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10分程で細い道に出る。
3人で待っているとスタンが出てきた。
殆んど休まず歩き出す。
1時間程で一度足を止める。
「ポップス」
「ハイな。行ってくるね。」
阿吽の呼吸が格好いい。
10分程で戻ってくる。
「多分ここはまだ大丈夫みたい。」
「よし取り敢えず行こう。夕方に何時もの処で。
ユウキは僕と一緒に来るので良いかな?」
無論異論が有る筈もない。
少し歩くと雰囲気が変わった。
良く見ると樹に梯子が掛かっている?
そのうちの一本にポップスが登っていく。
眼で追いかけると………凄い!!
なんと樹の中腹に家が有る!!!
それも一軒二軒では無い!!!
太い枝同士には板が置かれて樹上で往き来も出来るようだ。
家迄の高さは10mはあろうか?
エルフ?頭に過って少しテンションが上がる。
それを見ていたスタンが肩を叩く。
「どうだい?見ものだろう。
君はこっちだ。」
何本か隣の樹に登っていく。
この樹には樹に沿って螺旋階段の様に成っている。
「高い所は大丈夫かい?
足元に気を付けて。苔の所は滑るぞ?
大分空けていたから全然手入れされていないんだ。
家の中も恐らくお察しだな。」
どこか表情も柔らかく見える。
鍵を開けて家に入ると埃が舞った。
簡素ながら思ったより広く感じる。
窓を開けると爽やかな風と気持ちの良い鳥の鳴き声が入ってきた。
思ったより気密性が高い様だ。
ニットの様な帽子を脱ぐとひょこりと長目の耳がのぞいた。
あっ!…ってことは…エルフ…?
でも色々違和感有るなぁ。
聞いても大丈夫なのかな?
「何もなくて悪いね。
これに座って。何か飲むかい?」
備え付けの様に成っている机の横に椅子を持ってきてくれる。
隣の部屋に入って暫く経つと昨日も出してくれたハーブティーを持ってきてくれる。
一口啜ると前に椅子を持ってきて座った。
「さて………話してくれるかな?」
優しい顔付きのままスタンは言った。
「僕も良く判っては居ないんです。」
否定も肯定もせず眼で話の続きを促してくる。
隠し通すのは無理だな…。
むしろこの人に力に成って貰うしかない。
「異世界って分かりますか?」
「イセカイ?」
「これから話す事は全て確信が有ることではありません。
でも嘘はつかない事だけは誓います。」
「判った。取り敢えず信じるよ。」
そして僕は別の世界に住んでいた事。
突然昨日会った場所に居たことを話した。
「うーん…正直信じがたい話では有るが…それで納得のいくところが多すぎるな…。
幾つか良いかな?」
頷くと続ける。
「そういう…異世界転移?ってのは良く有ることなのかい?戻ってきた人が居るとか。」
「いや、少なくとも僕の知っているなかでは無いです。
ただ、創作だとは思いますが、そういう物語は結構有って、たまたま僕も何作か読んだ事がありまして……」
「なるほど、ちなみに言葉はどうして判るんだい?」
「その辺も定番なんですが、判るとしか言えないです。でも文字は読めない設定が多いかも。」
「ほう……。ソレデ ソノフクヤ カバンハ ムコウノモノナノカナ?」
突然声のトーンが変わる。
「はい。僕は向こうでは学生でして、その帰りだったので大したものは持ってはいませんでしたし、鞄の中身は別の物に変わってしまっていたのでそれで証明は出来ないのですが。」
スタンは面白そうな顔をする。
「今おかしな所は有ったかい?」
??
「実はね、今別の言語を混ぜたんだよ。
でも普通にユウキは聞き取れていて、キチンと返している。
更に言うと返す言葉は共通語なんだな。」
「あっ!なるほど!!」
確かにそれは凄い事かもしれない。
当たり前と思っていたから初めて気付いた。
って事は………
「コレハドウキコエマスカ?」
真似をしてみる。
するとスタンは初めて破顔した。
「あーっはっは!
成る程そう聴こえたのか!!
でも残念。
変な訛りの共通語にしか聴こえないね。」
あー成る程残念。
通訳で食っていけるかと思ったのに。
「へめ、からひだえぢ?」
えっ?何て言ったんだ?
「あっと…すいませんもう一度良いですか?」
「成る程成る程、ちょいと暗号の様な物で言ってみたんだよ。
どうやらこれは伝わらないみたいだね。」
この人順応性有りすぎだろ?
何で次から次へとポンポン出てくるんだ?
ポップスの言っていた言葉の意味が理解出来た様な気がする。
「でも転移?ってのは君が望んだわけでは無い以上誰かがしたということだよね?心当たりは有るのかい?前の世界ではどの様に伝わっているのかな?」
「はぁ…多いのは女神様とか後は王族とか…」
「何のために?」
「うーん…魔王や魔族と戦う勇者とか?
最近は色々有って単純に国同士の戦争の道具として喚び出すってのも有りました。」
スタンの表情が変わる。
「戦争?」
「はい。大体の場合転移するときにチートな能力を授かっていて、それで喚び出した国を色々助けたり…利用されたりみたいな…。」
「チート?」
「反則みたいな能力です。凄い身体能力が備わったり、凄い魔法が使えるように成ったり、元の世界の知識や技術を色々使ったり…」
「フム…いきなり?君は?」
「えっとそれが………判らなくて………。
正直さっきの話で翻訳が要らない事に気付いたのが精一杯です………。」
「情けない顔をするなよ。
きっと君にも何か有るんじゃないか?
これから探して行けば良いさ。」
「さて、取り敢えず何か軽く食べて少し横に成ろう。
夜は私の仲間達に会うことに成っている。
そこには頭が私とは出来が違う奴も居るから何か判るかもしれない。」
そう言えば朝から何も食べていなかった。
葉で良く見えないが外は完全に日が昇っているようだ。
繁華街とはいかないが多少の喧騒も聴こえてくる。
スタンは立ち上がると着ていた皮鎧を脱ぎ、身軽な格好に成って先程の部屋に入っていった。
「あの…何か手伝えることは…」
覗き込むと鉄板で囲まれた様に成っている部屋で火を起こしていた。
「あぁ取り敢えずゆっくりしていなよ。
今日の所は君はお客さんだからね。
それともう一つ。
色々疑って悪かったね。
まだ完全に君を信じていると言うわけにはいかないのは赦して欲しい。
だがそのお詫びに旨いものをご馳走しよう。」
そこで初めて僕は警戒をされていたことに気付いた。
言われてみれば色々気付く事もある。
取り敢えず面接には失敗しなかったようだ。
朝?昼食はベーコンとチーズの様な物が入ったリゾットの様な感じの物だった。
塩と胡椒もふんだんに使われていて食欲をそそる。
「野菜が有れば良かったんだがな。
まぁ今日の所は勘弁してくれ。」
「とんでもないです!!
何から何まで本当に申し訳ありません。」
食べ始めると如何に空腹だったか判る。
ペロリと平らげた。
「お代わりはいるかい?」
「すいません。」
「私からすれば子供の様な物だ遠慮するな。」
2杯目を食べ終わろうとする頃スタンが顔を上げた。
ドンドンドン!!
扉を叩く音がする。
スタンの顔が少し険しくなる。
僕に口に指を当てて見せるとと扉から外に聞き耳を立てる。
後ろ手に短剣を持っている。
「おい!!誰か居ないか!?」
返事をしないと取っ手をガチャガチャする音がする。
「なんだか旨そうな匂いがするな?
一応中を調べていくか?」
「いや、止めておこう。
見ろ、魔法で封印してある印が付いてる。
面倒な事になるのはゴメンだ。」
暫くして階段を降りていく音がする。
しばらくそのままの態勢でいたあと緊張を解く。
「ゴブリン……だと?…町の中に??」
少し考えた後
「ユウキ取り敢えず寝ておけ。
この毛布を使って良い。
日が落ちたら行動を始める。
まだもしかしたらだが、ゆっくりは出来なく成った可能性が有る。
良いか?少し出てくるが出来るだけ早くに戻る。
鍵は掛けて行くから閂はしないでおいてくれ。
万が一無理矢理入ってこようとする輩が居たら抵抗はするな。
ここは知り合いの家で留守番しているだけだと、すぐに帰ってくると言っておけ。」
そう言うと外に出て行った。