

これからは頼れる偏屈爺として俺達を別の形で支援しては貰えないか?」

「偏屈は余計じゃ!!

汚いぞ?お前ら話を付けてあったな?」

「打ち合わせしていたわけではないよ。

今のはマルコスの偽り無い言葉だ。

ずっと駆け続けだったじゃないか…少しゆっくりしてもいい時期だと思う。」

「この差し迫った所で持ち出しおって…ここで駄々を捏ねたらただの老害じゃないか…」

「すまない…最初はこんなはずじゃ無かったんだが…」


サリナが口を挟む。

「そろそろ行きましょう。

少し長居し過ぎです。今生の別れでは無いのですから……。」

「フン!お前さんはいつも損な所を持っていくな!!」

ダヴィッドの言葉にサリナは少し頬笑む。

「判ってくれる方が居たからですよ。」

サリナなりの感謝の言葉。

ダヴィッドの頬が弛んだ。


「私も行く。」

いつの間にかティナが来ている。

「お願い連れていって!」

マルコスがスタンを盗み見る。

頭に手をやるスタン。

「無理だよティナ…俺達はお尋ね者に成るんだ。

絶対に危険な旅路に成る。」

「もう待っているのは嫌なの!

駄目と言われても付いていく!!

私ルーシアやエレインみたいな女剣士に成るの!」

ティナの口から今は聞きたくなかった名前が上がってスタンの顔が曇る。

「頼むよスタン。

彼女は必ず俺が守って見せる!」

自分達が着く前に何が有ったかスタンは察した。

目をキラキラさせながらマルコスを見るティナを見てまた頭痛の種が増えたことをスタンは知る。

「お前なサリナの事は…」

「私の事は私に出来ます!!

私は兄の付属品では無い!!!」

サリナの鋭い指摘が飛ぶ。

スタンは諦めた。

今は議論をしている状況ではない。


「さて行くか。オーウェン!」

皮の袋を投げる。

「これで足りるな?

余ったら改装費用に回してくれ。

俺はもっと柔らかい座り心地が好きだ。」

オーウェンもニヤリと笑う。

「次に来るときは頭迄埋めてやるよ!!」


「取り敢えずダヴィッドの家に向かう。

皆荷物は持ってきているな?」

「大丈夫だ。」

「よし行くぞ!」


外に出ると隣の樹から呼び子が鳴った。

!!!?

「チッ!!」

舌打ちをすると一旦戻ってティナを羽交い締めにする。

「狂言強盗にしないとオーウェンがまずい。

巧く怖がってくれ。」

小声で囁くと短剣を首筋に当てる。

樹の下に降りると敢えて別の方向に向かい枝と葉を死角にして回り込むようにダヴィッドの家に向かう。

ティナがなにも言わずに着いてきてくれるのが助かる。

顔は青くなっているが、頭のいい子だとスタンは感心した。

ダヴィッドの家に着いてコンコンコンコンと鳴らす。

すぐに開いてダヴィッドが顔を出す。

「皆はもう行かせた。

外に見張りがおったようじゃな。」

スタンは逡巡した。

ダヴィッドは見た目が判別しやすい。

入り口を見張っていたとすると…残して行って大丈夫なのか?

否、危険過ぎる。

水上の移動を決意したことに後悔をするも後には立たない。

最悪気絶をさせてでも舟に乗せる決意をした。

「ダヴィッドすまない。

やはり来てはくれないか?」

ダヴィッドは顔をしかめる。

「ボート…じゃろ?」

「ボートじゃない舟だ。」

焦る気持ちを抑える。

「お前も知っちょろうが!

ワシがどんなに死にそうな想いを……」

「あそこは足がちゃんとつく深さだった。

それに皆側に居たしあれはちょっと溺れかけただけだ。」

辛抱強く言い聞かせる。

「約束する。あのときのようなことは起きない。

ちゃんとポップスはマルコスに捕まえさせておく。

ここは危険だ。

ゴブリン達は外に見張りを置いている素振りは無かった。

つまり密告者はダヴィッドの事を知っている可能性がある。

恐らく途中で手紙を持ってきた奴が怪しい。

得体が知れないんだ。

何をされるか判らない。」

ダヴィッドがゴクリと喉を鳴らす。

「儂はお前らの事など話したり…」

「そういうことじゃないんだ。

判ってくれ。俺はあんたを気絶させてでも連れていく。

俺に俺の一番大事な人を傷付けさせないでくれ。

頼む。」

頭を下げる。

「お前は頼んでばかりだな…たまには年寄りのワガママを聞いてくれても良いのに…」

「そりゃあんたが俺の特別なんだからしょうがない。」

ダヴィッドは溜め息をつく。

「10分くれい。」

「5分なら」

ダヴィッドはぶつぶつ言いながら奥に入って身支度をしていく。

3人が家を出たのはきっかり5分後だった。


湖に抜ける小路に向かいながらスタンは後ろを振り向いた。

帰郷は帰ってくる時に考えていたものとは全く違うものに成ってしまっていた。

ゆったり流れる時間。

親友達との和やかなやり取り。

そして伝える筈だった。

覚悟は出来たよ…と。

俺は君を………。

そして………。


本当に予定とは違うものにに成ってしまった…。

おぼろ気に木々を塗って漏れる光。そしてけたたましく鳴る笛の音。

スタンは溜め息をついて二人の後を追った。

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